20話 『怒り』
「何があったのか詳しくは聞かないが、暴力はだめだろう? ちゃんと三橋とも話し合って、謝るように――」
胡桃の頭には一言一句残らなかった。どうでもいい、うるさい。そんな言葉ばかりがこだまして、恭太が教師にチクったという事実だけが頭にこべりついて彼への怒りを強まらせた。
恭太に復讐をする。けれどその手段が浮かばず手詰まりだった。
もう一度手を出そうにも恭太らに警戒されてる上に教師陣にまで睨まれていては、動こうにも動けない。
怒りが積もるばかりで発散する宛のない胡桃は、いつ起爆してもおかしくない爆弾状態だった。
先生の指導を受けたらすぐに、胡桃は学校を出た。時刻はまだ昼前、保健室には体調が悪いからと適当に言っておき、家に帰ってベットに顔を埋めた。
(……ふざけるな)
恭太が憎い。今の胡桃の全てを奪った彼は恨んでも恨みきれない。
どうにかして仕返しをしたい。復讐をしたい。
何をすれば恭太は悲しむだろうか。苦しむだろうか。そんなことばかりを考えていた。
(…………うっ)
ふと、お腹に痛みが走った。なんだか少し熱っぽいことにも気づく。
この時、胡桃はさほど大事に捉えなかった。ただの風邪、もしくは最近の激しい気持ちの起伏に身体がおかしくなったのだろうと、胡桃は眠った。
起きたらすぐ治るだろう。そんな軽い話ではないと気づいたのは、二日後のことだった。