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紅の赤  作者: 青階透
鬼殺し編プロローグ
3/61

2話 妖気法

 自分こと、山門健(やまとたける)は、必死で勉強して合格した学校を辞めました。

 理由はシンプルです。これ以上は迷惑をかけたくない。それだけだです。転校という手段もありましたが、それでは癌を転移させるだけであると考え、解決には繋がらないと思い、そう決断させて貰いましたマル。

 丁寧な言葉の文章は嫌いなんだよな。だが、コレは、やめる際に教頭から書けと強制されたので仕方なく書きました。最初はムカついて文庫本一冊分の量の文字数を書いてやろうとしたら、普通にキツくて止めた。だから、現代文の教諭の花棚先生に添削して貰いながら先の文章を書き上げた。なんで、俺辞めるのに卒業論文擬きを書かんといかんの?


 あの日以来、家には毎日のようにマスコミがやってきて事件について聞かれる。ネットでは、自分が乗客を皆殺しにして、鬼がやったとか言ってるなどと誹謗中傷を書かれ、挙げ句の果てにはニュースに映った映像から家まで特定された。

 マスコミの正式名称知ってる?マスコミニュケーションだよ。コミュニケーションの意味、辞書で調べてみろよ、マジで。


 今日も何もする気が起きず、窓から外を眺めていた。すると、玄関から知ってる顔が勝手に入って来た。


「鍵開いてるから入るぞー。いいな」


 彼の名前は馬飼琉助(うまがいりゅうすけ)。彼とは小学生の頃、俺が転校してきた時からの友人で、要するに若干幼馴染だ。

 背丈は174㎝ある俺より少し背の高い178㎝。彼の顔は非常に整っておりニキビ一つとてない。髪の毛は茶髪で地毛とは思えない程の濃さで短く切りそろえている。


 彼が来た理由は、俺の乱れた食生活を正すために食事管理を俺が頼んだからだ。受験勉強が忙しいというのに快く引き受けてくれた。心優し男。さぞかし女性におモテになるのだろう。


「聞いたぞ。せっかく受かったのに辞めたんだってな、学校。勿体無いなー、俺なんか、浪人生なのに」


「いや俺以外の生徒や先生たちに迷惑を掛けるわけはいかないだろ」


「迷惑って言うのはもう遅いんじゃね?こんなスレ立ってるし」


 琉助が自前の携帯を見せてきた。

 そこには以前俺が教頭から見せられた某掲示板のスクリーンショットであった。


「いやいい。見たくない」


 内容を見まいと手でその画面を覆った。

 これ以上、この件に関わったら罪悪感に押しつぶされそうになる。


「まぁ、良いじゃん。まだ実害出てないんだから。そいや、今朝ポスト見たら封筒入ってたぞ。ほれ」


 つか、何勝手に人の家のポスト漁ってんの?まぁ良いか。コイツの事だし悪さしないだろ。


「差出人不明?何だこれ?」


「さぁーね。俺には分からないや。開けてみたら」


 封筒を開けると中には剥き出しのカッターの刃がそれはもう沢山入っていた。お金の無駄とはまさにこの事。


「うわぁ!?」


 殺意マックスじゃん。

 俺こんなに嫌われる事したっけ?


「おい、マジかよ。えげつねえなぁ」


 琉助はそう言いながら携帯で俺の事を撮影していた。その顔は完全に野次馬のそれだ。


「てか、何で動画撮ってるんだよ」


「え?だってリアクションを保存したかったから」


 ふざけた口調で言う琉助に対し疑問を投げかける。


「まさか、これお前が用意したんだじゃねえよな?」


 そんなことは無いと分かっていても、念のためということで。


「それは絶対にない。信じてくれ」


 先程のあっけらかんとした態度からは想像も出来ないような真面目な目つきで言われた。


「分かったよ。お前の事だし信用する。」


 そうしてこの話題は終わった。

 パン!と琉助が手を叩くと、彼は立ち上がりキッチンへ向かった。


「よし!気分転換だ。美味いもん食おうぜ」


 朝食として、出されたのはベーコンエッグとレタスとトマトのサラダ、そしてインスタントのオニオンスープだ。


「よし!料理終了。早く、早く食おうぜ♪いただきまーす」


「いただきます」


 ベーコンエッグを丁寧にナイフで切り、口に運んだ。口の中にベーコンの油とそれに絡んだ卵の甘味(かんみ)が広がり、とても美味しかった。他の皿はと思い、次にサラダを口に入れたトマトの酸味とさっぱりとしたレタスによって口の中をリフレッシュされて、どんどんと口に運ぶ速度が上がる。

 そうして十分もしないうちに、料理を完食した。


「ご馳走様でした」

「ご馳走様でした」


 2人ほぼ同時に完食した。

 琉助は何やら携帯をいじっているようで不意に話しかけてきた。


「テレビ点けて良いか?朝のニュースが見たいんだけど」


「ああ、別に構わないぜ」


 テレビでは連日のようにあの日の事を取り上げている。当事者の俺が言うのは何だが他に無いのだろうか? 

