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紅の赤  作者: 青階透
鬼殺し編プロローグ
2/61

1話 何気ない孤独な朝に


 本編開始!

 小鳥の鳴き声が朝を告げる。

 閉ざされたカーテンの隙間から朝日の微光が部屋に入り込む。


 俺は腕を伸ばすように大きなあくびをしながら目を覚ました。

 ベッドの傍に設置してある台には目覚まし時計と小さな鏡が置いてある。

 タイマーの時間は七時にセットしていたが、今の時刻は六時四十五分の近くで予定より早く目覚めていた。

 

 もう当日だろって言う時間に寝ても、予定より早く起きてしまう現象あるよね、分かる?


 次に鏡の方に視線をやると後頭部の寝ぐせが気になった。下手なワックスでセットしたみたいにはねている。

 これでは気が引き締まらない。

 とういうことで、それを直すために洗面所に行くことにした。

 パジャマ姿のまま、部屋を出る。

 俺の部屋は二階にあり、洗面所は一階にあるために階段を降りる必要がある。別に降りることは苦ではない。しかし、洗面所に行くということが憂鬱なのだ。


 少しだけあの日の事を思い出しそうになるから。

 

 あの日とは、俺たちが乗船していた客船が襲撃された日。

 俺は、山門健(やまとたける)はその日、両親を失った、らしい。


 階段を降りながらあの日の後の出来事を思い出してみた。


 俺はいつのまにか、血塗れの服を着ながら海上で漂流していて、そこで漁船に保護された。その後は警察などに事情を聞かれたが、残念ながら俺は船でのことを二つの事しか覚えてない。

 一つは二度大きな揺れが起きた事。

 そして、もう一つは襲撃者の額には鬼のような角が生えていたこと。


 詳しくは知らないが俺のほかにも生存者が居たらしいが、彼の方は目の前で人が残酷に殺される場面を目撃してしまったらしく、大きな心的障害が残ってしまった。

 その結果、遂に自殺してしまったらしい。

 彼の残した遺書には、彼が目撃した凄惨な殺害場面が色濃く書き記されており、その内容には世間に大きな衝撃が走った。

 例えば、胴体から無理矢理内蔵を引き釣り出されたり、体を引き裂かれたり、頭部を握り潰されたなど、スプラッター映画でしかお目にかかれない殺され方だ。

 

 他に生存者が居ないということは、俺の両親も殺されてしまったのだろう。

 薄情かもしれないが、まだ俺は未成年として未来がある。いつまでもそのことを気にしていては生活ができない。


 階段から降りて、洗面所に向かう。そこは隣にはお風呂場があるため脱衣所を兼ねている。

 洗面台の左隣りには洗濯機があり、お風呂の残り湯を利用している。わぁーおエコロジー。


 まず冷水で顔を洗い眠気を取る。その次に髪を濡らしてからドライヤーにかけて寝ぐせを取る。

 そのまま鏡に映る自分の顔を観る。


「だいぶ痩せたな」


 今日の第一声がこれ。

 そうなるほどに、客観的にみて俺の体は痩せていた。日頃から母親の献立のお陰で健康を保てていたが、自分で食事を用意の用意し始めた結果、栄養バランスに偏りが生じてしまった。

 

 突然の一人暮らしのせいで生活習慣が乱れて遅寝遅起きが続いたせいで、眼も細くなってきた。

 ザ・不健康児の出来上がりだ。今度から食事はアイツに頼もう、それならアイツも息抜きになるだろうし。


 そんな状態のまま、夏休みは終わり今日から新学期が始まる。


 俺は道内の進学校に通っている。

 元々は親友と共に通う予定だったが、彼は家の都合で通えなくなってしまった。しかし、今年こそは一緒に通うという約束をしている。


 洗面所にて寝ぐせを直しリビングへと向かった。 リビングには大きな食事用の長机と三つの椅子が設置されていて、その奥にはキッチンがありその(はざま)には四十三インチのテレビと、それに合わせたソファーが置いてある。


「今日はトーストだけで良いか」


 冷めた声でそう言い俺は真っ直ぐにキッチンに行き、トースターに食パンを二枚入れて焼き上がるまでにコーヒーを用意する。


「おっ、焼けた。いい匂いだ」


 焼けた事を確認すると冷蔵庫の中のチルド室に入っているバターを取り出し、

 それらをお盆に乗せて机まで運ぶ。自分の席にて食事を始めた。


 トーストにバターを塗り、それを口に放り込む。口いっぱいに香ばしいパンの味とまろやかなバターが相まってとても美味である。

 最後にコーヒーをググっと飲む。


「苦ッ!そして、ごちそうさま」


 残った眠気を完全に飛ばし切り、それぞれの皿をお盆に戻して流しに戻す。

 それらを洗剤と流水で洗い流す。

  

 リビングの壁際においてある大きなアンティーク時計に目をやると時刻はまだ七時半。学校の登校時間までまだ大分時間がある。

 だから自室に戻る事にした。


 とりあえずすることがないのでパジャマを脱いで制服に着替えた。うちの学校の制服はブレザーで男女共におしゃれなデザインの制服だ。それを目当てで受験に挑む者もいるらしい。なお、大半は授業のキツさに嘆くと嘆かないとか。


