14話 Death of Shadow Village
初めにっ、グロ注意ッ!グロ注意だッ!です。
Scene1
10月25日23時59分
俺がそこに辿りた時には既に決着がついていた。
倒れる影村のおっさんに、それを見下す巨大な鬼。
「テメェ、よくもおっさんを!」
いまさっき着地して、なおかつ戦闘の後のために全身がボロボロになっている。口周りは血まみれだし顔は顔は酷くアザが出来ている。
「よく見ろ、まだ死んでない。気絶してるだけだ」
言われて、少しホッとする。まだ助かる。今、病院にか運べば、命を救える。
そう思ったつかの間に、鬼は両拳をおっさん目掛けて振り下ろした。
「あああありゃ!」
「ッ!?」
ドンッ!と大きな音が響く。部屋が揺れた。
「これで死んだ」
10月26日0時00分
血で染まった腕を持ち上げて、その血を見せつけてくる。今の一撃は心臓を破壊して人を死に追いやるものだと確かに確信できるものだと理解できる。
だから叫んだ。怒りのあまり我を忘れるほどに。
「おまあああああああああえぇぇぇッ!!!!!!!!」
「何叫んでんだ?人死を見るのは初めじゃないだろ」
そう言いながら、鬼はおっさんの頭に足で踏みつける。
「その足をどけろよッ!今すぐ、その汚ねぇ足どけろっ」
「まぁ、ここまで残酷なのは初めてだろがな」
「まさかッ!テメェ」
鬼は俺の言葉を無視するように足を踏み込んだ。
「だが、恨みの種は絶やさなければなァ」
「やめろぉぉぉオーーーーーーーーーーーーーッ!?」
そのままおっさんの頭を踏み砕いてしまった。血と瞳が溢れる。そして、床には頭蓋骨と潰れた脳みそが散らかる。それらで汚れた足で、こちらに歩んでくる。
「テメェっ、ぶっ殺す」
俺は右拳に残り少ない妖気を纏った。
時は遡り10月25日11時40分
「これで終わりだ。無駄な抵抗御苦労さん。茜月夜海」
私は結局、白鬼に敵わずこうして手首を縛られ拘束されてしまった。確かに炎の糸は効果はあった、しかしそれ以上に白鬼の能力が上だった。
「くっ、殺しなさい。生き恥を晒し「おっとっと。殺さないよ。言っただろ、俺にも俺の目的があるんでな。ここは捕獲だけにしとくんだ。まぁ辱めはしないから安心しな」」
「この姿を見て、よくそう言えますね」
私は戦いの中で布をほぼ消費してしまって、下着姿で縛り上げられている。
「俺が剥いだわけじゃない。勝手に脱いだのは君。確かに鬱陶しいから、剥いでやろうかとも考えたが、踏みとどまった。君はまだ中学生だしね」
白鬼が恐ろしいと思えたのは、彼が私に対して拘束以外の攻撃をしなかったこと。それながら無傷。しかし、噂で聞いた話では、白鬼は残虐非道な鬼、こんな優しく済ますはずなんて。
「こんな辱めをして、何のつもりですか。貴方の目的は何です!」
「知らない方がいい」
酷く冷たい言葉だった。今までのおちゃらけた雰囲気が瞬きで冷める。
白鬼はこちらに近付き、吐息のかかる位置まで顔を近づけた。
「君は戦いなんて無縁で良いんだよ。お姫様としての役割を果たしてくれればね」
そして耳元で囁かれる。その言葉の意味を理解した瞬間、全身が鳥肌に覆われる。
「さてと、そろそろ気絶してもらうよ。グッバイ」
白鬼が手を伸ばしてくる。これで終わりかと覚悟を決めたその時、何かが床を突き破って現れた。
「何だぁ急に」
「見つけたぞ。クソ鬼」
赤い衣に包まれた男。あの特徴的な義手の右腕はなぜか生身の腕に生え変わっている。
「健さまっ!」
「おいおいおいおいおいおいおいおい。外で殺したはずの山門健がどぉしてここにいるんだ?」
「知るかよ、そんな事。テメェをぶっ飛ばしに来た」
ゆっくりとこちらに近づいて来る健さまを見て、右腕以外にも気付いたことがある。それは明らかに肉体的な力が増しているということ。
「俺には勝てないってこと理解してくれよ、なぁあッ『分散する悪意』」
白鬼は床を変容させてあの鋭利な畝りを生み出す。それが真っ直ぐ健さまに向かっていく。それに対して彼はただ、片手の掌を突き出すだけ。
