29話 『妊娠してるらしいよ』
胡桃が追い詰められる一方で、恭太はある計画を企てていた。
「矢吹さん、話があるんだけど……」
続けている、美里亜との下校。その道中で、恭太は話をしたいと彼女を連れてファミレスに立ち寄った。
恭太の奢りで軽く注文を済ませると、美里亜は問う。
「どうしたの?」
美里亜はいつも以上に恭太から活気を感じていた。
だからきっと何か良い話だろう、そう考えた美里亜の予想とは斜め上……むしろ真逆の、恭太は信じられないことを言い放った。
「胡桃、妊娠したんだってさ」
「…………え?」
美里亜は固まる。そして目をまん丸にして「妊娠?」と聞き返し恭太は頷く。
「それって……み、三橋くんの……?」
「いや、俺じゃない。笹山先輩とのだと思う」
「そ、そうなんだ」
美里亜は少し安心したように息をついた。
けれど驚いたことには変わりないようで、続ける恭太の言葉に食い気味に耳を傾ける。
「それで……頼みがあるんだ」
「頼み?」
これまた予想外なことを、恭太は提案した。
「胡桃が妊娠したって、広めてほしいんだ」
「えっ!?」
仲のいい友達だけでいい。そこから噂となって学校中を巡ってくれればそれで十分だと、恭太は続けて言った。
「それも……復讐?」
「ああ、やるならとことんやらないとな。ただでさえ高校生で妊娠なんて大変だろうに、学校中で噂されるともなれば大きな追い討ちになるだろ?」
「そう……だね」
美里亜は恭太の言葉に確かな爽快感と、微細な恐怖を覚えるのだった。
× × ×
結局、美里亜は恭太の提案を受け入れた。
元から胡桃のイメージは地に落ちていたからだろう。美里亜と恭太が妊娠の話を流すと、山に点火したように噂は燃え広がった。
「花咲さん妊娠したってマジ?」
「さすがに可哀想じゃね?」
「でも、自業自得っしょ」
「礼二先輩、妊娠させたとか最低」
「ますます見損なったわ〜」
礼二の影響もあったのだろう。その日学校が終わる頃には、すでに校内の大半が知る事実と化すのだった。




