デジタルメモ世界にひとりきり
☆1☆
真っ白だ
まわりに何もない
夢か
現実か
何か文字がある
Aとか
Gとか
Wとか
ここはどこだ
もしかして
ここはデジタルメモか
いつも使っているスマホメモか
そんな感じがする
でも夢かもしれない
つねってみた
痛い
夢ではない
しっかりした感覚がある
これは現実だ
今まで生きてきた世界ではない
スマホメモ世界に来てしまったのか
☆2☆
まずはここから抜け出す方法
それを考えなくてはならない
と言っても何もない
出口らしきものはない
ここで生活しろ
そういうことなのか
何かを見つけた
アルファベットだ
でもそれしかない
平仮名もない
カタカナもない
漢字も数字もない
なのにアルファべットだけはある
全種類揃っているのか
アルファベットは無限にある
これを使って何かしろ
そういうことなのか
何も思い付かない
☆3☆
食べ物はない
シンプルすぎる背景がある
ああもうダメかもしれない
アルファベットだけじゃ無理だ
これからどうしようか
アルファベットを眺めてみた
側面に何か書いてある
文章のようなものだ
たぶんヒントのようなものだろう
他のアルファベットを見た
そこには別のヒントがあった
読んでみた
『家電はアルファべットを並べて、念じればカタチになる』
『欲しい家電の英語の綴りを並べて、念じればカタチになり、機能が加わる』
『機能も材質も、本来のものと一緒になり、しっかり使えるものになる』
そう書いてあった
その言葉は、僕が長らくこの場所で生活することを意味している
そう解釈した
作り出していくことは、楽しいことだ
何かを生み出すことはいいことだ
でも、この先に不安しかない
この先の楽しい未来は保証されない
きっと、他のものも同じように作れるのだろう
生活に関わる全てのものは、このアルファベットから始まる
そういうことだろう
☆4☆
アルファベットの組み合わせで、色々と生み出せる
ありとあらゆるものが、パッと生み出せるのだ
まずは試しに家具を作ろうと思う
ベッドは一番に必要だろうから
ベッドが無ければ、夜は越せないだろうから
【bed】
そう並べて、触りながら念じた
並べたアルファベットそのものでも、寝ることは出来そうだが
【bed】というアルファベットが、もう、ベッドの形をしてしまっているから
アルファベットは、僅かな光を放ち出した
そして、ゆっくりとベッドが現れた
ひとりでは十分すぎる大きさ
美しい美しいベッドだった
その瞬間から、想像が無限に広がっていった
☆5☆
他のアルファベットにも、何か書いてある
しっかりと、読む必要があるだろう
アルファベットが、家電などに化けてしまう前に
文章を読んでおかないといけない
重要な文章が書かれたアルファベットが、ものに化け、消えてしまったら、おしまいだ
Kというアルファベットをよく見た
『家電は一日一個まで』
そう書かれていた
Jというアルファベットも見てみた
『その他のものは一日10個まで』
そう書かれていた
別のJの文字も読んだ
『食べ物と飲み物には上限がないから、好きに生み出して』
そう書かれていた
見ておいてよかった
あまり必要ない家電を、試しに作っていたら終わっていた
本当に危なかった
☆6☆
慎重に考えてから作らないと、ピンチの時や、もしもの時にかなり困る
その他のものは10個までだが、食べ物は無限に生み出せる
それは、かなりデカイ
さっそく、食べ物を生み出そう
Oのアルファベットを持ってきて、置いた
その後、次々と色々な場所から、アルファベットを持ってきた
【ONIGIRI】と並べて、触りながら念じた
すると、光が射し、おにぎりが3個現れた
おにぎりであろう、黒くて三角の物体を、さっそく頬張った
酸っぱさが溢れてきた
梅干しだ
美味しすぎて、美味しいと口にしていた
ベッドがあれば、イス代わりなるなど、用途が沢山ある
でも、ここはテーブルとイスくらいは、あった方がいいかもしれない
でも、生み出すのには、上限がある
だから、悩んでいた
☆7☆
アルファベットを見ていくと、こう書かれているものがあった
『家具などは、アルファべットそのものを組み合わせたり、そのままのカタチを利用して使うなど、いろいろと工夫してください』
生み出さなくても、家具は手に入るんだ
テーブルになりそうな形の、アルファベットを探した
Zを見つけた
色んな大きさのZがあった
その中の、一番大きいものにした
小さいZも持ってきて、イスにした
これで生活感が、なんとなくだが、出始めた
ここはもう、立派な部屋だ