「『青岩硬亀』」
畝りは掌を貫通することはなくそこで止まってしまった。
「さっきはよぉ。クソブラコン野郎との連戦でよぉ、集中力が下がってたんだよなぁあ。でもぉ今はもう元気いっぱいだぜ」
そう言葉を残して、姿が消えた。瞬間、身体が浮いた。
「大丈夫か、夜海。とりあえず寒い?熱い?まぁいい、これ着てろ」
「えっ!?」
私は自分ですら目で追えない速度で救出されていた。ほんの数十分前までは、自分よりも格下と思っていた人がいつの間にか自分を超えていた。
彼は自分の赤い和服を私に渡して、再度白鬼に向き直る。
「カッコイイね。でも、俺に勝てなきゃ、台無しだぜ」
でも、物理攻撃は白鬼には効かない。どうやって戦うつもりだろうか、ひょっとして能力に気付いていないのかもしれません。
「健さまッ!白鬼は周囲の物だけでなく、自分に体すら分解して、攻撃をかわします!物理では倒せません」
「ありがとな。でも、俺に能力は関係ない」
そういう健さまの背中はとても大きく見えた。
次の瞬間、彼の右腕が発火した。
「『深紅の拳・炎縁』」
「山門健。君も炎を扱うのか、良いね」
白鬼はそう言いながら、身体を分解する。だが、さっきの交戦で見た通り炎には弱いはず。なのに燃える拳を前にどうして。
「炎は確かに俺に効く。それは認めよう。でも、見え見えの弱点を残しておいたら、『序列十位』には入れないんだよ」
急に呼吸が苦しくなってきた。周囲を見ると再び炎が消えている。そしてさっきは気付かなかったが、白鬼な能力の本質は究極的物質操作能力。妖気を纏えば例え気体ですら操れるのです!つまり、燃焼に必要な酸素を全て掌握してしまった。
当然、健さまの拳の炎も消えてしまう。
「夜海、体力が回復してねぇならここから逃げろ」
確かにこの状況で酸素を確保する方法は私にはない。だんだんと苦しくなってきた。健さまが無事なのが不思議だが、ここは一旦引く。
「お言葉に甘えさせてもらいますわ」
壁から飛び降る。
もらった紅い和服を糸に変えて、壁に突き刺す。そうして勢いを殺して無事に着地する。
「ッ!?どういうことです!」
一階フロアを見ると、酷く荒れている。壁もほとんどが破壊されていて、中が丸見えだった。その中では謎の鬼と影村のおじさまが激闘を繰り広げていた。
「アルさま!」
よく見ると壁際でアルさまが気絶していることに気が付いた。あの場では危ないと判断して、急いで糸でこちらまで救出する。
「大事ですか!目を覚ましてっ!?なんて」
見るとアルさまの身体はボロボロだ。特に腕は骨が剥き出しになるほどに破壊されている。急いで糸を伸ばして応急処置をする。
「今助けます!」
普段、糸は攻撃のためにしか使用しないが、師匠さまからは念の為に応急処置の訓練を受けさせられていた。そのお陰で正確な縫合ができるようになった。
処置を初めてしばらく経つと、また和服の面積はほとんどなくなり、下着姿になっていた。しかし、このタイミングでアルさまが目を覚ました。
「夜海ぃか。お師匠は?」
「向こうで戦っています。それに健さまも上でまだ」
「そうか、、、服は?」
「それよりもです。おじさま達の勝利を祈るよりも先に、私たちの生存を考えないと」
「何が来てる?」
「大軍です」
処置をしながらレーダーで索敵をしていた。すると、森の方角から物凄い数の気配が検知された。そしてもう一つ、鬼とは違う何か悍ましい気配もこちらに向かっているのを検知した。
敵の練度にもよるが、この姿でもなんとかはなる。ただし一人でも怪物が紛れていたら、ここも全滅する。
「気合いを入れましょう」
二人が勝利することを祈りながらも再度的に向かって戦う姿勢を示す。
Scene2
10月25日23時45分
急に酸素が消えたのに、何故か平気だった。これは妖気によるものか?いいや、もう自分がまともじゃなくなったのだろう。今日だけでもそれを思い知った。
