21話 『異変』
「姉ちゃん今日学校行かないの?」
「……」
「もう家でないと、時間ないよ」
「……」
「熱でもあるの? 大丈夫?」
「るっさいわね!! いいからさっさと行きなさいよ!!」
胡桃が怒声をぶつけたのは弟の碧人だ。いつも家を出るはずの時間に胡桃が着替えず寛いでるのを見て、心配して声をかけたのだ。
「ど、どうしたんだよ」
「学校は行かない。分かったらさっさと行って」
胡桃は碧人の方を見向きもせず、碧人はいつもと違う胡桃に不安を抱きながらも学校に向かった。
「はぁ」
両親は朝から仕事、碧人は学校へ。一人になった胡桃は深くため息を吐いた。
どうやら風邪をひいたようだ。昨日帰宅してから異変を覚え、寝て起きてもそれは継続されていた。
「こんな時に風邪とか、最悪」
恭太に復讐したくとも、この体調では頭も回らない。無性にイライラして碧人に当たってしまったことを申し訳なく思いながらも、胡桃の怒りが消えることはなかった。
× × ×
翌日。
胡桃の体調不良は相変わらずだった。多少の熱っぽさと倦怠感。いつも寝たらすぐに治ることが多かった胡桃は、試しに熱を測ってみるとようやく異変に気づいた。
熱がなかったのだ。
明らかに熱があるときの感覚、だるさ、けれど体温計の示す数値は普通だった。
これは何かがおかしい。胡桃は嫌な予感を抱いた。
(……もしかして)
考えたくはない。けれどここ数日を思い返してみれば、それに該当する前兆がないこともなかった。
食欲がなかったり、無性にイライラしたり。その他色々。
胡桃は頭が真っ白になった。もしかしたら、最悪の事態かもしれない。
親や相手に相談しようにも、胡桃は躊躇った。恭太との交際を知る両親は、二人の現状を知らないからだ。
だから言おうにも言えない。けれど、日に日に辛くなっていく症状に、ついに胡桃は言わざるを得なくなってしまった。
「お母さん……私――」