12話 『逆恨み』
『今すぐ私の家に来て』
公園を後にした恭太の元に、胡桃から連絡が届いた。
恭太は無視しようか迷ったが、大方用件は予想がついたので行くことにした。
何度か訪れたことのある胡桃の家。
いたってシンプルな一軒家のインターホンを鳴らすと、中から胡桃が現れた。
胡桃は恭太の姿を見るや否や飛び掛かるように詰め寄ってきた。
「全部、あなたの仕業でしょ!?」
「な、なんだよ急に」
「惚けるんじゃないわよ!! 先輩に何吹き込んだのよ!?」
挨拶よりも先に飛んできた罵声。
胡桃は恭太が思ってた以上に追い詰められてる様子だった。
「先輩? 別に、胡桃と別れてくれって頼んだだけだけど?」
「そんなわけないでしょ!? 少しお願いしたぐらいで先輩が私と別れるわけないじゃない!!」
普段のクールな印象とは真逆、胡桃は怒り狂ったように恭太の襟元を握りしめた。
本当に何も知らなかった様子の胡桃に、恭太は思わず同情しそうになった。
「胡桃と別れなきゃ浮気を暴露するって、脅しただけだよ」
「…………浮気?」
「……本当に気づいてなかったんだな。先輩、浮気してたんだよ」
「…………えっ?」
胡桃の血の気が引いたのが分かった。
「浮気………先輩が………浮気……?」
しばらく呆然とそう呟いて、胡桃はただただ信じられないようだった。
恭太は追い討ちをかけるように付け加えた。
「先輩は最初から、胡桃と本気で付き合う気なんてなかったんだよ」
「そ、そんなわけ……」
「そんなことも知らずに浮気して、みんなに馬鹿にされて、胡桃……惨めだな」
恭太が言い放つと、憤怒を練り固めた形相で胡桃が睨みつけてきた。
「ふ、ふざけるんじゃ……ないわよ。そんなでたらめなこと言って……先輩が……浮気するわけ、ないじゃない……」
震える胡桃の声は動揺を隠しきれてなかった。
「……許さない。三橋君……あなたのしたことを、後悔させてあげるわ」
そんな逆恨みのようなことを言い残して、胡桃は家の中に戻っていくのだった。