10話 『一生後悔してください』
「な、なんで……約束と違うじゃないか!」
「すみません。脅せば、言うこと聞いてくれると思ったので」
礼二が顔を真っ赤にして掴みかかってくる。
「そんなことをして何の意味がある? 俺が君に何かしたか?」
恭太は手を振り払って突き飛ばし、尻もちついた礼二を睨みつけた。
「そもそも、あなたが浮気してなければ、胡桃が浮気することもなかったんですよ。だから、俺の復讐相手にはあなたも含まれるんです」
礼二は無理矢理に口角を釣り上げて言った。
「……わ、悪いのは君じゃないか。君という男がいながらも胡桃ちゃんが俺の告白を受け入れたのは、君が胡桃ちゃんを満たしてあげられなかったからだろう?」
「……そうですね。俺が彼女を満足させてたら、浮気されることもなかったでしょう」
礼二の挑発に動じず恭太は続けた。
「でも、だからといって浮気をしていい理由にはなりません。浮気をする前に、胡桃は俺を振るべきだった。それはあなたも同じです」
「……」
言い返す言葉をなくしたのか、礼二は黙り込んでしまった。
恭太はしゃがんで彼の目線に合わせると、同情の笑みを向けて言った。
「先輩、別に胡桃と別れない選択肢もあったんですよ? 俺はあなたが胡桃を振った現場を直接見たわけじゃない。あなたが嘘でも胡桃を振った、と言ってれば多分俺は信じてました」
「……そ、そんなこと」
「でも、その反応からして本当に胡桃を振ってくれたみたいですね。哀れです」
恭太は立ち上がると側の茂みに視線を送った。
そして、地に伏す礼二を残して立ち去った。
「…………先輩」
「み、美里亜ちゃん……」
木の陰から一部始終を見ていた美里亜が、礼二の前に姿を見せた。
礼二は美里亜の顔を見上げたが、すぐに視線を逸らしてしまう。
「君も……彼と協力を?」
「……はい」
「…………そっか」
礼二は全てを察したように苦笑した。
美里亜は見下げたまま言う。
「私は別に、復讐したいなんて思ってませんでした」
「………え?」
「最初はただ、怒りよりも悲しさの方が強くて。私、先輩が思ってるよりも先輩のこと、好きだったんですよ?」
「美里亜ちゃん……」
「でも……」
「うっ……!?」
美里亜は怒りを足に込めて、礼二の腹を蹴り上げた。
「一生後悔してください」
そう言い残して立ち去る美里亜を前に、礼二は声を出すことができなかった。