 テレビに昨日出会った女性の記者さんがモザイクなしで見覚えのある場所が映っていた。


『今日は生存者である山門健さんの学校に取材に来ました。さっそく登校中の生徒さんに聞いてみましょう』


 気分が悪くなったので俺は琉助に無言の圧を送り半強制的に番組を替えさせた。


「やべェ。もうネットで炎上し始めてんじゃん!」


「妥当だな」


 その後は幾つか琉助に勉強を教えて一時解散になった。


「ほんじゃ、また昼な。俺も家で勉強するから、何かあったらまた連絡してくれよな」


「ありがと。また後でな」


 琉助が帰ったあと、数分後ピンポンが鳴った。カメラを確認すると、小太りな中年男性が映っていた。

 手にはペンと手帳を持っていて首にはカメラをぶら下げているので一目で記者であると分かる。


「すいません。山門様のお宅で間違い無いでしょうか?私、フリーの斎藤壱(さいとうはじめ)という者なのですが、取材の為に少々お時間いただけませんかね?」


「すいません。今はそういう気分じゃないので」


 様々な記者が代る代る毎日やってくるのでその度に相手にすることが非常に面倒くさい。

 インターホン越しにそう返事をするも記者は、引き下がる気もないようだ。


「ほんのちょっとで良いんです。私、東京からわざわざ来たので、少しぐらいは質問させていただきたいんですが」


 断られたことで少し焦った様子で、早口になった。

 先程フリーの記者と言っていたので、俺に断られれば明日の食事も大変なのかもしれない。


「どこから来たかは、関係ないです。本当に今はそういう事を話したくないんです」


「本当にちょっとで良いんで、お願いします」


 そろそろうざくなってきた。

 こういう時の対処法は心得ている。


「帰ってください。警察呼びますよ」


 そう強く言い放ち、通話を遮断した。

 二、三分ぐらい経ったあと、再びインターホンが鳴った。


「しつこいですよ。本気で警察呼びますよ」


 そう言って通話を遮断しようとしたが、さっきの声とは全く異なる声が聞こえた。


「ワシ、そんなにしつこかった?まだ一回目のはずなんだけど」


 さっきとは全然声質が違った。陽気で少し高めの声だ。


「貴方は誰です?」


 カメラを覗くと怪しげな口髭を生やしたおっさんが映っている。


「ワシは影村寿雄(かげむらとしお)と言う。君が鬼と遭遇したと聞いて、遠方はるばるやって来た」


「間に合ってます」


 生憎さま、俺は宗教を信じていない。健全な仏教徒の日本人だ。

 しかし、すぐさまインターホンが鳴った。もう面倒臭いな。


「何なんですか。貴方は?」


「えー、また言うの?しょうがないな。ワシは影村寿雄と言う」


 おっさんは、若干面倒くさそうに最初から名乗ろうとした。

 一々ダルイな。もぉ。


「違います。目的の方です」


 お前はゲームのCPUかよと心の奥でツッコミながら尋ねた。


「ワシは、君に復讐の仕方を教えに来たんだよ」


 やっぱり宗教の勧誘じゃねえか。

 そういうのには興味が無いんだよ、マジで。


「は?キモッ」


 割かし強めの口調で突き放した。これでまだ来るなら多分ドマゾヒストだな。

 そうして、また、通話を終わらした。


「おや?鍵が掛かってないぞ。それでは、おじゃましまぁーす」


 どうやら琉助が閉め忘れたらしい。

 そのことに気付いたおっさんは家に勝手に入ってきた。


「貴方を不法侵入で訴えます。刑務所にぶち込まれる。楽しみにしておいて下さい。良いですねッ!」


 白いスーツに赤いネクタイ、そして変な帽子をした奇妙な格好のおっさんは不法侵入するないきなり家のキッチンを勝手に漁りだして、優雅に紅茶を飲み始めた。


