6話 『公園』
女の子を道端で泣かせっぱなしにするわけにはいかないので、恭太は近くの公園に来て美里亜を慰めていた。
「ごめん、ありがと。落ち着いてきた」
美里亜はぐぐっ、と伸びをする。
「こんなに泣いたの久しぶりっ、ごめんね……取り乱しちゃって」
「俺の方こそごめん、いきなりあんなこと言って……」
「だから大丈夫だって。三橋君の事情も分かるし、むしろ良かったじゃん。先輩の浮気の証拠、探してたんでしょ?」
「……でも」
美里亜は亜麻色の髪を揺らして、空を見上げた。
「考えてみれば……色々おかしかったんだよね」
何かを思い出すように、悲しげな顔を浮かべた美里亜は続けて言う。
「先輩、付き合っても全然会ってくれないし。付き合ったこと友達に話そうとしたら止めてくるし……」
どうやら美里亜は薄々感じていたらしい。
付き合っているはずなのに、礼二の態度がそっけなかったと。
「今日だって……わざわざ学校から離れた場所で待ち合わせしよう、って……どう考えたっておかしかったのに……」
次第に声が掠れて美里亜は涙目になる。恭太は慌てて背中を摩って慰めた。
「気づきたくなかったから……今日まで、ずっと。先輩にも事情があるんだろう、って。考えないようにしてた……」
美里亜は鼻を啜って深呼吸する。恭太は背中からそっと手を離した。
「三橋君は……何をするつもりなの?」
美里亜は尋ねた。
少し赤くなった目で真っ直ぐ恭太を見つめて。
その目には決意が宿っていた。
「俺は……胡桃と笹山先輩を別れさせたい」
「……そっか」
美里亜は小さく微笑んだ。
座っていたベンチから立ち上がると、再び大きく伸びをして言った。
「私も手伝う」
「……え?」
「……と言っても、邪魔するわけにはいかないから……はい、これ」
美里亜は恭太の前に携帯を突き出した。
画面には大きくQRコードが映っていた。
「……これ」
「私の連絡先。何かあったら連絡して? 力になるからっ」
恭太は申し訳なくなった。
美里亜には何の義理もないのに、むしろ最低な態度をとって傷つけたのに、手伝ってくれると言う彼女を前に罪悪感が込み上げてきた。
「……でも、俺」
「そーゆーのいいから。ほらっ、携帯貸してっ」
美里亜に携帯を取られる。
返されたときには彼女の連絡先が登録されていた。
「返信遅くなるかもしれないけど、気軽に連絡してね」
「……ありがとう」
「それにほら、今の私の気持ちを分かってくれる人……三橋君しかいないし。私も困ったことあったら連絡するから、その時は力……貸してね?」
「……もちろん」
柔らかく微笑む美里亜に、恭太はただ感謝するばかりだった。
「……じゃあ、今日はなんか……ごめんね。ありがと」
「俺の方こそ……本当にありがとう」
「またねっ」
美里亜は手を振って立ち去って行く。
恭太は複雑な思いで、その背中を眺めていた。