 暇な時間がまぁまぁある為に、どうにか時間を潰そうと部屋の壁際の本棚に向う。コレは三年ほど前に中学校の入学祝いに買ってもらったもので、父さんと共に家具屋に足を運んで選んだものだ。

 本棚には一般文芸他ラノベまで自分の気になった作品だけを置いている。そんな中で一番下の段には小さな金庫がある。それはダイアル式で、その暗証番号を俺は知らない。でも、随分と前からウチに置いてあるから幼き日の俺が設定して忘れてしまったのだろう。置く場所がないから今はここに置いている。本棚の空間がなくなれば、どっか別んところに移す予定だ。


 手頃な積み本に手を伸ばして、残り時間は軽く読書しながらダラダラと時間を過ごした。時間になると本に栞を挟んで学校に行く準備を済ましたバッグを手に取り、ささっと家の外へ出た。


 あれ、おかしいな?普段ならしつこい記者の大群が群れてくるはずだが、今日は一人も居ない。

 なんだか嫌な予感がするわ。


 予想が外れて欲しいと願いながら、自転車のカギを外して上に乗って学校へと向かった。



 ####################



 学校までの道のりは最適化してあるため、ほぼ一直線で辿り着くようになっている。

 それでも四十分ぐらいはかかるため、割とキツイ。

 中学時代は一緒に登下校する友人が居たが、今は受験勉強に励んでいると信じているのでボッチ登校を甘んじて受け入れている。俺が卒業した後は奴が一年間ボッチで励んでくれるだろう。


 校門の前にはやはり沢山の記者さん達が集まって、校門をくぐろうとする生徒に妨害のような強引な取材を行っていた。


「あっ、山門健さんです!」


 マイクを持った女性の記者と大きなカメラや音響、照明など様々な道具を持った撮影団が駆け寄ってきた。


「あの新学期ですが、今の気分はいかかですか?」


 俺は自転車から降りてこう答えた。別にこの質問自体は大したことのないものだ。一々気に留めておく事もない。だが、明らかに校門の前で陣取っていて他の生徒にとってはいい迷惑だ。


「不快です。あなた達の行いはマスメディアとして最低です」


 鋭い眼で記者団の方を睨みつける。ここで一つ言っておく、俺もまだ若い、これは若気の至りってことで忘れて欲しい。後々でニュースを見ると恥ずかしくて悶絶しそうになった。きゃー。

 ちなみに、こんだけイキった発言をしたが俺の膝はちょっと震えている。よくよく考えずとも、大の大人に集団で囲まれる事は高校生になっても恐怖だ。


 空気がピりついてきた頃に、生徒指導の先生たちがやって来て、記者たちと何やら話し始めた。

 流石にジャージを着た威圧的な教師陣に気おされて、どんどん記者団がしり込みし始めた。

 そんな中、教師の一人がこちらの方を向いてこう言った。 


「君は先に教室に行きなさい」


「は、はい」


 少し動揺しながら俺は駐輪場へと向かった。

 駐輪場に居る他の生徒からの視線がキツイ。しょうがないので気にせず定位置に自転車を止めて校舎へ向かった。


 道中、誰も口にはしないが皆、『お前、なんで来てんだよ』と言わんばかりの顔でこちらを見てくる。

 ここも気にしても無駄だと判断し、俺は駆け足で教室に向かった。


 一学年の教室は学校の一番上のフロアに位置しており。更に言えば俺の教室は学年室の隣にあり、俺はそこを目指した。

 下駄箱で外履きから上履きに履き替えて、教室に向かった。


 教室の前まで来ると新学期特有の夏休み何したトークが花咲かせていた。

 思い出を話す程の間柄なら、夏休みなんて一緒に遊んいでるはずだから語る思い出などあるのだろうか?


 ガラガラっと教室の後ろ扉から入ると、急に静かになった。あれ、お通夜かな?


「おはよう」


 とりあえず挨拶してみた。


「お、おはよう」


 普段から仲良くしているクラスメイトが、気まずそうに返事をしてくれた。

 えーっと、彼の名前は何だっけか?会話はあるけどお互いの名前は知らないっていう関係。そもそも、話すようになったのも、初めの席は出席番号でたまたま席が前後関係だったからだ。えっ、薄情だって?俺もそう思う、でも名前がどうしても思い出せないんだもの、しょうがないね。


 その後、何故か不気味な空気間の中で始業式を行うために体育館へと列を組んで向かう事になった。

 一学年は先に入場して上級生を待つということが基本だ。もちろん私語厳禁。


 校長先生のありがたくも長ったらしい演説を全校生徒が立ちながら一斉に聞いている。その雰囲気は静と形容出来る程に静かだ。だが、それは眠気からくる静けさではなく、気まずさによるものかだと思う。しかし、ずっと立っているのは辛いモノだ。毎回思うことなのだ『式』って言うぐらいならパイプ椅子ぐらい用意して欲しいものだ。どうせ卒業生からは余るほど貰っているはずだからな。準備は、まぁその辺の生徒会のお偉いさんに任せて。