「まぁまぁ、落ち着いて。紅茶飲む?」


 おっさんはそう言いながら、俺にポット夫人型のティーポッドを見せてくる。

 てか、何故ポット夫人?確かに母さんはディズニープリンセスで美女と野獣が一番好きだけど、それは初めて見る。


「いや、早く出て行けよ。てか、それウチの紅茶」


 俺の言う事を無視しながら、おっさんは再び紅茶を口に運んだ。


「熱つ!ワシ、アイスティー派なんだよね。でも、郷に入っては郷に従えと言うし、君の家では熱い紅茶を飲む。それがマナーだ」


 キリッとした眼で、こちらを向いているが、何だろう?物凄く腹立つ。


「マナーを遵守するなら、人の家に勝手に上がるな。聞いてんのか、てか、何でウチでは熱い紅茶を飲むのを知ってんだ?俺は紅茶飲まないぞ」


 俺は健全な日本人として烏龍茶が好きだ。緑茶と紅茶は飲まん。茶色とも言うし、お茶は茶色のしか飲まない。


「それは、君のご両親がそうしていたからだ」


 それは故人を悲しむような瞳をしていた。


「両親の知り合いでしたか、では、先程の失礼な態度申し訳ございませんでした」


 そうならそうと、先に言って欲しかった。

 紅茶を飲み干したおっさんがそっと口髭を親指でなぞると、妙な事を言った。


「いや、ワシは君の両親とは会ったことも話したこともないぞ」


 えっ、どういう事?

 こんなに日本語って難しいっけ?日本語検定三級持ってる俺でもイマイチ今の意味が分からん。


「え?じゃあ、何で両親がそうしてたと思ったんですか?」


「勘ってやつ?てか、基本、紅茶って出来立てもあったかい方が良いよね。」


 は?舐めてんのコイツ?

 さっきから人を馬鹿にしてるだろ。


「この家から出ていけッ!」


 堪忍袋の尾が発展途上国の奥地の吊り橋のロープばりにキレそうになって、俺はとうとうブチ切れてそう大声で叫んだ。


「と、冗談はさておき。本当はさっき見たんだ。この『瞳』でね」


 そう言うと、男は右の掌を開いてこちらに見せてきた。

 おっさんの掌にはなんと『瞳』がついていたのだ。そして、その純粋とはかけ離れた不気味な『瞳』が俺を真っ直ぐ見据えながら数回、瞬きした。

 

 あり得ない事象を目撃して声も出ず、その場で腰を抜かしてしまった。


「な、な、何なんですか?貴方は?」


「もう一度言おう。ワシは影村寿雄。日本に多分三人しか居ない。・・・・・妖気法使いの継承者じゃよ。山門健くん」


 そう言うと、また掌の『瞳』が瞬きした。


「妖気法使い?なんですか、それ」


 家にある広辞苑にも載ってないであろうワードに俺の好奇心がくすぐられる。


「簡単に言えば、妖気を扱う事が出来る者のことかな。詳しくは、実演を踏まえて話したいから外に行かないかい?」


「何でですか?面倒臭いんですけど」


 興味はあるがこの時間に外に出るのは非常にダルイ。だってまだ夏の残火が、暑いし。


「ちょ、ちょ、ちょっと。そこはぁ、話を聞くとこでしょ!」


 急に縋って来たので渋々受けることにした。

 この人の正体とか少々疑問に思うが、後で分かるだろう。


「分かりました。少し待っててください。着替えて来ます。今、パジャマなんで」


「それパジャマだったの!いや〜最近の寝巻きはオシャレだね。あ、動きやすい服装にしてね」


 急いで上に上がって部屋のタンスを漁り動きやすい格好に着替えた。

 まだ、暑いので、辞めた高校の指定体操服を着ることにした。なんか恥ずい。

 それに、警察に補導されないかしら?

 あとは、あの口ぶりから運動するかもしれないから、動きやすいスニーカーを履き外へ出た。


 外に出ると太陽がだいぶ上って来ていた。

 腕時計が指し示す時刻は十時で、季節は秋よりだが運動を始めるにしては少し遅いかな?


