45話 『刃先の行方』
「なんだか久しぶりな気分ね。三橋くん」
結論から言うと、恭太の予想は的中していた。だから自身の胸に向かって来る刃物も読めていて、避けた恭太に目を剥く胡桃の表情も想定済みだった。
正当防衛。
恭太はこの数日、その定義について調べていた。やむを得ない自衛のためなら本来罰せられるべきことも罪にならない。ただし、過剰な防衛は例外。
極端に言うなら、素手で殴りかかってきた相手に銃で撃つのは犯罪、というわけだ。
ならば、その境界はどこにあるのか。実例として、命の危機に直面して自衛のために犯人を攻撃し、殺してしまったが罪に問われなかった例があるらしい。
もし胡桃が殺しに来るのなら、その状況を再現できるのではないだろうか。
胡桃は避けられた焦りからヤケクソに刃物を振り回す。
恭太は情けない声を上げ、けれど心は冷静に、胡桃の腕を掴むと押さえ込むように身を寄せた。
胡桃は暴れる。獣のように歯を剥き出しにし、刃先を恭太に刺そうとする強い意思が、柄を握る強さから感じられた。
けれど仮にも男女。特別力が強いわけでもない二人である。結局、性別による力差が恭太に軍配をもたらした。
一瞬、胡桃の動きがピタリと止まる。刃先は無惨に胡桃の腹を突き刺していた。
恭太はわざとおどけたように後ずさる。顔を青くすることはできずとも、精一杯の焦りを作った。
「……う…、……あぁ………」
胡桃はお腹を抑えて膝を落とす。口から血が流れるのが見え、それを遥かに上回る量の血が、腹の刺し口から溢れていた。
もう攻撃する余裕は見られず、ただその痛みに堪えるように呻いている。
胡桃は助からない。素人目に見ても分かった。
「胡桃!!」
胡桃が生きるか死ぬか。そんなことはどうでもいい。
恭太の意識はただ一つ。一部始終がしっかりカメラに収まっているか。ただそれだけが心配だった。