 その後約三十分程で式が終わり各々の教室で解散となった。

 俺も帰ろうと思い帰り支度をしていると担任の花棚美雪(はなだなみゆき)先生に呼び止められた。

 彼女は長すぎず短すぎずの茶髪を後ろでヘアゴムを使って縛っていて、度の低い眼鏡をつけており、右眼の下の方に小さなホクロがある。普段は物凄くラフな格好で登壇に立っている。しかし、今日は始業式のため黒いスーツでビシッとしている。


「山門くん今ちょっと時間良いかな?」


「別に大丈夫ですよ」


 そう言って席を立ち、彼女の二歩後ろを付いていった。

 そして着いた場所は校長室だった。扉の前にはうちのクラスの副担任である副田鱈尾(ふくたたらお)先生が居た。彼は花棚先生が新任の教諭のため彼女のサポートをしている。風の噂では彼はこの学校の設立した六十年以上前からこの学校に居るらしい。彼、年齢にして今四十歳だけど。


「ここに入ってくれ」


 彼がそう言うと校長室の重たい扉が開かれた。


 今日二回目の、嫌な予感がする。



 ####################

 


 校長室の壁には歴代の校長の写真が飾られている。

 何というか重苦しい空気が流れている。校長先生と教頭先生を正面に右に花棚先生、左に福田先生に挟まれて精神的にも重苦しい。


「つまり退学ってことですか?」


 俺の疑問に教頭がゆっくりと口を開いた。

 その相手の名は、読売太陽(よみうりたいよう)。俺とも少なからず因縁のある人物だ。

 彼は三十七歳の若さで教頭になったエリートだ。教頭になる方法は知らんでも、若いしエリートだろう。

 いつもと同じ灰色のスーツに赤いネクタイをしっかりと締めている。確か、それらは娘さんが小学生の頃に彼の誕生日に奥さんと一緒にプレゼントしたものだったはず。いつも綺麗に丁寧に自分でアイロン掛けしていて、十年前の物なのにほとんど劣化しておらず、あの頃と何ら変わりない。


「違うよ。校長先生の知り合いの私立で全寮制の高校へ転校したらどうかな?って言っているんだ」


 そう言って教頭は机の上にある高校のパンフレットをコツコツと突いた。

 普段は生徒に対して優しい教頭のこの行動を見た、後ろのスキンヘッドが凄く進んでいる眼鏡の校長がビクついている。

 同じく、俺の両隣の先生たちにも冷気に近い緊張感が走った。


「言葉を変えているだけで本質は何も変わってないないですよね?つまりこの学校をでてけていう意味ですよね」


 言葉は丁寧にだが、強い言葉で返した。はいはい、若気の至り。


「これは君だけの問題ではないんだよね。今朝の記者たちが来ていたように君がこの学校に在籍しているというネットに上がってしまっている」


 教頭は自身の携帯電話で匿名のネット掲示板の画像を見せてきた。

 そこには、俺だけでなく学校に対する誹謗中傷までもが書き込まれていた。一人に関しては、凄いくらいに俺に対する悪口を書いている。俺この人に何かしたっけな?


「・・・・・・・・・」


 それらの書き込みを読んで、思わず絶句してしまった。

 何故なら、これらが人間と言う生物の悪意だけを抽出したようなドス黒いものだったからだ。いや、でもさぁこれいくらなんでも酷すぎない?


「本来なら、先に親戚にアポイントメントを取るべきだったが、何せ君には親戚が一人も残ってないではないか。それにこれは最大の譲歩だ。本来なら自主退学を促すつもりだったんだが、わざわざ転校先も用意したんだよ」


 なるほどな。学校側から退学させた場合は学校のイメージを落としてしまうっていう事か。

 この人の考えは昔から理解しているつもりだ。ここまで用意したってことは断ってもセカンドプランが出てくる可能性がある。


「既に悪戯に他の生徒の個人情報をネット上にあげる輩も現れた。もう一度聞きくが、転校してくれるか?」


 次に別のサイトも見せてきた。

 そこには俺とは舞った関係ない生徒に対しても誹謗中傷が書き込まれていた。何、インターネットはいつから世紀末になったの?


「既に君だけの問題を超えてしまっているんだよ。君なら分かってくれるよな?」


 俺は机に置かれたパンフレットを手に取った。中身に軽く目を通した。

 どうやら普通の学校のようで最新の設備まで整っているようだ。だが、その学費は私立という事だけあってとても高い。


「僕の現在の所持金じゃあ、ここの学校の学費を払うだけで精一杯で私立に通う金なんてないんですよ」


 本当は親の遺産とか沢山あるけど、流石にそれはゲスい。


「それなら、私が用意しよう。君には娘が世話になったからね。それに、君が学費を払えないことも最初から分かっていたからな。これで問題ないだろ?あとは、君の判断待ちだ」


 うっ、ここまで手厚くされると断るのも気が引ける。

 俺は一体どうすればいいんだ。再び、長い静寂に部屋は包まれた。



 まぁ、初めはジャブ程度に。

 短めです。

 では、次回もお楽しみに下さい。

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