19話 『ボディガード』
「分かった。先生の方からも花咲に厳しく言っとくから、また何かあったらすぐ言えよ」
「ありがとうございます」
昨日の出来事を軽く伝えると、担任の相坂充は頼もしく笑みを作った。
思ったよりも簡単に信じてもらえた。胡桃の浮気が校内中に広まってたからだろう。すでに彼女の信頼は地に落ちている。
暴力を振るってもおかしくない。そんな共通認識が芽生え始めていた。
チャイムが放課後を告げると、恭太は荷物をまとめて教室を出た。
隣のクラスに顔を覗かせる。一人の少女と目配せをすると、昇降口へ向かった。
「……ほんとに大丈夫だよ? 三橋くんにも迷惑だろうし」
「平気。昨日のこともあったし、迷惑をかけてるのは俺の方だから」
美里亜が胡桃に襲われた後、恭太はしばらく彼女と帰路を共にすることにした。
また昨日のようなことが起こる可能性がある。簡単なボディガードのようなものだ。
「花咲さんも、もう懲りたんじゃない?」
「いや、胡桃はまた絶対何か仕掛けてくる。あんな胡桃、今まで見たことなかったから」
初めて見る胡桃だからこそ、今までの物差しで測ってはいけない。
もはや今の胡桃は何をしでかしてもおかしくないほどに、恭太のイメージとかけ離れていた。
「二人、付き合い長かったもんね」
「ああ……冷めた態度を取られたことはあっても、あんなに怒った胡桃は見たことない。本気だよ」
「……そっか。じゃあ、お言葉に甘えさせてもらおうかな」
そう言って美里亜は半歩恭太に身を寄せた。
なんとか受け入れてくれたようで恭太は安堵する。
「でも、あそこまで怒るなんて。元はと言えば全部花咲さんが悪いのに」
「そうだな。けど今のあいつに何を言っても無駄だと思う」
「……みたいだね」
浮気した胡桃が悪い、その言葉が通じないからこそ今の状況がある。もう胡桃を説得するのは不可能だと、恭太は半ば諦めていた。
「わざわざありがとね」
「いや、俺の方こそ迷惑かけてごめん」
「だから平気だって」
「何かあったらすぐ連絡して!」
「分かったっ」
そのまましばらくして美里亜の家に着くと二人は別れた。ひとまず今日は何もなく、恭太は安堵して帰路に着くのだった。