「家の鍵閉めた?泥棒が、ワシみたいに入っちゃうぞ」


 外で待機していたおっさんが、冗談ぽっく言うが、最近の例から否定できない。


「安心してください。こんな時間から人の家に勝手に入るのあなたぐらいです」


 が、この街に悪い人は居ないと心の底から信じたいので、おそらく部外者のおっさんだけ、強めに当っとく。


「と、とりあえず、あの、ここいらで一番広い公園行こ。競争でね。よーいどんっ!」


 言い返されたことにことで焦ったのか、おっさんは慌てて話をすり替えた。

 まったく騒がしいおっさんだよ。そしてそのまま、走り出してしまった。


「まっ、待って」


 俺も慌てて手を伸ばして引き止めようとするも、もう手遅れで、

 

「競争に待ったはなーい。そう言ったやつから遅れていくのです」


 そう言いながら猛スピードで走り去っていった。

 陸上のオリンピック選手もびっくりな速度を出していた。まぁ、そのことはひとまず置いておいて。気になる事が一つあった。


「あのおっさん、公園の場所知ってんの?」



 ####################



「何で、歩いて来た俺の方が早く着くんですか?」


 俺が公園のベンチで休んでいるとおっさんがようやく到着した。


「ぜぇ、ぜぇ、いやー、迷っちゃった。テヘ」


 俺の予想通り、知らなかった。それに凄く息切らしてる。

 俺が公園に着いてから、三十分くらい待ったのに、走り疲れたとか言って帰んないよな?


「ぜぇ、ぜぇ、もう、疲れたから、ぜぇ、帰って良い?」


 舐めてんの?

 俺の脳を読んだみたいな発言怖いからやめて欲しい。


「と、冗談はさておき、それでは妖気法について説明しよう」


「お、お願いします」


 おう、なんだか緊張して来たな。


 おっさんは、徐にポケットから野球の硬式ボールを取り出した。

 それを空中に放り投げると同時にそれを殴った。普通に飛んで行った。

 俺は関心があるように見えるように「おおぉー」と棒読み気味でいいながら接待ゴルフみたいな拍手をした。


「このように、普通のパンチじゃボールは飛んでいくだけ。でも」


 再びポケットから同じ物を取り出し、先程のように空中に放ってそれを殴った。

 

 先程とは異なりその場でボールが粉々に弾け飛んだ。


「えっ!」


 思わずビックリして声を上げてしまった。


「このように、妖気法とは基本的に妖気を身体に纏う事で身体能力を上げるモノだ。妖気とは通常の生物には感知する事が決して出来ない物質のことだ。感知出来ない故に原子番号も存在しない。本当に未知の物質だ」


「え?でも。あなたは感知できるのですよね?」


「無論、出来ない」


 じゃあ、何だよ妖気法使いって。見えないのに使いって言えんのか。


「え?じゃあ、どうやって」


「感じられなくても、普段の生活で人間は妖気を蓄えているのだよ。妖気は物の性質や見た目を変化させる事ができる。例えば、生物の体が年老いて衰えるのも妖気のせいだ。知っての通り生物には寿命があるだろう。それというのは、それぞれ生涯にかけて溜め込める量が定まっているんだ、それがマックスまで行くと生物は死亡する。寿命ってのはこういう原理ね。でも、このルールには抜け穴があるんだ。それが妖気法だ。何故なら、溜め込んだ妖気を消耗することで使用するからね」


 なるほど、結構難しい話だな。気をを引き締めよう。


「次に妖気法が生まれた経緯を解説するけど、ことは弥生時代まで遡る、その時代の女王が老いを恐れていたらしく、そのタイミングで大陸からやって来た渡来人が永遠に近い若さを得ると言われる秘術を日本に伝えたんだよ。これが後の妖気法ってわけ」


