39話 『かつての友人』
中絶をしてすぐ、そのことが学校中に広まった。言わずもがな犯人は恭太。すでに多くのクラスメイトが認知していて、朝から二人は責められた。
今さら何を言われようが既に浮気がバレた時点で全てを失っていた胡桃にとって、それ以上痛みが増えることはなかった。――が、どうやら礼二は違うようだ。
「今さら何を広められようが……別に。とっくに私たちの居場所なんてなくなってましたから」
「……そうかもしれないけど」
校舎内の人気がない場所。昼休み、二人は逃げるようにそこに集まっていた。
礼二が思い悩む顔つきで言う。
「辛くはないのか? 悪口言われて、誰からも相手にされなくて……」
「平気です。私は先輩さえいればそれで十分ですから」
「胡桃ちゃん……」
真っ直ぐな好意を前に、礼二はそれ以上何も言えなくなった。
「そろそろ時間ですね」
「戻ろっか」
階段で別れようとしたところで、胡桃が何かを思い出したように足を止めた。
「今日一緒に帰りませんか?」
「いいけど……方面が違うんじゃ?」
「遠回りするから平気です」
浮気をされてもなお胡桃が礼二にこれほどの好意を抱いているのはなぜだろうと、礼二は他人事のように思うのだった。
× × ×
学校に行きたくない。クラスメイトには馬鹿にされ教師にすら距離を置かれ、笑い声が聞こえるたびに自分が笑われてるのではないかと気になり気が滅入る。
それは元々カーストの上位に君臨してた礼二だからこそ、ダメージは大きかった。
今まで虐められることなんてなかったし、むしろあるとすれば虐める側。いつだって自分が立場の低い側に回ることなんてなく、恵まれた礼二は常に目立って他者を見下す側にいた。
だから礼二は今の状況が辛くて仕方なかった。けれど全て自業自得。どうしようもない。学校を休もうにも単位を落とすわけにもいかない。
かといって『礼二さえいればいい』という胡桃のように何か唯一の拠り所があるわけでもない。ただただ今の状況に耐えるしかない礼二の心は日が経つにつれすり減っていった。
「礼二? もうとっくにブロックしてるわ」
「ははっ、だよな」
「あいつと絡んでると、俺たちまで除け者扱いされるからな」
「お、おいっ……」
「「「あ」」」
かつてなら友人と呼べた部活仲間。退部を決め部室に残した荷物を取りに来た礼二は鉢合わせてしまった。気まずそうに視線を逸らされ、男たちは礼二の真横を通り抜ける。
「……聞かれてたんじゃね?」
「まあもう別にいいっしょ」
「だな」
空になった部室で用を忘れたように礼二はしばらく立ち尽くしていた。