力の抜ける夢のような
みじけぇ!
3章です、
前回の反省で短めです。
意味不明な世界が広がる光景に耐えれる方のみお進みください。
シャンが倒れて数日。彼は、未だに目が覚めない。
幸いにも彼が身体に持った熱はなくなった。
それでも、心から湧き上がる不安の感情は膨らむばかりだ。
そもそも、シャンは何が起こってあの姿になっていたのか。
ラズリーには何一つわからなかった。
けれどもこんなことを考えてしまう。
「あの時のシャン、なんだか格好良かったなぁ…」
そう口にしながら、彼女は自分の髪を指でいじっていた。
重い、痛い、起き上がれない。
悲鳴をあげる身体を無視して起き上がる。
燃え盛る炎に包まれてからの記憶がない。
何してたっけ。
あいつはどうなった。
もう少し寝ていても良いだろうか。
…ラズリーは無事だろうか。
と思考を巡らせていると、ラズリーが部屋に入ってきた。
ラズリーは「あ…」と声を漏らす。そうしてシャンに飛びつき、顔をうずめた。
「よかった…君が無事で…本当に…よかった……。」
「僕も…ラズリーさんが無事なら…それでいいんです…。」
そうしてシャンは、彼女の頭を撫でる。
少しの静寂が訪れ、ラズリーは口を開く。
「君、既に1週間は寝ていたんだから。心配させるんじゃないよ!」
記憶がないシャンが、どうとらえたかは誰にも読み取ることはできなかった。
「流石に無茶が過ぎましたね、以後気を付けます。」
その返答を聞いたラズリーは、頬を膨らませ不満だと主張する。
「気を付けるじゃダメ。約束して。」
シャンは、先手を打たれた。と言わんばかりに怪訝そうな様子をみせる。
「では、僕からもお願いです。今後、館で異変があった時は僕を頼ってください。一緒に解決しましょう。」
その返答に、彼女に笑顔が灯る。
「わかった。君一人じゃ、何をしでかすかわからないからね。」
「酷い言いようですね。そんなに信用がないのですか。」
そう言ったシャンは、自分の顔に違和感を感じた。
部屋の隅にある鏡に目を通すと、眼だけだった宝石が、眼の周りの皮膚にまで広がっていた。
違和感のみで不自由はないので気にすることもなかった。
「どうした?鏡なんか眺めたりして。」
「いえ。特には。」
シャンは軽く返答をする。
「なんか隠してるでしょ。」
しっかり見抜かれている。もしくはやったことがやったことなだけ、あまり信用がないのだろうか。
「流石に本当ですって。」
笑顔だが、噓である。
ただ、これ以上は踏み込んではこなかった。
「何かあったら絶対に言いなさいよ?」
「そうですね、約束ですし。」
その返事が聞きたかったと言いたげな笑顔で部屋から出ていった。
ラズリーは違和感を感じていた。
先程会話したシャンと以前戦闘していたシャンが同一人物とは思えないほど声の鋭さが違っていた。
今の彼は綿のように、他人を傷つけることもできなさそうな声と言葉選びをしていた。
だが、あの時の彼は的確に相手を標的にした矢のようだった。
明らかに別人のように豹変した。これが彼が自分の本質を相手に誤認させるためのものなのか、それともあるいは…
などと考えてしまう。こんなことを考えても彼のためになるのだろうか。
空白の記憶を思い出そうとしていたが、どう足掻いても無駄であった。
(まぁ、どうにかなるだろう。)
考えていても仕方がない。
今は疲れた身体を休めることを優先する。
そうして再び、意識を手放した。
目が覚めると、そこは見慣れない空間だった。
白い立方体のような空間。
そこには小さな紙切れと誰ともわからぬ少女が一人、横たわっていた。
(綺麗な銀髪だ。起こすのも悪いな。)
紙切れを拾い上げる。
「死した者のみ、空間からの帰還が可能…か。」
手元には拳銃。弾は一つだけ。
(誰かはわからないですが、こんなことを仕掛けてくるとは。つまらない。)
そうしているうちに、少女が目を覚ます。
シャンと同じくらいの背丈の彼女は、蒼色の瞳でこちらを見るなり、怯えた表情をする。
その恐怖は拳銃に対してではないように思える。
シャンが拳銃を自分の頭に向けると、更に怯え今にも泣きだしそうだった。
拳銃を投げ捨て、少女の隣に座り込む。少女もそれに続いて座り込む。
「君、言葉はわかる?」とシャンが尋ねる。彼女は頷く。
「喋れる?」彼女は首を横に振る。
「いつからここに?」彼女は首を傾げる。
「わからない?」頷く。
「僕と同じ時かな」首を横に振る
「…僕よりももっと前?」頷く。
その返答は、シャンを震え上がらせた。
(仮に僕が来る前にずっとここにいるとしたら拳銃を握らされた僕が来るまで…出る手段がない。)
そして最悪の思考にたどり着く。
(僕より前に来た奴ら、全員がこの子の目の前で死んだとしたら…!)
気が付けば、シャンは立ち上がっていた。
その様子に、少女は首を傾げる。
しかし、この状況だ。片方しか出ることはかなわない。
(いや、待てよ…)
万に一つ、のことが起これば取れる方法がある。
起こる可能性などないに等しい。
しかもこの方法は、片方の犠牲が必要になる。
(だとしてもその可能性を手繰り寄せてやる。)
シャンは願った。魔術は基本、本人を増幅させて使用するものだ。
そして、魔法は奇跡だ。祈りや願いを具現化するための奇跡。故にシャンは願う。
(我々にこの白の闇を斬り裂く力を…!)