 改めて学校の先生の板書がいかにありがたいモノだったのかが分かった。

 ありがとう、花棚先生。


「ここまで聞いて君は妖気法使いになる気があるかい」


 復讐とかには興味ないけど学校も無くて暇だから付き合うか。


「お願いします。師匠!」


「し、師匠か〜、照れるなぁ〜。でも、今後は禁止ね。ワシの弟子は1人だけだから」


 それはよく分からないがまぁ、いいか。


「よし、じゃあ始めよう。レッスンワン、妖気を身体に纏う感覚を覚えよう。コツとしては、少し曖昧になるけど汗を出す感覚かな」


 本当に曖昧だった。てか、逆にイメージしづらいんだけど。


「とりあえず、やってみます」


 まぁ、物は試しだ。拳を力強く握り集中した。


「おおー、凄いぞ」


 その様子を見ているおっさんのテンションが急に上がり始めた。

 俺って案外才能あるのかも。


「出てますか?」


 俺は少しウキウキでおっさんにそう尋ねた。

 心なしかテンションも上がってる気がする。コレが妖気法か。


「いや、さっきも言ったけど見えないから何とも言えん」


 その一言でテンションの株価は一瞬で崩落した。

 じゃあ、何が凄いんだよ。無駄な期待させやがって。ボケたウザい師匠キャラかよ。

 こういうのって中盤に見せ場が出てきて人気上がるが、現実だったら普通にウザいからな。


「なら、黙っていてください。集中してるんで」


「うーん、そうだな、良い方法教えよう。その辺の草を取って拳に力を入れてみて。原っぱの草は人よりも生命の循環が早いから、出ているか分かりやすい」


 そういう事はもっと早く言って欲しいモノだ。

 有能と無能がホームシェアしてんかよ。


「分かりました」


 言われるがままに、公園の草を抜き拳の中に力を込めた。

 しかし、何も変化は起きなかった。


「まぁ、最初から出来るわけないから、徐々に出来るようになれば良いよ。あと、少し説明したい事があるから本格的な練習はそのあとね」


 おっさんが軽く咳払いをしてから目の鋭さを変えた。口調も厳しいものへと変わった。


「話は一番最初に戻すが君の復讐つまり鬼を殺す事にどう繋がるのかだけどね。それは簡単だ。鬼は人間よりも遥かに強い。だから、ただ纏うだけでは倒せない強者も存在する。その為の能力だ」


 いや、別に復讐には興味ないんですが。まぁいいか。

 徐ろにおっさんが右の掌にある瞳を再び見せてきた。

 

「この瞳にはその場所、人物の過去を見る事が出来る能力が備わっている。だから、家の過去の映像を再生し、君の両親について知った」


 何回聞いてもあまり強そうには到底思えない。


「その力がどう関係するんですか?あまり戦闘には役に立たなそうですけど」


 おっさんは軽く咳払いして講義を再開した。

 自分もそう思っているのだろう。


「バトル漫画とか読む?ワシはああいうのは読まないけど、大抵はみんなバラバラの能力があるでしょ。ワシは百年前に妹を殺した犯人を突き止めるためにこの能力を作っただけで、戦闘向きの能力を持つ人もいるよ」


 ゴクリ、と唾を呑み込んだ。能力の世界ってやっぱ奥深いんだな。

 だが、その前に一つ気になった事があった。


「え?百年前」


 いや、明らかにおっさんの見た目は四十代前半だ。

 そう尋ねるとおっさんの目が優しくなった。


「そうそう、言い忘れてたけど妖気法は使えば使う程に寿命が伸びるよ。理由は分かるよね。だって、老いの原因を消費し続けるんだもん」


 また、目を鋭くした。忙しいなこの人。


「この妖気法には一つ欠点がある。それが今日、最後に教える事だ。この力を使い続ければ、ワシのようにいずれ人間ではなくなる」


 人間を辞めるぞぉーーーーーッ!ってこと?そんな奇妙なセリフは漫画でしか聞いた事がないぞ。


「どういうことですか?」


「この手のように、いつか能力が肉体と融合する。そんな者を人と呼べるか?それを(あやかし)と呼ぶ。ワシらの見解では鬼たちはその妖となった者の子孫だと考えているよ」


「俺もそうなるんですか?使っていれば、いつか」


 俺自身も使い続ければ人ではないモノになってしまうのだろうか。

 その事を聞いてとても怖かった。


「能力にもよるが、ワシのぐらいのでも百年での変化は掌だけだ。君が作る能力にもよるとしか言えない。最後にもう一度聞く。それでもやるか?」


「やります。教えてください」


 どうせ、そこまで教えたんなら。やるしか選択肢なだろ。なら、怖いがやるしかない。

 それに特殊能力には憧れる。


「じゃあ、まず妖気を纏えるようにしよう。そのためには感覚を覚えるのが大事。まず、汗の出し方を覚える為に、この公園を10周してみよう。ワシはあそこのベンチで休んでいるから」



 **********************



「ぜぇ、ぜぇ、疲れた」


 あれからめっちゃ走った。一周が四百メートルある公園を十周はザ・不健康児には辛い。


「で、汗の感覚分かった?」


「ええっと。なんとなくは」


 もう走りたくないから、嘘をついた。てか、早く先に進めろよ。


「なんとなくか~。なら、 もう一回同じコース行ってみよう!レッツゴー!」

 