生活感が出てしまったせいで、脱出出来ない恐怖心が増した
トイレはどうなるんだ
お風呂はどうなんだ
無ければ生きていけないものは、たくさんある
これから、無ければ生きていけないものリストを、作らなくてはならないだろう
☆8☆
アルファベットを組み合わせて、食べ物の単語を作れば、食材や食べ物がエンドレスに現れるから、食べ物は困らない
だから、それはいいとして
回数が限られているものに、目を向けなくてはならない
ここが、お風呂に入らなければ、ニオイが気になってくる世界なのかも分からない
だから、それも後回しだ
消耗品などの生活用品や、その他の製品なども、アルファべットを組み合わせたりすれば生まれるのか
まず、それを試す必要がある
【TISSUE PAPER】と並べて、触りながら念じた
鼻水は昨日までの世界と同様、溢れてしまうみたいだ
たぶん、同じ世界の中の、別空間といった感じか
念じていたアルファベットは光り、五箱が連なる、ティッシュペーパーが現れた
このデジタルメモ世界に、花粉が飛んでいるかは分からない
でも、どんな僕にとっても、ティッシュペーパーは生活必需品だ
ティッシュペーパーという英語の綴りを、覚えていてよかった
☆9☆
モノを生み出すには、英語でなくてはならない
だから、英和辞書を出すのも手かもしれない
そう思ったが、行き止まりだった
出そうにも、英和辞書の綴りが分からない
全く、想像もつかない
一日のものを生み出す上限を越えてしまったのに、まだ何か欲しい場合もある
綴りが分からないけど、どうしてもそのものが欲しい場合もある
その場合は、1アルファべットを、一生使えなくさせる代わりに、手に入れられることになっている
そういう情報を、さっきたまたま、アルファベットの底の文字から見つけた
何かの、アルファベットを犠牲にして、慎重にものを増やしていくと決めた
それと同時に、ここで生きていくと覚悟をした
英和辞書は必須だ
大物を手に入れられる
そんなチャンスを、手に入れられるんだ
アルファベットに書いてある文字を、探して読む
それを、ずっと続けることが、一番の脱出の近道かもしれない
☆10☆
『食べ物と飲み物には上限がないから、好きに生み出して』
もう既に、見つけている言葉が何度も出てきた
『これは、アルファベットです』
みたいな、当たり前の説明も、チラホラあった
アルファベットに書いてある文字を、読んでいくなかで、こんなのがあった
『脱出の方法も、どこかのアルファベットに書いてある』
意外に、はやく抜け出せるかもしれない
だが、ここにあるアルファベットは、無数と言ってもいい
それに、この空間の広さも分からない
さえぎる高いものは何もないのに、どこにも突き当たりはない
運と体力が、運命を左右するだろう
一度大きく時間をかけて息を吸い、刹那に吐き出した
ここで生活する基礎を固めなくても、良さそうだ
根拠はないが、なんだか行けそうな気がする
☆11☆
アルファベットを見続けた
Aの側面に、ヒントらしきものがあった
黒いAという物体に、ゴールドで何か書いてある
それは、希望を一気に引き寄せるものだった
『穴掘れば脱出できる』
その言葉を、信じるしかない
もう少ししたら、脳がおかしくなってくる頃だ
そうなったらもう、一生ここだ
ここで一生過ごすことになる
真っ白だ真っ白だ
一面真っ白だ
そんなことを考えている暇はない
そんなことを考えていたら、飲み込まれてしまう
アルファベットをかき集めてきた
スペルは不安だが、一か八か勝負するしかない
【shovel】
そう並べて、触りながら念じた
光を放った後、シャベルが姿を現した
金色だった
なんか強そうな気がした
地面に突き刺すようにして、力を込めた
しかし、地面は硬い
シャベルの先端が、ほんの少し刺さる程度だった
地面は、土のように見える
土に近いが、硬さを持つ、別の何かだろう
ドリルか?
思い付いた瞬間、かき集めていた
【drill】
そう並べて、気持ちを手に込めて念じた
神々しく、ドリルが生まれた
両手で持ち、踏ん張る体勢に入り、スイッチを入れた
地面に向けて固定すると、穴が出来ていった
貫通するような感覚があり、ドリルをどかして覗き込む
すると、真っ白ではあるが、その先には、広い空間が広がっていた
迷わず、開いた穴に飛び込んでいた
☆12☆
現実で、おにぎりを食べていた
今は、確実に現実だ
今までの感覚と、全く違う
今までのものは夢か?
それとも、現実だったのか?
よく分からないが、両手には筋肉痛のような、ジンジンするものがあった