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紅の赤  作者: 青階透
鬼殺し編プロローグ
6/61

4話 襲撃

 

前回の続きです。


 雨の激しさは衰えることなく続いている。


 せっかく家の掃除を執り行ったんだから、ついでに洗濯物を気持ちよく外に干したいのだが、まぁ余り無理を言うつもりもないので、テレビの前にでも一定の間隔をあけて室内干しすることにした。


「コレでいいか」


 何となく、一日中ジャージでいる気になれず自室のクローゼットから適当に服を見繕った。今日の部屋着グレーの無地のシャツにジーンズを履いてレーザーのベルトを通すだけの非常にラフな格好だ。別に外出するわけじゃあるまいし、動きやすい格好にする必要性はない。


 それから自室に籠り適当に読書でもしようとベッドの傍の台に積み置きしていた文庫本に手を伸ばす。

 すると、あるものが目に留まった。それは両親と子供の頃の俺が写った家族写真を入れた写真立てだ。

 この写真は両親の部屋に置いてあったもので俺が掃除の際に持ち出したのだ。

 気が付けばそれを手に取り眺めていた。今から今から十年前の写真なだけあって当然俺の姿は掌サイズだ。よく見ると薄っすらと後ろに琉助家族の仲睦まじい姿が見えた。今は仲良くないと風の噂で聞いた事がある。他所様の家庭には直接言いたくないが彼らが心の奥底では繋がっていると俺は信じている。

  

 写真立てをそっと台に戻した。今度こそ、文庫本を手に取った。そのままベッドに寝転がりながら読書を始めた。

 しばらく読書に没頭してしまった。気付けばもう五時だった。しかし、積み本は半分以上は消費出来た。


「しまった。昼飯を忘れてた」


 外の様子を見るとまだ雨が降っている。勢い自体は朝よりも弱くなっているようだ。そっと、スマートフォンを開いて天気アプリを確認した。しかし、この雨は今夜一杯は降り続けるらしい。だが、買い出しに行くには問題ない。


 外に出るために黒い長袖の上着を羽織った。

 二階に降り玄関に向かおうとした時、インターホンが鳴った。カメラで相手を確認してみると、桃色のウサギのお面を被り黒い革ジャンを着込んだ謎の男が金属バットを手に取った姿で映っていた。

 明らかにヤバい空気がプンプンする。てか、こんな展開アメリカのホラー映画でしか見た事ないよ。


「そちら、山門健さんのお宅で間違いありませんか?ゆ・う・び・ん・物が届いてんですわ。受け取りお願いしてもらってもいいですか?」


 その声はガタイに比べて、明らかに高い。多分だが、ヘリウムガスを吸っているのだろう。そのせいで余計に不気味さが増している。

 てか、我が家はネットショッピングよりも直接店で買う派だから、商品が届くはずが無い。あと、配達員にしては口悪すぎ。

 しばらくするとカメラから男が見えなくなった。俺が帰ったかと、安堵した直後、ドーンッ!という音が玄関から鳴った。ドアを思いっきり開こうとしたのだろう。幸いのも鍵はしまっていた為、ドアからは侵入できない。

 これは琉助とおっさんのお陰で鍵は掛かる様にしている。


「お邪魔しまーす♪」


 しかし、庭の方に回り込まれた。

 奴の侵入経路は窓だ!

 金属バットで分厚い窓ガラスを破壊した。そのまま割れた窓ガラスの穴から屈みながら不法侵入して来た。濡れ姿に土足の為、せっかく掃除したフローリングが、びちょびちょだよ。


「こんにちわ。殺人野郎♪」


 片手で金属バットを振りまわしながらこちらに近づいて来る。俺は壁を背にして、後ろに下がりながら交渉を試みた。


「気のせいなら良いんだけど、あなた様の方がその称号似合う気がしません?」


 だって覆面にヘリウムに金属バットだよ。明らかに殺りに来てんじゃん。


「とりま死ねぇい!」


 言うやいなやバッドで俺の頭を割るためにフルスイングしてきた。

 即座に反応して、それを回避した。

 適当な理由で人を殺しに来て欲しく無いんですが。


「うおっ!危なッ!本気で殺す気かよ。犯罪ですよ、それ!」


 空振ったバッドはフローリングを叩いて、持ち主に振動でダメージを与えた。

 バットを通して相手は腕に衝撃が行ったはずなのにあまり怯んでらっしゃらない。もしかして、ヤってる?薬物。

 

「くぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅう。痺れる、ね!」


 次は横方向にフルスイングを噛ましてきた。俺は、とっさにバックステップして回避した。


「避けるなよ!」


 今度はバッドを雑に振り回してきた。

 動きこそ無駄が多いが、俺にそれを付ける程の実力は無いので避けることに専念した。

 避ける度に壁や家具などにそれが当たりドンドンと破壊されていく。おまけと言わんばかりに室内干し洗濯物まで落とされてしまった。

 あー、せっかく干してたのに。

 だが、雨で濡れた靴で半乾きの衣服を踏んだことで男はバランスを崩し、その場に転んだ。


「おらよっと!」


 その隙を利用しない程俺もお人好しではない。すかさず、バッドを持っている手を蹴り飛ばし、それを窓の方までスライドさせた。


「いってぇな!人様に暴力振るうとか、どんな神経してんだよ」


「どの口がそれ言うんだよ」


 特大のブーメラン発言をしながら男が立ち上がった。男はすぐさまバッドを取りに走って向かいだすが、俺はそれを阻止する様に後ろからタックルする。


「廊下と室内では走らないでくださいよ。コレ小学校で習わなかった?」


 俺は男ごと窓ガラスを突き破って、庭に出た。


「そもそもテメェに人権なんてないんだよ。この殺人野郎。お前こそ習わなかったのか?殺人野郎の家は荒らしていいってッよ!」


 どこの国の道徳ですか、それ?

 そもそもなんだよ殺人野郎って、俺人殺したこと無いんだけど。憶測で人権剥奪される国なの?日本って?


「人違いじゃねぇのか、それ?」


山門健(やまとたける)だろ、客船事件の唯一の生存者の」


 確かにそれは俺の名前だ。でも唯一ってのはどういうことだ?確か生存者は俺含めて二人いたはずだ。


「ニュースではもう一人居なかったか?」


「そいつは実際には船なんか乗ってなかったことが判明したんだよ。概ね、自殺後に注目浴びたかっただけじゃないかってよ。だが、テメェは確実に船に居た。生存できたのは、お前が事件の犯人だからって事なんだよ」


 俺の事を指差し、今回の襲撃の動機を丁寧に教えてくれる。だが、こちらとしては記憶が無い為、何とも言えない。


「先に証拠だしてからこういうことしろよ」


 だが証拠も無しに罪だ、どうの言われるのは少々ムカつく。


「それじゃ、遅いから俺たちが人誅(じんちゅう)してんだろがよぉ」


 格好付けてそう言うが、ピンクのウサちゃんお面着けている時点で格好よく無い。


「るろうに剣心の読み過ぎだ」

 

 呆れた様にそう言ったのは良いが、正直状況は辛い。

 庭にはガラスの破片が散らばっている。

 奴は靴を履いているから動けるが、俺の方は靴下だから下手に動けない。

 ならば、俺も覚悟を決めよう。向かってくる男に背を向けて、窓の割れ目に飛び込んだ。その際にはジーンズが引っかかってしまい少し破れたが、ダメージジーンズってことで多めにみよう。


「卑怯だぞッ!」

 

 男は俺の方を向いて叫ぶが、それは俺の身体能力が凄いって事で多めにみてくれ。俺もジーンズを多めにみた。

 しかし、何を思ったのか男も俺に続き窓に飛び込もう走り出す。

 こういう戦いは先に地の利を得た方が勝つんだよ。シスの復讐でオビワンが言っていただろ。

 俺は冷静に床に転がるバッドを拾い、それを突き出し、飛び込んで来る相手を庭に押し返した。


「これ返すぜ」


 そのままバットも男に投げ渡す様に庭に捨てた。

 背中を地面に向けながら、ガラスの破片が散らばる地面に落下していった。デスマッチの試合は見た事が無いがこれはすごく痛そうだ。死んでない事を祈る。

 そのまま男は完全に気を失っているようだ。


「ふぅー。何だったんだ、コイツ?」


 その後、玄関から庭に回り込んで男の手足を掃除の際に余ったビニールテープで頑丈に何重にも縛って警察に通報した。

 

