26話 『真実の追求』
(姉ちゃんが浮気……? そんな……そんなわけ……)
碧人は信じられなかった。恭太に聞いた胡桃の浮気、すでに彼らは別れていて原因は自身の姉にあると言う事実が飲み込めなかった。
姉のことは誰よりも知っているつもりだった。今まで十四年間、姉弟として一つ屋根の下で暮らしてきたくらいだ。彼女の人間性は自分が一番分かってる気でいた。
だから、胡桃が浮気をするなんて思えない。恭太を傷つける行為を彼女がするとは思えない……が。
「もし……本当なら」
恭太は大きな傷を負っているはず。胡桃を許してはいけない。いくら姉とはいえ、間違っているのは胡桃。
ならば、今自分がすべき行動は一つだろう。真実を追求して、場合によっては胡桃に恭太へ謝罪させる。
それが姉が大好きな弟としての、もっともな選択だと思った。
× × ×
ほんの少しでいい。恭太とはもう別れてるのだろうと胡桃に尋ねて彼女が少しでも動揺を見せれば、それはもう黒だろう。
碧人は胡桃の部屋の前に立つ。妙な緊張感が込み上げてきた。大きく息を吸って戸をノックしようとした――その時だった。
『あっ、先輩!……今、少し時間いいですか?』
誰かと電話する胡桃の声が聞こえてきた。
碧人は一度手を下ろして部屋の声に耳を傾ける。
『私、妊娠しちゃったみたいで……』
(……えっ?)
碧人は思わず目を見開く。間違いなく聞こえた『妊娠』の文言、胡桃は誰かにそれを相談してるようだった。
(恭太さん?……いや、もしかして)
碧人の予感は的中した。
『多分……いや、絶対に相手は先輩なんです。……私、先輩との子を妊娠しちゃったんです』
浮気相手だった。先輩……恭太は胡桃と同い年のためその呼び方は不適。必然的に電話相手は胡桃の浮気相手、つまり恭太の言っていたことは全て正しく、胡桃は浮気をしていたのだ。
(……そんな)
碧人は落胆した。と同時に胡桃に幻滅した。
浮気なんてするはずがない、そう信じた碧人はこれ以上電話のやり取りを聞きたくないとその場を立ち去った。
(恭太さん……ごめんなさい)
自身の言葉を、恭太はどんな気持ちで聞いたのだろうか。
浮気した相手の弟に姉が妊娠したから助けてくれと頼まれ、笑い返してくれた彼はどんな気持ちだったのか。想像するだけで胸が締め付けられた。
碧人は部屋に籠る。そして考えた結果、真実を隠し続けている胡桃は間違ってる、そう思った。
「母さん、姉ちゃんのことなんだけど……」
母に事の次第を告げたのは、翌日のことだった。