41話 『あの日の場所』
母にお遣いを頼まれた恭太は、帰り道にあの日のことを思い出していた。
胡桃の浮気を目撃した日。あの日も、こうして母に頼まれたお遣いの帰り道だった。
期間限定のセールを目的にわざわざ遠くのスーパーへ行き、胡桃と礼二がラブホテルから出てくるのを目撃してしまった。
運が悪かったわけではない。むしろあの時鉢合わせたからこそ浮気を知ることができた。
そして復讐を誓い。順調に計画を進め、今朝も大げさに噂を撒いた。後悔はない。美里亜には止められ、諒には心配をされ、けれど恭太は後ろを向く気はなかった。
(……絶対に復讐を成功させる)
あの日の現場を見て、その決意はより深く刻まれた。
恭太は近道である路地を抜けてホテル街に出る。中良さげなカップルとすれ違いながら、今日は一度も足を止めることはなかった。……が。
(……あ)
ホテル街を出てからしばらく歩いて信号に捕まった時だった。横断歩道を挟んだ向こう側で見慣れた少女と目があった。胡桃だ。
恭太は一瞬青に変わった信号に気づかないほど気を取られてしまったが、すぐに冷静になって歩みを進めた。視線を向けることなく胡桃とすれ違う。……つもりだった。
「ねぇ」
予想外にも胡桃に声をかけられて振り返ってしまう。長い睫毛の瞳がこちらを向いていた。
「なんだよ」
「何を企んでいるのか知らないけど、無駄よ」
「あ?」
「前にも言ったでしょう? 私は先輩がいればそれでいい。他の何を失ったって怖くない」
今朝に中絶を噂されての事だろう。
胡桃は凛とした顔つきで言い放った。
「この前は浮気されてたけど、今の先輩は正真正銘私だけの恋人。もう諦めなさい」
これ以上噂を広めても胡桃は気にしない。それは恭太にも分かっていた。
だからもう諦める……当然そんなはずはなく、胡桃に忠告された恭太は不気味にも笑みを浮かべていた。
「先輩がいれば……ね」