「観客がいなくなって、やる気は失せたとは言わせないぞ。山門健」
ただ今はどうでも良い。
俺はこの目の前のムカつく鬼をぶっ飛ばすのだ。
「炎が無ければ、倒せねぇとでも?」
夜海の話じゃあ、奴は物理攻撃を透かす。
「当然だ。俺の『分散する悪意』は無敵の能力だ」
突如、何かに殴り飛ばされる。咄嗟の防御も間に合わず、口腔内が血まみれになってしまった。
「ゲハァっ。なんだ今の」
おそらく何かを操って殴ってきた。この透明度、もしかすると。
「空気か」
「ご明察。頭は回るようだな。とは言っても能力を開設するほど優しくはないぞ。このままリンチだ」
それから何度も空気の塊に殴られる。
その場で動くこともままならず、ただタコ殴りに合う。しかも、ご丁寧に妖気を纏ってるから破壊力抜群だ。
「さっきは殺し損ねて、謝る。だが、あれで生きてる方が不気味だぞ。今度こそ死んだけ」
何度何度も殴られる中で段々と感覚が変化していった。まるで痛みも衝撃も感じない。
「悪い、もうこの攻撃慣れたわ」
「何を言ってやがる?」
俺は白鬼に近づく。そして拳に妖気を纏う。その間も何度も攻撃を受けるが、ダメージにはならない。
「どういうロジックだ?」
「さぁな。俺は攻撃を受けるたびに強くなるらしい」
「ふはっ、だとしで俺の能力は突破出来ないんだよ!」
「それはどうかな?『赤破壊鬼』」
そう身体を分解しながら、嘲笑ってくる白鬼の腹目掛けて、渾身な一撃を叩き込んだ。なんとなく当たる気がした。
「うがぁ、、ああ」
その予感は当たり、白鬼にも当たった。予想だにしない一撃に悶絶する。
「何故、あて、当てれるっ」
「さぁな」
そんな白鬼の首根っこを掴み、壁に投げ飛ばす。
「お前の能力にも弱点があんじゃあねぇか」
「ふざけっ。何をぉっ、、グハァ」
そのまま白鬼に駆け寄り、彼の身体を持ち上げ、床に叩きつける。白鬼は吐血しながら、何とか立ち上がる。しかしあまりダメージを受け慣れていないのか、足腰はガタガタと震えている。
「散々、上から煽ってやがったがっ、同じ土俵に立てべばっ、ひょろひょろっじゃあねぇかッ!」
俺はそんな白鬼の顔面を何度も殴り、そのまま殴り飛ばす。
「黙って聞いていればっ、いい気になりやがってッ『分散する悪意』ッ」
身体を粒子状に分散させて、体積を広げる。しかし密度が低い、まるで気体だ。これならどこを殴ってもダメージにはならないだろう。
攻撃がどこからくるにか、これが分からない。しかし床や壁から生えてくる畝りは簡単に破壊できる為に問題ではない。だが、攻撃できないなら、ダラダラと長引くだけ、いっそ試しに殴るか。
「『深紅の拳』」
拳に妖気を集中して空を殴る。当然、空振りになる。しかし、不思議なことが起こった。パンチによる衝撃が壁を破壊した。
「ッ!?」
白鬼は未だにどこにいるか分からないが、倒し方が分かった。その破壊された壁に近づく。そして酸素を確保する。
「もらうぜ、この酸素をッ!『深紅の拳・炎縁』」
拳に炎を灯す。この炎は全ての能力を無効化する効果を持つ。その拳で空気を殴った。
炎が一気に燃え上がり、白鬼のその姿を表した。
「ガウはぁッ!?」
そこに対して一気に距離を詰める。顎に目掛けてアッパーをかまして、連続で殴る。
「この俺にっここまでのっダメージをっ!与えたのは、久しぶりだ」
白鬼は口の中を血まみれになりながらも、逆に殴ってくる。その一撃で俺も血を吹き出す。
お互いに血まみれになりながらも殴り合い、最後には取っ組み合いの形になり、睨み合う。
「そろそろ決着つけようぜ。白鬼ぃィイイイッ!」
「ああっ、そうだな。山門健ぅ」
再度俺は拳に妖気を集中させる。
この時、山門健は気付いていないが、これまでの戦いの中で、炎を灯さずとも妖気を纏い触れるだけで、相手の能力を無効化するまでに成長しているのだ。
「『深紅の拳』ォッ!」「『分散する悪意』ィ!」
互いに全力の攻撃を相手の顔面にぶちかました。
