35話 『検査の協力』
行動を起こすなら早いに越したことはない。胡桃は早速誤解を解くべく礼二の元を訪ねると、案の定礼二はすぐに追い返そうとした。
「胡桃ちゃん……もう俺には関わるなって、言ったばかりだよね?」
「先輩、お願いがあります」
「帰ってくれ」
「先輩は騙されてるんです」
「…………え?」
〝騙されてる”というワードに礼二は扉を閉めようとした手を止めた。
間髪入れず胡桃は訴えかけるように言う。
「三橋くんから聞いたんですよね。本当の妊娠の相手は別にいる、って」
「……」
「そんな人いません! 私のお腹にいるのは……先輩との子です!!」
「……嘘はやめてくれ」
「嘘じゃないです!! 調べれば分かります。今日はそれを先輩に頼みに来たんです」
妊娠相手を調べるには相手の協力が必要だ。検査だけでも礼二に協力してもらう、それが胡桃の任務だった。
「そんなことしたって無駄だろう? だって妊娠させたのは僕じゃないんだから」
「だ、だから……っ!! ……分かりました。検査費用は全て私が出します。先輩は鑑定に協力してくれるだけでいい……これならどうですか?」
妊娠相手を特定するためのDNA鑑定には高い費用がかかる。それを自分だけで負担する、胡桃にはそのくらいの覚悟があった。
「……もし違ったら、今度こそ二度と関わらないって誓ってくれるか?」
「分かりました」
自分にデメリットがなくなった礼二は、胡桃の要求を飲んだ。
そして数日後、礼二は真実を知ることになるのだった。
× × ×
「娘が本当に……本当に申し訳ございませんでした」
「か、顔を上げてください」
家族での話し合いを終え大方事情を理解して落ち着いた胡桃の母は、恭太の家を訪ねて頭を下げていた。
「恭太くんも……本当にごめんね。簡単に許せることじゃないと思うけど、胡桃には厳しく言っておきます。本当に、ごめんね……」
「…………いえ」
胡桃と恭太を対面させるのはかえって迷惑になるのではと、一人で来た母は胡桃の分まで深く深く謝罪をし続けた。
「こんなものじゃ足りないと思いますが……」
そう言いながら胡桃の母からお詫びの品を手渡される。
「本当に本当に……」
「もう大丈夫ですから。恭太もここ数日変わった様子は見せてなかったですし、私も今初めて知ったくらいですから。もう謝るのはやめてください」
「で、でも……」
恭太の母がそう言うと、繰り返されていた謝罪は終わった。
何度も頭を下げる姿を見ても、恭太が胡桃を許そうと思うことはないのだった。