36話 『検査結果を経て』
「……先輩、私は怒ってません。全部、嘘を吹き込んだ三橋くんが悪いんです」
「ごめん……胡桃ちゃん」
「他に男なんていない……そう分かってもらえただけで、私は満足ですから」
「……本当にごめん」
「だから、また私と付き合ってくれませんか?」
――うん。分かった。
× × ×
数日後、検査結果から胡桃の妊娠相手が礼二であると確定した。
当然、胡桃に嘘をついていると責めた礼二は謝罪をし、胡桃は好機を見て復縁を成立させた。
どんなに酷い態度をとられてもまだ礼二への好意は残っていたため、結果的に胡桃にとって都合のいい結末だ。
クラスメイトに嫌われ、家族からの信頼を失い、けれど礼二さえいればそれでいい。
恭太に全てを奪われた胡桃は、一番欲しかったものを取り戻したのだ。
『ありがとう、三橋くん』
現在礼二の恋人は胡桃しかいない。そういう意味では、浮気されながら礼二と付き合っていたときよりも良い状況にいるのではないだろうか。
そう思った胡桃は皮肉のたっぷり籠った礼を、恭太にメールで送った。
これで仕返しは終わりにしよう。妊娠が発覚してから復讐どころではなくなっていた胡桃は、一先ず事が落ち着いた今、礼二と復縁したことが今の彼に最も大打撃を与えられるのではと、勝ち誇った笑みを浮かべながら文字を打ち込んだ。
『三橋くんのおかげで礼二先輩は浮気してた子達と別れて、たった一人の彼女としてやり直すことができた。本当に、感謝してるわ』
送信ボタンを押す。返信が来ることはなかった。
(きっと悔しくて何も言い返せないのね。ふふ……惨めだわ)
それから数日後、胡桃は人工中絶をした。