38話 『噂話』
仲睦まじそうに身を寄せ合って女が三人歩いている。一人は月島由香……もう二人は中学の同級生(うち一人は転校前のクラスメイト)で三人は久々に再会していた。
「そろそろお昼にする?」
「ねぇ、行きたいとこあるんだけどいーい?」
「美桜の薦める店……怪しいからナシ」
「えー?」
たわいない会話をしながら人気のスープカレー店に足を運ぶ。席に着いてしばらくして、月島の元クラスメイトの一人……染谷美桜が何かを思い出したような仕草を見せた。
「……そういえば」
二人の視線が美桜に注がれる。
「礼二、女の子妊娠させちゃったらしいよ」
「えっ!?」
月島……じゃない方の女――桐井みどりは驚きのあまり飲んだ水がむせて咳き込む。
当の本人、由香は落ち着いた様子でみどりの背中を摩りながらも内容には興味を示しているようだった。
「なんか後輩?の子みたいで。礼二が浮気してたうちの一人だったらしいけど」
「……大丈夫なの?その子」
「それがさぁ、その子はその子でまたかなり訳ありでさ」
美桜は眉間に皺を寄せて続けた。
「浮気だよ。その子も礼二も……浮気者同士で、ってわけ。最悪でしょ?」
「うわっ最悪……」
「同情する価値もないわね」
月島はバッサリと切り捨てた。
美桜は噂好きだ。食い入るように話を聞いてくれる二人に嬉しくなったのか、さらに饒舌に話を続けた。
「もう今日学校中がその話題で持ちきりでさ。二人とも異性人気すごかったらしいし。……まあ、今は関わる人すらいなくなっちゃったみたいだけど」
「自業自得ね」
「ろくでなし!だとか人殺し!だとか……さすがに人殺しは言い過ぎだと思ったけど。陰で酷い言われようだったよ」
「人殺し……?」
「……あっ、そっか」
まだ言ってなかったんだと美桜は少し調子の下げた顔つきで述べた。
「もう中絶しちゃったんだって。仕方ないんだろうけどさ」
「……だから人殺し」
「確かに……そう捉える人がいても不思議じゃないのかもね」
二人は納得したように頷く。美桜はそっと月島の手を上から包んだ。
「……だから本当に良かった」
「……?」
「あのまま礼二と付き合ってたらさ、由香にも何か起こってたかもしれないじゃん?」
浮気された状態で交際が続いていたのはもちろん、月島が妊娠……ということが起こり得たかもしれない。
「浮気されてたのは気の毒だけど……由香にならもっといい相手が見つかるだろうし!」
「そうそう! そんな奴のことなんか忘れちゃえって!」
「……ありがとう二人とも」
励ましてくれる二人に月島は笑みで返す。
「でも思ったより元気そうでよかった!」
「……え?」
「由香……もしかしたら落ち込んでるんじゃないかって。一日思いっきり遊べば少しくらい気分転換になるかなって思ったんだけど……」
「むしろいつも通り、って感じだね」
「……そうだったのね」
二人の心配には及ばず、月島はとうに礼二のことを吹っ切れていたようだ。
その後も三人の時間は続き、その日は暗くなるまで遊び尽くすのだった。