顔面の骨が破壊されたと思えるほどの衝撃が広がり、口から大量の血を垂らす。一方の白鬼は大きく床に倒れ伏した。まだ意識はあるが、立ち上がるほどの体力は残っていない様子だった。
「俺の勝ちだな」
俺は何とか立っているのがやっとだった。だが、勝ったのは俺だ。そう思ったのも束の間、床が壁が、二階より上の全てのフロアが消滅した。
10月25日11時59分
吹き飛ばされて、そこから降ってきた。
そして、現在へ。
Scene3
10月26日0時00分
白鬼との激闘を終えて、辿り着いた一階。
目の前で影村のおっさんが殺され頭を踏み潰された。
「『深紅の拳』ッ!」
「一発受けてやる、来い」
『真紅の拳』は今の俺の最高火力技、使わない選択肢はない。
拳が圧迫されることによって、拳内の血管が破裂して血に染まる。そして、その拳が鬼の腹に当たる。
破裂音が夜空に轟く。
「あがぁあああっあああーーッ!」
俺の拳は当たると同時に吹き飛んでしまった。
「所詮はその程度。俺の肉体に痛みも与えられない」
「ふざけんじゃねぇっ!」
その体勢から勢いよく飛び、回し蹴りを頭に目掛けて放つが、後も容易く平手で止められた。その次の瞬間には右足が破裂した。
「くかがああああああああああ」
そして地面に堕ちた。
「もう無しか?終わりか?」
そう言いながら、黒鬼は俺の首を掴み顔の位置まで持ち上げた。もがき両手で必死に抵抗するが、無意味だ。
「ん?なんで右手がある?さっき破壊されたはず」
黒鬼は力を緩めることなく今度は足元を見る。そこには右足がきちんと生えていた。
「再生能力か?妖気では再現できないはずだ、、そうかそうか。お前はそういうやつだったか、、」
「はっ、、なっ、、せっ!」
「お前は俺と『同じ体質』だ。俺たちは動く屍。ゾンビだ」
「ッ!?」
黒鬼がそう言うと世界が止まったかのように思えた。俺の脳内に大きな思考が芽生える。
俺と同じ体質、それが指すことは俺の異常な再生能力だろう。そして、それに再生する為に肉体はその力を増加させる。これと全く同じだとすると、、、もうこれ以上は考えたくない。あまりにも悍ましいことだ。
「その証拠に、鼓動がない。心臓が止まってるじゃないか」
黒鬼は俺の胸にそっと手を置き、鼓動を確認する。そして、初めて自分でも気付く。本当に動いていないのだ。
「同じ体質。なら、殺し方は簡単」
一瞬、黒鬼の絞首が緩まる。その隙に逃げようとしたが、直後に大量の血を吐き出した。急に視界も掠れ始めて、異常な寒気さに襲われた。
薄い視界で寒気の方を見る。そこには胸に突き刺さった巨大な腕があった。ちょうど心臓の位置。
「見えないだろうが、今お前の心臓を掴んでいる。俺たち『屍鬼種』はこの程度じゃ死なんがな。こうやって潰してもッ!」
ブッジャァッ!だと何かが握り潰される音が背後から聞こえた。
「いくーーー破壊しようが、キンーーーー潰そうが、俺たちーーー生え変わる。だが、唯一ーーーない箇所がある。どーーと思う?」
もう意識が飛びそうだった。抵抗をしていた両手もいつのまにか重力に従っている。
「ーーーできないかっ。なら、ーーー教えてやる。ーーだよ。多少はーーーー問題はないがーーーー破壊されーーもう無理だ。敵をーーーー脳もーーする」
もはや奴が何を言ってるかも認識できない。
そして、ポキッという音と共に俺の意識は途絶えた。
10月26日0時05分
Scene4
黒鬼は山門健の首をへし折った。しかし俺たちは心臓を潰されようが、首を折られようとも死ぬことはない。頭を潰すとも言ったが、実際それが本当かは分からない。
この姿に作り替えたのは『紅鬼様』影村寿雄に殺された黒崎灯篭丸は鬼として蘇った。ゆえに死に方を知るのは紅鬼様のみ。
「だが、ここまで破壊されれば、俺たちでも再生には時間がかかるなッ!」
山門健の身体を本気で壁に投げつける。壁に衝突すると同時に四肢は弾け飛び肉があたりに散らばる。これでも数時間後には復活するだろう。
