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月の町へでも行きましょう  作者: 浅黄 悠
1/7

上弦

 白い炎がちかりと目の裏で弾けたのを合図に、私は目を覚ました。それが最初の記憶。

  




 日のある午后に目が覚めた私は、街の外にある境の湖に歩いて行った。今日はイリスが一緒について来てくれた。枯れることの無いと言われている湖から流れる小川で髪を濡らし、梳く。髪が黒に近い灰色から銀色の輝きを帯び始めると共に、どこか覚束なかった気持ちが落ち着いてくる。

 それから、……ああ、そうだ。


「頼んでいた物、出来たかしら」

「もちろん」

 仕立ての店の男性が出してくれたのは曙色のドレス。

「ありがとう、大したお礼はできないけれど、私に何かできることがあれば……」

「そんなもの。これは試作品がてらの完成品を手直しした物と言っただろう。それにここだけの話、君達のための服は仕立てるのが簡単なんだ。まるで夢のように出来上がる」

「それは良かった。でも、本当にすることはない?」

「じゃあ、君さっきイリスと一緒にいただろう。彼女に注文された服があるから、それを届けてくれないか」

「もちろん」


 街の中を歩いていると、私の名前を呼ぶ声が聞こえた。嬉しいような、もう少し心の準備をしたかったような複雑な気分になる。

「もう来たの?」

「夕方になると、君がここにいるということを信じられなくなってくるんだ。だから、早く確かめたくてね」

「私、今頼まれ事をされていて友達の家に行かなきゃならないの。だから貴方に付き合えるのはそれからね」

「私も行けるのなら、一緒に行っていいか?」

「……いいけど」



 イリスは当然ながら彼のことを見て「誰?」と問いかけてきた。

「サミュエル・ローランさん。この辺りに住んでいる貴族の方よ」嘘ではない。彼の話に嘘がなければ、だけれど。

私が答えると、イリスは微かに目を伏せて彼に挨拶した。

「ルナとはどういう関係なの?」

「えっとね、私は彼にこの街を案内――」

「二人の秘密に立ち入るのは野暮ですよ、お嬢様」

 彼が指を唇に当てて変なことを言うものだから、イリスはますます俯いて「そうよね、ごめんなさい、じゃあ」といってそそくさと扉を閉じてしまった。


「いつもあんな感じの子じゃないんだけれど。変な事言わないでよ」

「私は貴方に友人がいるということがまず驚きですけどね」

「何それ!」

 サミュエルは良く私を揶揄う。怒っているのを見るのが楽しいとか何とか。揶揄われれば誰だって怒ると思うんだけれどな。

 彼は微笑んだが、直ぐに真面目な顔になると空を仰いだ。

「今夜も月が昇っていますね」

「ええ」それが何か、と聞きたい気持ち半分で相槌を返す。彼の瞳は角度によって綺麗なネイビーブルーに見えることに、ふと気が付く。


 彼が私の肩にそっと手を回す。

「さあ、今日は何を話しましょう。外の街で起きた恋の話でもしましょうか」



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