13話 『図書室』
「ムカつく……ムカつく、ムカつくっ!」
電池の外れた目覚まし時計、床に散らばった文房具。胡桃は行き場のない怒りを抱えて、一人悶えていた。
何に怒っているのかは自分でも分からない。浮気した礼二にか、全てを奪った恭太にか。
事の発端は自分だというのに、胡桃は無性に腹がたって仕方なかった。
「三橋恭太……あんな奴と、付き合わなければ、っ!」
後悔させると息巻いたはいいものの、現状胡桃にできることは何もない。
今の胡桃が何を言おうが、誰も信じてくれないだろう。
「ムカつく!!!!」
どうしようもない気持ちを爆発させるように、胡桃は怒り叫ぶのだった。
× × ×
次の日、学校は礼二の話で持ちきりだった。
恭太のクラスにも何人か彼を狙う女子がいたようで、失望の声がちらほら聞こえた。
もし、その女子たちが何も知らずに礼二に交際を申し込んでいたとしたら、浮気相手にされていたかもしれない。
いい事したな、と恭太は一人良い気分になっていた。
そんな彼の元に一通のメールが届く。
指定された場所に向かうと、待っていたのは美里亜だった。
「ごめん、急に……」
図書室だ。静かな図書室に二人きり。いいムードの漂う空間で、美里亜は照れくさそうな顔をして何かを言おうとする。
(…………これってもしや?)
恭太の脳裏をよぎった予想は一瞬で散る。
「ありがと! ……改めてお礼言いたくって」
美里亜は小さく頭を下げた。わざわざ面と向かって礼をしたいからと、恭太を図書室に呼び出したらしい。
「うまくいって良かったよ。……先輩もきっと反省してくれるだろうし、すぐに立ち直るのは難しいかもしれないけど」
「うん。ほんとにありがとね」
美里亜はまだ何か言いたそうだった。
「私、復讐したいって思わなかったって言ったよね?」
確かに言っていた。礼二の家の前で美里亜と会った日。涙を流す彼女に恭太が最低な態度をとったあの時だ。
あの態度はなかった、と思い出した恭太は心の中で再度謝罪する。
「けど、先輩のお腹蹴ったときに……なんだかスカッとして。私、やっぱり怒ってたんだな、って」
「お腹を……蹴った?」
先に公園から去った恭太は見ていなかった。そんなことしたの? と平然と語る美里亜に少し怯えながらも、続きに耳を傾ける。
「悲しいままで終わらせてたら……私、先輩のこと吹っ切れてなかったかも。……だから、本当にありがとね」
再度礼を告げると美里亜の用件は終わったようだ。柔らかな彼女の笑みを見て、恭太は怒りに任せてやった復讐が誰かの助けになっていたのだと、改めて実感するのだった。