43話 『自殺のその後』
「先輩!! 先輩!!!!」
(どうしてこうなっちゃうのかなぁ)
呆然と、どこか他人事のように、美里亜は惨状を眺めていた。
昼休み。突然外から女生徒の叫び声が聞こえたかと思えば、誰かが地面に血を流して倒れていた。
そしてそれが礼二であると、美里亜は三階の窓からでもすぐに分かった。
現実を受け入れたくなかった美里亜はしばらく見て見ぬふりをしようと自席を離れなかったが、やがて明らかな慟哭の声が聞こえると、すでに多く集まっていた野次馬に美里亜も加わった。
胡桃が泣き叫んでいた。周りの目を一切気にせずに、内の想いを全てさらけ出すような、酷い酷い姿だった。
(三橋くんは……こんな結末を願ってたの?)
どんなに酷い仕打ちを受けたからと言って、その返しに死ぬまで追い込んでしまえば、もはやどちらが悪か――恭太の方が残酷に見えてしまう。
結果として胡桃に復讐ができれば、恭太は己の全てを失っても――
美里亜は肌が粟立つのを感じた。
もし、礼二の自殺の原因が学校での仲間はずれだとして、一般的に悪だと咎められるのは誰だろう。
美里亜目線、恭太の目論見を全て知るため、礼二の自殺を誘発した恭太が悪だ。
けれど、何も知らない者――そもそも恭太の復讐劇の存在自体を知らない者からすれば、礼二の浮気を理由に彼を最低な人間だと罵倒した者らが原因。浮気を流した恭太が最も悪、にはならないだろう。
つまり、礼二を死に追いやる行為の結果、直接的に恭太へ降りかかるデメリットはない。むしろメリットばかり。
だから礼二を自殺に追い込んでも問題ない。もし恭太がそう考えてこの結末が狙ったものだとしたら、もう手遅れだ。
恭太はすでに、越えてはいけない一線を裕に飛び越えていたのだった。
× × ×
道は他にもあった。
礼二が学校を辞めるか、参って胡桃と別れるか。けれど恭太はもう一つの選択――彼が自殺をしても仕方ないと思った。
それはそれで、礼二と胡桃の関係が終わればいい。恭太の思考は狂気に満ち、本人の自覚がないほどにその心はもう後には戻れない深い深い奥底まで堕ちていた。
(胡桃が厄介だな)
恭太の思考には既に礼二の障害は除かれ、次の胡桃の行動を予測するのにシフトしていた。
礼二の自殺を前に、胡桃は誰を恨むか。彼に詰めより仲間はずれにしたクラスメイト、そんなはずはない。
間違いなく恭太に矛先が向くだろうと、それは当の本人が一番分かっていた。
「胡桃が何をするか……か」
愛する者の死だ。当然それ相応の恨みをぶつけに来るだろうと、恭太は一つの予測を立てた。そしてその"予測"に対応できるように、何か準備を始めた。
「これでよし、と」
録画の回した携帯を、玄関口の片隅に置くのだった。