4話 『次いつ会えますか?』
「美里亜ちゃん、何か食べたいものある?」
「礼二先輩の好きな物でいいですよっ!」
「んじゃ、適当になんか持ってくるねー」
二年B組、矢吹美里亜。彼女は笹山礼二と付き合っていた。
(先輩の家で二人きり……これってもう、そういう流れだよねっ!?)
付き合って一ヶ月。予定の都合で中々会えず、家に来たのは今日が初めて。大好きな礼二とのもしもの展開に、美里亜はそわそわして落ち着かなかった。
――ヴヴヴ、と通知音がなった。
机の上に残された礼二の携帯だ。何気なく画面を覗いてしまった美里亜は言葉を失った。
『先輩、次いつ会えますか?♡』
画面に表示されたメールの通知。礼二に宛てられた文章の末尾には、ハートの絵文字が添えられていた。
「これって……」
「ごめん、お待たせ。美里亜ちゃんチョコ好き? 色々取ってきたから好きなの食べていいよー」
「……先輩」
「ん?」
「花咲さんからメール来てますよ」
「……え?」
慌てて携帯を手にした礼二。
恐る恐る美里亜に向けた顔は青ざめていた。
花咲胡桃。
宛名に記されたその名を、美里亜は見逃さなかった。
「これは……その、仲がいいただの後輩なんだけどさ、妙に懐かれちゃって……たまにこんなメールがくるんだ……はは…」
「花咲さん、浮気してるって昨日学校で騒がれてました。相手……先輩だったんですか?」
わざとらしく誤魔化そうとした礼二だったが、美里亜が胡桃を知ってることがと分かると、諦めたようにため息を吐いた。
「……ごめん」
ただ一言。視線を合わさずに礼二は謝罪を溢した。
美里亜は手を高く振りかぶる。
礼二は目を瞑った。
けれど、その手が振り下ろされることはなかった。
「……いつからですか」
「……四ヶ月前くらい」
「あはは、私より……全然前じゃん」
美里亜の頬を涙が伝った。咄嗟に礼二に見られぬよう振り返った。そしてそのまま部屋を飛び出した。
最初から嘘だった。美里亜は本気でも、礼二は元より本気で付き合う気なんてなかった。
それなのに関係の進展を願って、期待して。自分だけ馬鹿みたい、と美里亜は涙が止まらなかった。
「なぁ……あんた、矢吹美里亜さん?」
礼二の家を飛び出してすぐ、美里亜は声をかけられた。
「あ、えっと……ごめん」
涙でぐちゃぐちゃになった顔で振り向くと、男は申し訳なさそうにした。
彼は――三橋恭太だった。
今話は少し短いので、本日の夜にもう一話投稿します。