ただ体力を回復するだけなら、そこまで回復に時間は掛からない、故に影村寿雄から与えられた全てのダメージはすでに回復している。というより、奴の攻撃は回復量に対して低かった。そのために戦闘中に一切のダメージを受けていない。
「さてと、あとは例の刀を探すだけか」
紅鬼様も物好きなことだ。そんなに特別な刀なのだろうか。岩手の時も、影村寿雄を襲撃する以外にも例の刀を手に入れることが目的だった。俺が居れば奴らに刀を奪われることもなく、もっと早い段階で復讐が達成できたはずなのだ。
かたっ、物音が耳に入る。この場にいるのは俺と肉塊になって再生待ちの山門健だけのはず。まだ、茜月夜海などの死亡報告は上がっていないが、奴か?
彼女程度の実力では触れるだけで殺せる、以前問題はないが、物音の方向に目をやる。すると、何かものすごい速度で横顔を殴り飛ばされた。
「ッ!?」
ありえない威力だ。攻撃力が自分の肉体練度を上回っている、それはこの世でも一握りしかいないはず。そしてこのタイミングで、その速度でその攻撃が可能なのは一人しか知らない。
「蒼鬼かッ!!!」
立ち上がり宿敵の名前を吠える。しかし、何んにも反応はない。その代わりに三発の攻撃が腹に決められた。その威力に思わず後方まで飛ばされる。
「いや、蒼鬼のモノよりも威力は低いなっ。何者だッ!」
だとすると自分の防御力と回復量を上回る攻撃が可能なのは、国内にはいないはず。来ていれば必ず耳に入る。いや、マールボロはギリギリそのレベルに至っているが、奴は鈍鬼が始末したはず。しくじったとしても、手負でこのレベルの攻撃は不可能なはず。
いや、現状でこのレベルに達していてもおかしくはない人間がもう一人いた。いや、もう人間ではないな。
「山門健ッ!」
さっき投げ飛ばした方向を見てもそこにあの肉塊はない。壁を走り跳ね、もはや俺の目でも追えない速度で移動する風の音を感じる。これではどこから攻撃が来るかが分からないな。だが、攻撃までの間隔が長い、おかげで回復が追いついた。
「早く来ないと、振り出しだぞ。早くこい、それとも反撃が怖いか?」
煽るように大声で叫ぶ。
そして、瞬きをした瞬間に右腕が切り飛ばされた。
「ッ!?」
驚いた。一〇〇年以上の付き合いがある右腕と別れて、それが宙を舞っている。
「俺のビンテージ物の肉体を欠損させるか、、、だが、所詮その程度だな」
腕は生えるし、生え変わる前に繋がれば自然治癒力で元通りになる。腕を切られたダメージ程度では倒せない。
「しかし、流石に目では追えんな。だが、目押しは得意だ」
宙に滞空している右腕を掴む。
それを正面の壁目掛けて投擲する。それがタイミングよく山門健の肉体に衝突して、奴の身体をバラバラに破壊した。
「この世で最も硬いは、ダイアモンドじゃなくっ、この俺の肉体だ」
しかし弾け飛んだ山門健の肉体は、その直後に完全に再生を終えていた。そして、再び動き始めようとする。それを逃すほど甘くはない。
「奇妙なことだ。俺とお前は同じだと思っていたが、怪物並みにしぶといな」
一歩で壁まで音速で飛び、奴の首根っこを握る。このまま押し潰してもいい。そしたら、どっちから再生をするのかが、興味がある。
「ウガアアアアアっ、アガああああ」
顔を見ると白目を剥いて、口の周りは血と涎で汚れている。まるで理性のない野獣だ。
「そうか、肉体の回復に精神が追いついていないのか」
わずか一秒も経たないうちに、四肢が生え変わる。気絶した状態でも回復は行われるが、意識の回復には間に合わず、肉体が気絶するまえの意思によってのみ動かされている状態。
「しかし、不気味なのはその再生速度だ。俺でも指が生え変わるのに三日はかかる。性質は近くとも何かが違うのか?」
試しに右腕を引き千切る。しかし、それが再生はしなかった。
「今度はしないか。どういうことッ!」
強い衝撃が背中を叩く。あまりの衝撃で
「コイツ、左腕が伸びてやがるッ!」
本来右腕を再生させるためのエネルギーを全て、左腕の成長に使った?そんなことが可能なのか?
