8話 『嫌な予感』
浮気が広まってからというもの、胡桃は学校に居場所がなくなった。
教室ではクラスメイトから軽蔑の視線を向けられ、常に悪口が聞こえるような状態。
話しかけてくる人は大体、胡桃のことを馬鹿にしてくる者ばかりだった。
だから胡桃は昼休み、図書室に向かうのが日常になっていた。
図書室なら人が少なくて静かだし、胡桃にとって唯一の心休まる空間だった。
今日もいつものように、胡桃は三階の図書室に向かっていた。
「笹山礼二先輩って……」
聞き慣れた声で、聞き慣れた名前が聞こえた。
恭太が、礼二について何かを聞き回っていたのだ。
(なんでそんなこと……)
一つしかなかった。
恭太は言っていた。胡桃に復讐をする……と。彼が礼二について詮索するなんて、それ以外に考えられなかった。
会話の内容はよく聞こえなかった。
けれど恭太は何人もの生徒に聞いて、その度に頭を下げていた。
(だから無駄だって言ったのに)
胡桃は心の中で恭太のことを嘲笑った。
何を企んでいるのか分からないが、胡桃は礼二がいる限り学校中の生徒に嫌われても問題ない。その言葉に嘘はなかった。
礼二のことを調べても何も変わらない。
まさか恭太が自分と礼二の関係の破壊を望んでるなどとは知らずに、胡桃は図書室に向かおうとした――そのとき、
「ありがとうございます!」
はっきりと聞こえた。
恭太は満足したような笑みを浮かべて、お礼を告げていた。
何か情報が得られたのだろうか。胡桃は影から必死に耳を澄ましたが、いまいち聞こえない。
結局何も分からないまま、恭太は立ち去ってしまった。
(……まさかね)
余裕ぶっていた胡桃は、何か嫌な予感を抱いた。
そしてその予感はすぐに的中したのだった。
× × ×
「ねぇ、胡桃ちゃん」
「なんですか、先輩?」
「俺たち……別れない?」
「…………え?」