そう心で叫ぶ。その瞬間、シャンと少女の周りにシャンの眼と同じ色の宝石が幾つもの現れた。
その宝石たちは静かに宙に佇んでいる。
(こいつは…やれる!)
シャンは、先程投げ捨てた拳銃を拾い上げ、宝石に向けて一撃。
轟音とともに放たれた弾丸は宝石に弾かれる。弾かれた弾は別の宝石に弾かれる。
少女は何が起こっているのか、状況が分かっていなかった。
弾丸が弾かれる音以外の音はないこの空間の一種の静寂は突如として破られた。
「うっ…」シャンの漏れ出たような一言。
その声のが、聞こえた時にはシャンは腕を通り過ぎた弾丸によって傷付き、血が少量ながら、垂れ落ちていた。
それを皮切りにするように、弾丸はシャンに傷を次から次へと作っていく。
宝石は先程とは違い、まるで意思を持つように弾丸の挙動の先に確実に動いて、弾丸を弾き飛ばす。
シャンの全身から血が流れ出るようになるまで、そう時間はかからなかった。
ここまで傷口があれば、死ぬのは時間の問題だろう。
そして、シャンは傷だらけの腕を上げ、少女に指をさした。
そして、シャンの周りで弾かれていた弾丸は少女に向かって行き、そのまま彼女の頭部に着弾した。
頭部を破壊された彼女は力なく倒れた。
倒れた後は痛みに苦しむシャンに、少しばかり手を伸ばして、力尽きる。
シャンは痛みに耐えながら少女に近づき、呼吸を確認する。
(ほぼ即死…か。)
痛みを感じる隙は殆どなかっただろう。
自分が死に、尚且つ苦しまずに逝かせてやる方法など、これしか思いつかなかった。
流石にここまで血を流せば動くこともままならなくなってきた。
(他人から言わせちゃ…「偽善者」…だろうね。)
全身を駆ける痛みと薄れゆく意識の中、一筋の声が流れ込む。
「やりおるわ…彼女を救いながら自分も脱出するとは…合格じゃ…」
声の出せないシャンは、(何者だ…)としか思うことしかできなかった。
「で…、あ……を……の…だ…」
シャンの意識はここで途切れた。
三度目を覚ましたシャン。少々警戒し、辺りを見渡す。
何度見ようと見慣れた部屋だ。
「戻った…か。」
眠っていたにもかかわらず、疲労感の回復はなく、寧ろ疲れている気がする。
夢の中とは言え、あんな死に方をしたからだろうか。
再び眠りにつこうものなら、更に酷いことになる気もするのでベッドから出る。
立とうと力を入れようとすると、手に力が入らない。
立ち上がることは可能だとしても、その後に扉を開けられない。
自分で部屋から出られなくなったところで、廊下で走るような音が聞こえ、ドアノブが動く。
ラズリーかと思ったが、彼女が廊下を走るところを見たことがなかった。
開いた扉の先にいたのは、夢の中で出会った少女だった。
綺麗な銀髪に、深く蒼く輝く瞳。間違えようがなかった。
彼女は、シャンの姿、宝石の眼を見るなり、泣きそうな表情をする。
そこにラズリーが後から追いつくように部屋にやって来る。
「シャン?この子君を探してたみたいだけど…って何泣かせてるのさ!」
「ちょっと待ってください!何もしないです!」
「何もしていないのに泣くことなんてある?」
「妙に痛いところつきますね。」
そんな会話をしていると、不意に少女がシャンに近づき、手を握った。
そして、彼女はシャンに笑顔を見せた。
シャンは彼女に微笑み返した後、ラズリーに尋ねる。
「ラズリーさん、僕を探していたと言いましたね、どうやって探したとか聞いてますか?」
「あぁ、聞いてるよ。どうやらこの子、片目が宝石の男の子を探してたみたいでね。そこであのキンサメ?って奴のいたところで、森の奥の方に向かっていた目撃情報だけでここに来たんだって。」
(軽く騒ぎを起こして逃げたあの時か。)
「どうやって聞いたのです?確かこの娘言葉を話せなかった気がするのですが。」
その質問にラズリーは不思議そうに答える。
「ん?いや、彼女は普通に喋っていたよ?」
この返答は、シャンには想定外のものだった。
しかし、この質問が出ても彼女は一向に声を出す気配はない。
その上で彼女はシャンの腕に抱きついて、安心したように眠っていた。
「すみません、ラズリーさん。動けないので助けてください。」
「それはできない相談だね。」
そう言うと、彼女は反対側の腕を捕まえ、少女と同じ姿勢をとる。
「身体から魔力を感じない…これは動けないどころか抵抗もできないわけだ。」
どうやら先程のあれで使い切っていたらしい。
シャンは無意識で宝石を動かし弾丸を弾いていた。それにより大量の魔力を消費していた。
夢の中の出来事のはずだが、どうして現実に魔力の消耗が現れたのだろうか。
「わかったらのなら助けて頂きたいのですが。」
「居心地いいからダメ、もうちょっとこうさせて。」
ラズリーは少しばかり頬を膨らませる。
「妬いてます?」
「気のせいだよ。」
そこからラズリーからの返答は無くなり、寝息が聞こえだした。
結局左右で寝られてしまった。
彼女らが目を覚ますまで、シャンは抱き枕にされるのだった。
ここまでありがとうございます。
ようやく3章までこぎつけました。
とは言え、ここまで拙い文章をここまで読んでくれる人はいないでしょうけど。
次の章は書き上げてあるのでその先が完成次第になります。