15話 『視線②』
「月島さん……ですか?」
「あなたが三橋くん?」
最寄駅の前で、携帯片手に立つ女性。丁度人が少なく唯一誰かを待っている様子の彼女に話しかけると、合っていたようだ。
「遅くなってすみません」
「気にしないで、私が早く来すぎただけだから」
集合時間の十分前。確かに恭太は遅れたわけではないが、初対面で先に待たせてしまうのは気まずさがあった。
月島由香。
今日、学校で礼二に話しかけられたかと思えば、彼女が恭太に会いたいと言っていたらしい。
本当かと疑う恭太も、実際に月島と名乗る彼女と会えば信じるしかない。
わざわざ遠くから会いに来た彼女は、何の用だろうか。礼二関連であることは間違いない。
「ひとまず歩こっか」
そう言って、月島と恭太は宛もなく街中を歩き始めた。
背は高く、スラリと長い手足はモデル体型。色素の薄い金髪は肩まで流れて、礼二と似た色だ。
そんな彼女と初対面で二人きり。恭太は気まずさと緊張感に押しつぶされそうだった。
「礼二から聞いたわ。あなたのやったこと」
しばらく地獄の無言時間が続いた後、月島が口を開いた。
「ありがとう。おかげで浮気を知って、礼二と別れることができた」
「……いえ、役に立てたなら良かったです」
一瞬怒られるかと身構えたが、凛とした顔に笑みが浮かんで恭太はホッとする。
どうやら月島と礼二は別れたらしい。長く続いた関係とはいえ、浮気した相手を許すつもりはないようだ。
「案外気づかないものね。会う機会が減ってたけど、浮気されてるなんて思わなかったわ」
礼二は上手く浮気を隠していた。だからあんな量の浮気相手がいてもバレなかったわけだが。
「今日はお礼を言いたかったの。面と向かってね」
美里亜と同じで、月島もまた恭太に礼を告げるために呼び出したと言う。
言い終えると満足したように伸びをした。
「……ところで、後ろの彼女。知り合い?」
「え?」
月島の言葉に恭太は振り向く。
見覚えのある少女が遠くに見えた。胡桃だ。まだ着いてきていたようだ。
「さっきからずっと着いてきてるみたいだけれど」
「……いえ、知らない人です」
「そう、気のせいかしら」
ここまでしつこいと少し不安になる。恭太は背後の胡桃に意識を割きつつも、ぐるりと辺りを一周し一時間ばかりで駅に戻ってきた。
「じゃあ、また……と言ってももう会うことはないかもしれないけど」
「そうですね。わざわざありがとうございました」
「こちらこそ。バイバイ」
思ったよりあっという間だった。
恭太は改札を潜った月島を見送ると、後ろを振り向く。胡桃はいなくなっていた。
(……めんどくさいなぁ)
心の中でそう呟いて、恭太は家に帰るのだった。