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始まりの鳥  作者: 一賀 博隆
第一章
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第一章 第四話『伝説降臨』

 幾度後悔したことだろうか。

 忘れようとしても頭に執拗に残り続ける。

 あぁ、神様。どうして俺から大切なものを奪い続けるのですか?

 でも今回ばかりはそうは言ってられない。たとえ命を落とすことになってもこの子だけは必ず助ける。

 そうか。やっとわかった。お母さんも。お父さんも。叔父さんも。みんなこんな気持ちだったんだな。

 俺も少しは大人になれったってことかな。みんな、もうすぐそっちに行くよ。

 だけどもう少しだけ生きないといけない。一生に一度のお願いを今この瞬間に使いたいです。伝説の皆さん、俺に力をください。あいつを倒すだけの力を。

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 不気味なほどに綺麗な月光が瓦解した家を照らす。

 中央にたたずむは頬がこけ、顔全体にまるでピエロのような厚化粧を施した男。身にまとう圧倒的な覇気には呼吸すら危うくなるほどの威圧感がある。


 瞬間、突風が吹き目の前にいた男ーーヴァレンタイン・マーキスが消えた。

 咄嗟に父は近くにいたノアを抱いた母を突き飛ばし守りの姿勢をとったが、マーキスの放った正拳をくらい轟音とともに吹っ飛ばされる。


「おや?殺すつもりで殴ったつもりでしたが防がれてしまいましたか。流石はライズ家の生き残りといったところですね。」


「こっちもはいそうですかと何もせずに殺されるわけないんでね。あいつらが逃げる時間くらいは稼がないと父親として顔が立たねぇよ。」


 立ち込めた煙の中から人影が表れる。しかし、その姿は以前の姿とは似ても似つかない。

 彼の髪はまるで波のように凛々しく、空へと伸びるように立ち上がっていた。その一筋一筋が生命を帯び、風になびくたびに神々しい輝きを放っていた。

 マーキスの表情は緊迫感に満ち、額に冷たい汗が浮かぶ。


「やはり使えましたか――霊魂憑依。20年ぶりですよ。この私が緊張を覚えさせられたのは」


霊魂憑依ー数々の伝説の中から一人だけ体に宿して能力を使うことができる。宿す伝説は体質に合ったものが選ばれる。


「御託なんか聞きたくねぇよ.....おい!このピエロの相手は俺がする。お前はノアを連れて逃げろ!」


「で、でも...!!」



マーキスの攻撃の直前に父に突き飛ばされた母はこの状況に混乱して言葉に詰まる。当然の反応である。突然家が破壊され、ピエロが現れ、父は見たことのない姿に変貌しているのだ。むしろ言葉通りに行動できる人間のほうが少数派であろう。


「頼む。今は悠長に説明している暇はない。お前は必ず生き残れ。」


 何が起こっているのかわからない。でも、生きなければいけない。抱いていたノアが泣き叫んでいる。この子には今起こっている状況を認識すらできていないのだろう。赤子が泣くのは感情でも理性が原因でもない。ただ死なないための生存本能でしかない。この子は生きたがっているのだ。どうして人間としての、動物としてのその欲求を否定することができようか。

 父を捨て、涙を、無力を、悲しみを、憎しみを噛み締めて逃げる。今の自分にできるのはただ逃げるだけ。力がなければ自分の身だけでなく、大切な人を守ることはできない。


「背を向けて逃げる敵を、ましてやライズ家の血が混ざった子供を見逃すとでも思っているのですか?」


 子供を抱いて逃げる母の背中めがけて、マーキスの指先から高密度に圧縮された熱線が放たれる。

 

 絶望の光は母の心臓を貫いて――――――


「!!!」


「だから言ったろ。俺が時間を稼ぐって。」


母を貫いたと思われた光は直前で消えた。いや、正確には消えたのではない。()()()()()()。放たれたかに思えた光線は存在しなかったのだ。


「ふふふふ.......面白い!あなたの身に宿っている伝説の能力は、事象の消滅ですか!一度目の私の攻撃もなかったことにしたのですね!概念に干渉できる魔法だなんて聞いたこともありません!ですが妙ですね。概念を無効化できるのなら、私という異物を処理しないのはどうしてでしょう。その能力の対象には縛りがあるのか、あるいは伝説の器となったあなたの体が完全には順応できていないのか。まぁ、どちらにせよ私にとっては好都合でしかないのでいいですけど。」


「うるせぇ口だな。よくしゃべるぜ。....もってくれよ、俺の体」


 (ピエロの言う通り、伝説様の力に体が完全には順応していない。体質に合った伝説様が選ばれるといっても最適なわけじゃない。それに、このピエロを倒すには魔力出力が心もとない。体が崩壊するまで10分といったところか。それまでこいつは絶対にノアたちのもとへは行かせない)



 

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