32話 『礼二の急変』
「な、何言って……?」
「……思ったんだ。自分で言うのもなんだけど、僕は今までたくさんの子と関係を持ってきた」
決して誇れるわけでない不名誉なことを、礼二は得意げに語り出した。
「胡桃ちゃんも含めて五人……いや十人、もっといたかもしれない。僕はね、そういうことには慣れてる自信があるんだよ」
「何が言いたいんですか……」
礼二は饒舌に、過去に関係を持った相手の数を披露した。具体的に覚えていないのは礼二の性格の表れだろうか、胡桃は読めない彼の行動に唖然としていた。
「……だからね、僕がそんなミスをするとは思えないんだよ。相手の子に妊娠させちゃうなんて今まで一度もなかったし……ありえない」
「そ、そんなこと言ったって!! 私のお腹にはいるんですよ!! 先輩との子が!!」
礼二の言い分を理解したのか、胡桃は人が変わったように礼二に詰め寄って声を荒げた。
つまり、礼二は女経験豊富な自分が相手に妊娠させてしまうミスなどするはずがなく、胡桃の言う妊娠は自分以外――別の男によるものだろうと言うのだ。
「まったく……ガッカリだよ。最初は少しでも胡桃ちゃんの役に立とうって……責任を果たそうって思ったのに。本当は僕との復縁のためにでっち上げた嘘だったなんて」
「ち、違います!! な、なにをっ……何を言ってるんですか!!?」
胡桃は興奮したように顔を赤らめ、けれど礼二は淡々と、落ち着いた様子で言葉を並べ続けた。
「違う? そんなはずないだろう。思い返せばおかしなことも多かった。すぐに病院に行こうとしなかったのは、バレるのが怖かったんじゃないのか?」
「そっ、それは……っ!!」
胡桃は、病院に行くことで『妊娠』という事実を突きつけられるのが怖かったのだ。
決して礼二の言うこととは異なる。けれど、まるで胡桃が嘘をついていると信じて疑わない様子の礼二は、ヒートアップしたまま胡桃を突き放した。
「もう、僕に関わらないでくれ。迷惑だ」
「せ、先輩……っ!」
礼二は吐き捨てるようにそう言った。
胡桃は怒りと悲しみの入り混じったぐちゃぐちゃな感情を抱いた。立ち去る礼二の後ろ姿は、涙に歪んでよく見えなかった。
「……そろそろかなぁ」
一方その頃一人ベットに寝そべる恭太は、瞳に期待を宿してそう呟くのだった。