23話 『隠し通したい』
「……姉ちゃん、大丈夫?」
「…………えぇ」
両親との話を終え、思い詰めた様子の胡桃を心配した弟の碧人は、部屋に様子を伺いにきた。
胡桃はベットにうつ伏せになり、けれど前とは違い碧人の問いかけには応じるようだ。
「体調悪いんでしょ? 何か持ってこようか?」
「…………平気」
「……そっか。でも大丈夫だよ! 恭太さんならきっと姉ちゃんの力になってくれるし、むしろ相手が恭太さんで良かったじゃん! そんなに落ち込まなくても、明日話せば何とかしてくれるって!」
「…………そうね」
胡桃はひどく小さな声で細々と応える。
善意で言う碧人の言葉も、当事者からすれば大きなお世話である。慰められれば慰められるほど、本当のことを言いづらくなる。すでに、胡桃は後に引けなくなっていた。
「じゃあ、おやすみ」
「……おやすみなさい」
碧人は静かに戸を閉める。その音を確認してから、胡桃は小さくため息を吐くのだった。
× × ×
(どうしよう)
胡桃の脳内は、その一言で埋め尽くされていた。
家族を騙し通して恭太に泣きつくか――否、そんなことをしてもいずれバレるに違いない。それに泣きついたとてあんな態度をとった恭太に許してもらえるとは思えない。
ならば礼二を頼るべきか――実父が彼である以上それが最もな選択であろうが、胡桃は躊躇った。家族に本当のことを知られたくない。そんな甘えた理想が頭をよぎって、胡桃の行き場をなくした。
家族にバレず、なおかつ恭太にも頼らずこの問題を解決する。焦りで冷静さを欠いた胡桃は、そんな目標を描いていた。
当然、それは夢物語に終わり、二日後にはまた家族会議が開かれるのだった。