第一章 第二話「育成所」
――「結論から申し上げさせてもらいますと、ノア君には能力があります。」
ノアの父はその報告を聞いてなにやら浮かない表情を浮かべていた。
「どうかされましたか?」
「い、いえ。なんでもありません」
「そうですか。実は、特殊能力のある方たち限定で我が国ではとある場所に行ってもらい説明を受けていただいているのですが、この後少しお時間よろしいですか?」
「はい...わかりました」
「それはよかった。では、カウンター前にいる看護師の指示に従ってください」
――――――――――――――――――――――――――――――――――――
ライズ一家は看護委の指示に従い、病院から徒歩10分ほどの場所にある四角い建物の地下に連れてこられた。その場所はやけに静かで暗く、人気がないようにも思えた。
するとそこに、一人の男性が表れた。
「はじめまして。ここの管理人をしておりますヴァマリックと申します。以後お見知りおきを」
管理人を自称する男――ヴァマリックは40代前半で、髭を縦に伸ばし、やけに貫禄のある男だ。
彼は続ける。
「ここがどこなのか。と疑問をお持ちになっていると思うので、早速お話させていただきます。ここは特殊能力が確認されたお子様達の育成所でございます。主に基礎体力の向上、特殊能力の鍛錬、ミューダン討伐のための戦t」
「ちょっとまってください!」
ヴァマリックの説明遮り大声を上げたのはノアの母だった。
「育成所とか意味が分からないのですが、ミューダンの討伐ってどういうことですか...?」
「おっと。説明不足でしたか。実は1ヵ月ほど前にミューダンに襲われた哀れな家族がいらしゃったのですが、襲われたときに偶然3歳のお子様の能力が発現してミューダンを撃退した。という報告があがっておりまして。その報告を受けたハギメッシュ王国の上層部は、特殊能力者限定で育成所の設立を決定しました。お察しの通り、この育成所の目的はミューダンの討伐でございます。」
ミューダンの討伐――それは聞こえはよいものの自殺と同等の行為である。人類を凌駕するミューダン討伐の危険性をノアの母親は身をもって体感していた。
「ここの育成所への加入はそちらで決めてもらって構いませんが、今のところ来た方々はすでに全員加入することの意思は示してもらっています」
ここに来た全員が今と同じ説明を聞き、納得して入った。ということはにわかに信じられないが、この人は嘘は言っていない。そう言い切れる自信がノアの母親にはあった。
そう言い切れる根拠こそが――――情報統制。
最近のテレビや新聞ではミューダン討伐に関する情報ばかりで、死者数が不思議なほど報道されないのだ。そのため、ここに加入する意思を示した者のほとんどは真実を知らずに安易な気持ちで入った人たちだと予想がついた。
「少し時間をください。」
「ええ。わかりました。無理強いはしません。もし加入する意思があるなら後日再度ここへおとずれてください」
「わかりました。」
「では説明は以上です。本日はありがとうございました。」
ヴァマリックの説明を聞き終えるとライズ一家は足早に帰宅した。