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40話 『後戻りはできない』

「どうせすぐ飽きますよ。少しの辛抱です」

「……」

「大半の人は私たちに興味ありませんから。周りが攻撃してるから便乗してるだけ。嫌われ続けるとしても、今みたいに直接何かを言われるなんてことはなくなりますよ」

「……」

「それより、週末どこか行きませんか?」

「……」

「気分転換にもなると思いますし、そうですね……遊園地? 無難に映画とか? 先輩は何かしたいことありますか?」

「……」

「先輩?」


 胡桃が語るのを礼二は黙って聞き続けていた。胡桃が何度も名前を呼ぶと、礼二はハッとしたように顔を横に向けた。


「ど、どうした?」

「……聞いてなかったんですか? 週末の話です。先輩はどっか行きたいところありますか?」

「週末……週末……か」


 そう何度か呟くと礼二は再び上の空になった。何か思い悩むような闇を表情に濁していて、胡桃はそんな彼の異変を悟って尋ねた。


「学校……辛いですか?」

「……」

「私は先輩がいてくれたらそれで十分です。先輩は……私がいても力になれないですか?」

「…………ごめん」

「……だ、だったら! だったら尚更気分転換しましょ! 週末、どこ行きたいか教えてください」

「ごめん、胡桃ちゃん」

「えっ?」


 礼二は小さく胡桃に頭を下げた。


「……少し、考える時間がほしい」

「考える? 何をですか?」

「ごめん」


 胡桃には分からない謝罪を繰り返して、礼二は足早に立ち去った。

 胡桃は状況を飲み込めぬまま、礼二の後ろ姿はもう見えなくなっていた。



 × × ×



『恭太、後で時間あるか?』


 そのメッセージを見て、恭太は屋上へ向かった。鉄製の重い扉を開けると、冷たい空気と共に一人の男が視界に入る。

 諒だ。恭太は昼休みに諒に呼び出された。諒は恭太の顔を見ると小さく笑みを作った。


「ちゃんと寝れてるか?」

「え? あぁ、まあ」

「そっか」


 そう一言尋ねると諒は無言になる。フェンスに肘をかけて遠くの景色を眺めているようだった。

 恭太は呼ばれたからには何か用件があるのだろうと、しばらく待っていると諒はこちらに向き直った。


「恭太が広めてるんだよな。花咲さんたちのこと」

「……あぁ」

「それも復讐……なんだよな」

「……そうだ」

「……恭太は、それでいいのか?」

「え?」


 諒は恭太の目をまっすぐと見た。


「噂を広めて、どんどん花咲さんを追い込んで、恭太は満足してる?」

「……なんだよそれ。まさかお前まで復讐をやめろって言うのか?」

「違うよ。なんて言うか今の恭太、凄く辛そうだから……」

「あ?」


 そんなの当然だろ、と怒りが湧き出す恭太にお構いなしに諒は続けた。


「復讐って、恭太が報われるためにやるんだろ?」

「……」

「なのに今の恭太は報われるどころか復讐すればするほどおかしくなってる」

「……何が言いたいんだよ」


 顔を拒めて睨む恭太に諒は優しく言った。


「何か利益があるから復讐してるはずなのに、俺には恭太が失うものの方が多く見えるよ」

「……」


 胡桃に復讐することで得るメリットよりも恭太へのデメリットの方が大きい。ならばそれは復讐することで損をしているのではと、諒が言いたいのはつまりそういうことだった。


「恭太が満足するって言うなら、俺は止めないけどさ。このまま復讐を続けることが、恭太にとって一番の選択なのか?」

「……当たり前だろ」

「……そっか」

「胡桃と笹山礼二は復縁した。このまま放って二人で幸せに、なんてあり得ない。絶対に壊す」

「……」

「止めんなよ。もう後戻りはできない」

「……」


 諒は恭太を止めるつもりはなかった。ただ、初めて見る恭太の憤怒を練り固めたような形相に諒は動揺して言葉を返せなかった。

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― 新着の感想 ―
[一言] どっちも意地でもやめないからね 謝ったら負けでも 周りが真実知ったから勝ちねも どっちかで満足してたら問題ないのに
[気になる点] これは説得って言うより追い詰めてるでしょう 怨み、辛みは損得じゃなく晴らす為に行うし 友人として自身が見てて辛いからと止めていれば…
[一言] 何処までやっても満足しないなら、もう相手が死ぬまで止められないのでしょう。 後々に後悔すると明言されてるから、愚かなことやってるなぁと思ってしまう。 復讐の虚しさがテーマならそれでいいのかな…
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