第一章 第五話『七龍剣』
足音だけが、さもんとした空気に響き渡る。街灯が時折彼女の顔を照らし出すたびに、汗で光るその顔には疲労と決意が浮かんでいた。彼女の目は前方に固定され、一点の曇りもなくその目標に向かっているかのようだった。夜の帳が全てを覆い隠す中、走る姿はまるで時間を忘れさせるかのような孤独と静寂の中で、ただひたすらに前へと進んでいった。周りは静かで、ただ呼吸と足音が小さなエコーとなって響き渡るのみである。
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どれくらい走っただろうか。もう時間の感覚さえ無くなってしまった。体がほんのりと温かさに包まれる。もう夜明けの時間になってしまったようだ。そんなとき、大きな門が一つの松明のもとにひっそりと照らし出されていた。
その門を守護するかのように、二人の門番が厳格な佇まいで待ち構えていた。守護隊である。
「どうされましたか?」
守護隊の一人が衰弱しきっていた女性に尋ねた。
「助けてください」
「はい?」
「だから!助けてください!」
信じられないような出来事を経験してから一睡もせずに走り続け、疲労が限界に達してしまっていたからであろうか。普段温和な彼女を知っている人からすれば目を疑うような言動であっただろうが、今に限ればそんな悠長なことを言っている場合ではない。
「私の夫が天の怒りの使徒に襲われているんです。早く助けにいってください!お願いします!」
「落ち着いてください。今のところ天の怒りの使徒が表れたという情報は入ってきていません。彼らが表れるときは決まって雷を伴います。おそらく、ご覧になられたのは人間でしょう。念のため人間犯罪を取り締まる警備隊を数人送らせます。ご住所をお教えください。」
「人間ではありません!あいつは雷と一緒にやってきました!警備隊なんかではあいつには敵いません!討伐隊を派遣してください」
「ですから、天の怒りの使徒は出現していません。」
「どうして信じてくれないんですか。私の夫が危ないのに....」
「お嬢さん、どうされましたか?」
綺麗な鼻筋に、見つめただけで相手を圧死させるような鋭い眼光。握手をしたならば一呼吸のうちに相手の手を粉々に吸てしまうかのごとき屈強な肉体。
そこに現れたのはこの世界で最強の称される7人である七龍剣のうちの1人、セレスティア・ソレイアであった。