「は、はい」


 クソが。

 そうして、合計2時間ぐらい走り回った。


「もう、無理です。脚がパンパンです」


 俺は地面に仰向けになりながら、限界を告げた。


「そうか、では、ここいらで一回、草に妖気を送ってみよう」


 もう何でもいい。やってやるよ。

 そう言われて、俺はゆっくりと起き上がって、草をむしり握った拳に力を加えた。汗をかくイメージ。すると、瞬時に草が朽ちて消滅した。


「で、出来た。やったー!」


 俺は両腕を広げて大きか喜んだ。なんか、初めて自転車に補助輪なしで乗れた気分。


「は、早い!遅くても三日は日はかかると思ってたのに。」


 どうやら、すごく早いらしい。これって才能があるって事で良いんだよな?良いんだよね?


「じゃあ、次のレッスンに進もう。レッスンツー妖気を無機物に纏わせてみよう。このことは戦いにおいて、最も重要な役割を果たす。」


 おっさんがポケットからいきなり木刀と金属バットを取り出した。

 てか、明らかに容量ガン無視してんじゃん。四次元ポケットかよ。


「えっ、どこから?」


「ああ、コレか?知り合いの妖気法使いの弟子に頼んで収縮してもらった。どこでも携帯できるようにな」


 もはや何でもありだな。

 そのうち、意味の分からない能力出て来ても、おかしくないぞ。このままでは。


「とりあえず持ってて」

 

 金属バットを渡された。俺は持ち手をしっかりと握り縦方向に構えた。

 おっさんは木刀を構えてそれで切りかかって来た。

 木刀の刀身が金属バットに当たるや否や金属バットが真っ二つに切り裂かれた。


「妖気を纏った物は拳以上の強烈な破壊力を生む。しかし、その為には直接、触れる事が大切だ」


 つまり、銃のような銃弾に触れることの出来ない遠距離武器には使えず、弓ぐらいになら纏う事はできると言う事だ。だが、木刀でさえこの威力だ。相当使い勝手がいいのだろう。


「使い勝手がいいと思うなよ?自分に纏う以上に物にするのは至難の技だ。まずは、しっかりと自分の体に妖気の纏い方を叩き込む。とりあえずは、今日はここまで、あとは、自宅で練習しなさい」


 どうやら、今日はここまでの様だ。おっさんは身体を翻して、去ろうと歩き始めた。


「はい。影村さんはどうするつもりですか?」


「ワシはちと用事があるから、今日はお別れだ。これワシの連絡先ね。何かあったら連絡してくれ」


 電話番号とメールアドレスの書かれた紙を受け取ると、何処かへと去っていた。

 そのとき、携帯に着信が来た。どうやら、琉助から電話が来てたらしい。


『お前どこにいんの?家の鍵も閉まってるし』


 何、世界では俺の家は空いている事が前提で進んでいんの?俺にはプライバシーは無いんですか。おっさん然り琉助然り、勝手に俺の家に上がれると思っているの。

 もういいや。一々気にしていたらキリがない。


「すまん、少し運動しに公園行ってた」


 素直に答える事にしよう。そうすることに損は無いはずだ。


『運動?まぁいいや、元気出たか?』


「バッチリだ。今から帰るから、少し待ってくれ」


 そもそもそこまで凹んでいないし。まぁ、奇妙な体験が出来た事で中卒人生に対する元気が出た。


『了解だ。昼飯何がいい?』


 それを聞くや否や昼飯の質問をされた。いやいや、既にメニュー決まっているくせに。琉助がこういう質問する際には模範解答は用意されていることが多い。


「何でも良いぜ。美味かったらな」


 ならば、これが正しい回答だな。


『つまらない奴。もっとユーモアのある回答しろよ』


 そう言って電話が切れた。何なんだよアイツ。でも、昼飯が楽しみだ。

 熟年の夫婦のような通話を終えて、帰路に着いた。

 家に帰るとあの記者の名刺がポストに入っていた事に気付いた。俺は渋々、それを回収して家に入った。



 ###############


 

 どうやら能力はうまく機能していたようだな。

 影村寿雄はそう考えながら人混みの中に消えた。


 少し説明が多いですが、次回からはなるべく分かりやすくしたいと思ってます。次の回もお楽しみください。

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