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30話 『決断の時』

「先輩……前に話したこと、忘れてください」

「胡桃ちゃん……?」


 枯れた苗木のように萎れた胡桃は、行動する気力を失っていた。

 恭太への復讐も妊娠を隠し通すことも全てどうでもよくなってしまい、気づけば礼二に連絡を入れていた。


「全部、バレちゃいました。先輩……私どうすればいいですか」

「どうすればって言われても……」

「この子……産むべきだと思いますか?」

「……」


 産んでほしくない。それが妊娠させてしまった礼二の正直な感想だったが、自分が言える立場ではないと思い礼二は口を結んだ。

 そして胡桃に委ねるように安牌な問いを選択した。


「胡桃ちゃんは、どうしたい?」

「私は……」


 沈黙が訪れた。それは通話が切れたのかと錯覚するほどに、十秒ばかり経って胡桃は決断を出した。


「私はこの子を――」


 

 × × ×



 賢明な選択だっただろう。通話を終えた礼二は胡桃の出した答えに納得していた。

 妊娠したと聞いたときは胸に穴が空いたような不安が押し寄せてきたが、自分の犯した浮気の罰だ、自業自得としか言いようがない。


 もしあのまま胡桃の現彼氏と偽って母親に挨拶に行っていたら、礼二は父親になっていたかもしれない。

 そういう意味では、胡桃には気の毒だが、全部バレてしまったおかげで、中絶(・・)という選択肢は選びやすくなっていたように思う。


 助かった……と言えばお腹の中の子にあまりに残酷だが、今の礼二と胡桃の頭には自分のことしかない。

 いかに保身をするか、どの道が一番安全かをひたすらに模索するばかりだった。


「胡桃ちゃん……ごめん」


 形だけの謝罪。自己満足でしかないその言葉を、礼二は心の中で小さく呟くのだった。

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