 せっかく奇麗にした家が再び汚くなってしまった。

 これは主犯格には責任を取ってもらわなければいけないな。



 ###############


 

 糞親父はあまりの恐怖に失禁してしまった。

 その余りもみっともない姿を見て殺す気も起きなかった。


 俺はすぐさま救急車を呼び、来る前に人間サイズの蠅を俺の部屋に引きずって隠した。

 その最中、ボットン便所のズボンのポケットが膨らんでいることに気付いた。その中には、普段奴が吸っている煙草が入っていた。

 これだけは昔から唯一変わっていない。俺が憧れた親父の象徴。

 俺はそれを取り出し、口に咥えて火を付けた。


「不味いな」


 憧れの味は思ったよりも不味かった。


 その後は、駆けつけた救急車に母と共に乗り病院まで付き添った。

 

「もう少し打つ所が悪かったら本当に危なかったですよ。どうしてこんなことになったのですか?」


 正直にウジ虫が投げたアルコール飲料の瓶が頭に当たったと言えば良いが、それを言えば確実にシロアリは警察に捕まってしまう。そうすれば、俺達の生活が完全に終わる。


「僕が帰ってきたら母が倒れていたんです。足を滑らせた際に床に転がっていた父のお酒の瓶に頭をぶつけた事しか分かりません」


 こう言う時は少し事実を交えた方が、相手は信じやすい。


「そうですか、念のためにお父さんを呼ぶことはできませんか?」


「すいません、父はこの時間帯どこに居るかは家族のだれも分からないんです」


 流石に家で気絶してるなんて言えるはずがないので適当に嘘をついた。


「分かりました。とりあえずは病院のベッドで寝かしておきましょう。最悪の場合は入院も考えておいてください。手術など必要無いのでその辺は心配しないでください」


 確か、コックローチが家族全員に様々な保険を掛けているはずなので、その辺のお金の心配はないだろう。知能指数が低い間抜けの事だから、金が無くなったら保険金詐欺でもするつもりだったのだろう。


 母さんが目覚めるまで病院に居ることも考えていたが、羽虫をいつまでも家に放置するわけにもいかないし、二人が帰って来た時に何をされるか分かったもんじゃない。


 それに今夜はアイツを始末する。

 これだけはもう後戻りできない。



 ###############



 警察署に御呼ばれして、事情聴取を受けることになった。

 どうやら犯人はネット掲示板で集まった一人らしく、これから第二陣が来ることも分かった。

 警察には犯人を捕らえるために囮になってくれないかと提案を受けたので、『喜んで』と、軽いノリでその提案を受けた。


 最初の襲撃者曰く、主犯格のユーザーが俺の家の住所や学校の名前をマスコミにリークしたらしい。

 そんな事をして被害が無い者は限られてくる。

 その中で、掲示板をしている奴となると、犯人は琉助だろう。これはあくまでも俺の仮説に過ぎないから、警察に言うことはなかった。これは単に違ってほしいからという幼稚な理由もあっただろう。


 最悪の場合俺には妖気法がある。妖気を纏うことがまだ完璧ではないが、相手がおっさんクラスではないなら問題はないはずだ。


 やっと警察署から解放されて、家に帰れた。帰り際に警察官の一人から小型の発信機を預かった。何かあったら、ボタンを押せば警察に居場所が伝わるらしい。

 