「気絶して、意思だけでそんな事が出来るのか?いや、無理だな思考が止まっている。本能でやるって言っても流石に限界はあるだろう。つまり、貴様は誰だ?」
その問いに答えるかのように、山門健は口を開いた。そこから猛き炎が放出された。
「何ッ!?」
咄嗟に片腕で防御の体勢をとるが、あまりの火力に、一瞬にして全身を焼き尽くした。身体の再生が追いつかない。特に前に出していた左腕は肉が蒸発して、完全に骨まで露出している。
「うが嗚呼嗚呼嗚呼嗚呼ああッ!?」
十二秒の後、炎が止まり解放された。破壊された体組織は再生を始める。しかし焼かれた皮膚は酷く黒く焼け焦げ、再生が遅い。
「何なんだ?今のは」
山門健の方を見ると口から大量の血を吐き出し、口から喉にかけてボロボロになっていた。あれだけの火力を出せば、身体は酷く破壊される当然だな。
「まるで『火蜥蜴』いや、『飛竜』だな」
何かの真祖化の影響か?いや、真祖化なら身体構造が完全に作り変わるはず、つまり火を吐いても喉は焼けないということはそれによる能力ではない。
「やはりお前の中に誰か居るな」
既に山門健の顔は完治している。
またあの炎を喰らえばひとたまりもないだろう。最低でもあち一分は再生に当てる必要がある。
「ああっ。この王が居る」
ようやく山門健、否、『王』と名乗る男が声を発する。
「この世の王は紅鬼様ただ一人だ。貴様は王を名乗る不届者、ここで始末する」
「くくくっ、紅鬼だ?あまりこの王を笑わせるなよ、、。テメェのボスの名前は『ーーーーー』だろうが」
「何故知っている!」
その名は紅鬼様が封印した本当の名前だ。この世界では俺しか知らない、知られてはいけない名前。
「お前がその理由を知る機会はない。この王、この肉体を奪うのが限界みたいだ」
そう言い残して、王は地面に倒れた。
千夜一夜物語のように話が気になり殺すのをやめるほど俺は愚者ではない。コイツは間違いなくこの先、俺たちの脅威となる。ここで殺す必要がある。
頭を踏み砕く。
足が頭に当たるその瞬間、糸のようなモノが山門健を引っ張り館の外まで引きずり出した。
「ッ!?この糸は茜月夜海ッ!?」
その方向を見ると茜月夜海と黒崎亜流、あとは知らない男二人が山門健を回収していた。それと、知らない男の一人が例の刀を持っている。
「逃すと」
全てを奪うべく、動こうとすると、全身に強烈な負荷が掛かり、思わずその場に膝を着いてしまった。
「今夜はここまでですわね」
流石にもう動けんか。
あの王に受けた傷が大きすぎる。
「貴様ら、次に会うときは鏖殺だ。その覚悟で震えていろ」
壁が完全に崩壊して、俺たちを隔てた。
妖気法使いたちは逃亡した。
10月26日0時10分
お疲れ様です
今回は1話にどれだけ詰められるかの勝負でした。
次回から脱出編です。まだ鬼は残ってます。
山門健 Lv.86(肉体レベル63+妖気法レベル23)
黒鬼 Lv.97(純肉体レベル)