「よぉ、琉助。今日は来ないんじゃなかったのか?」


 家に着くと門の前にコンビニのビニール傘を差した琉助が立っていた。どうやら、本当に琉助が関わっていたらしい。

 紺色のトレンチコートに身を包んでいる琉助は真っ直ぐ俺を見据えてこう言ってきた。


「あー、昨日お前の家に忘れ物しちまってな。取りに来たんだが、お前が不在だったから、待ってたんだ。何かあったのか?」


「いやー、晩飯買いに行こうと家を出たら、家に空き巣に入られたみたいでな、今、警察のとこ行ってきた」


 それをきてもさして驚くことはない様子。

 昔から感情を押し殺すのが得意だったもんな琉助は。こんな事では動揺するはずがない。


「そうか、家の掃除手伝おうか?と言っても俺の忘れ物探すついでな」


「マジか!それはありがてぇや」


 そうして琉助を家に上げた。

 玄関に手稲に靴を並べて、リビングに通した。


「こりゃ、ひでぇな。ガラスとかどうなってんだ」


 窓ガラスは応急措置として段ボールとガムテープで塞いでいる。

 床などは軽く拭いたが、壊れた家具や壁は直せるはずもなにので、そのままだ。


「うわぁテレビとかばきばきじゃねぇか。映んのこれ?」


「一応は点くぜ画面は映らないけどな。音声だけだ」


「そうだな、可哀そうだから。飯作ってやるよ」


 あの男はキッチンまで行っていないので、そっちはほぼ無傷だ。

 まるで、この時のための伏線かのように。


 琉助はものの数分で晩飯を完成させた。料理中はずっと見張っていたから、怪しい行動はしていない。

 晩飯はチャーハンを筆頭にした中華定食だ。ご丁寧にレンゲまで付いている。

 だがどこか怪しい、食べるのを躊躇していると琉助も同じ定食をもって机に着いた。


「おいおい、毒なんて入れてないぜ」


 そういうと琉助は自分のチャーハンを食べて見せて、安全だと証明した。だが、口を滑らしたな。

 

「何だよ、毒って?」


 ここは追及してみよう。


「だって、夕方の襲撃は俺が仕込んだんだぜ。お前なら警戒すると思ってな」


「ッ!・・・・・・・・・」


 琉助があっさり自白した。


「どういうことだよ。それは!」


 俺は机をバンッ!と叩き立ち上がった。


「いいから先に飯食えよ。冷めたら不味いだろ。話は後だ」


「本当に入ってないんだよな?」


「ああ、食べ物を粗末にするのは嫌いだからな」


 そうか。と一言言ってレンゲでチャーハンをすくって口に入れた。


「ッ!」


「どうした?」


 琉助がニヤリと笑って聞いてきた。

 こ、コイツ。


「美味い。滅茶苦茶美味いなこれ!」


 正直、凄い美味い。


「だろ?」


 その後、数分もしないうちに二人して完食した。

 洗い場に食器を置くと、琉助が口を開いた。


「さてと、話そうか。面貸せよ」


「いいぜ。どこ行く?」


 俺もそれに付いて行き、玄関を出た。


「あそこに行こうぜあの公園」


「ああ、あの公園だな」


 共に並んで道を歩く、傘に雨が当たる音がパチパチと鳴るがそこまで強くない。

 あと一時間もすれば晴れるだろう。


「そこにお友達は居るのか?」


「誰も呼んでいないぜ。一人捕まったら、ビビッて来てない」


 あっ、それも知ってんのね。


「まぁ、それはそれでちょうど良いや」


 琉助はどこか落ち着いた様子だ。

 何かの覚悟を決めているかの様な。 いや気のせいか?


「自分の犯した罪は結局のところ、自分でしか責任取れないからな」


 琉助はボソリと何かを呟いた様だが、雨音のせいで上手く聞き取れなかった。が、もう一度それを聞くのも野暮だろう。

 その後は幾つかの雑談を交わしながら、俺たちは例の写真の撮影場所に到着した。


「着いたぜ琉助。話ってなんだよ?」


 俺をこんなところまで連れて来たんだからそれ相応の理由があるのだろう。


「・・・・・・・・・」


 琉助は俺の声に無反応でただ背中を向けている。

 その背中からは悲壮感が漂っている気がした。

 だから俺は再び尋ねた。


「教えてくれ、お前の心の本音を」


 親友とのはじめての対話が始まった。


次回、琉助とのお話が終わります。

 

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