6話 秋山の村
前回の続きです。
俺が風呂から帰って来た頃、既に琉助が目を覚ましており、俺の事を待っていたようだ。
その瞳には奥が見えない程に暗い闇が支配していた。
きっと、船での事を思い出しているかもしれない。
「起きたか、琉助。一応は確認したんだが、どこかに怪我とかはないか?」
俺は恐る恐る聞いてみた。今の琉助には何が地雷になるか分からないからな。
「影村っておっさんから話を聞いた」
質問にはちゃんと答えて欲しかったが、だが、その返答がどうでもいいぐらいとんでもないことを言ってきた。話って妖気法についての事だよな。この様子からだと、彼女の事もだろう。
「それで、俺の質問には答えてくれるか?」
「怪我は無い。影村のおっさんからは詳しい話をお前から聞けと言われたんでな」
おっさんらしいな。
俺もさっき風呂で笹原さんから聞いた情報を整理したいから、タイミング自体は丁度良いんだが。
「俺の質問の真意は心の方だ」
そう、度重なる身近な人の死を受けて普通なら立ち直れるはずがない。
双子の弟妹の死の時も凄い落ち込み様だった。あの時も何故か戻って来た時には落ち着きを取り戻していた。身内とは違ってもそれでもアイツが助けた女性が死んだとしれば、心が平常でいられるはずがない。
「痛いさッ!でも、それが分からないんだ。分かりたくないんだ。他の事に知恵使って振り払いたいんだよ。兎に角ッなッ!」
力強く。琉助はそう叫んだ。
「今はそれで良いかもしれない。でもなッ!いつかはそれを清算しなければ。その時お前の心は決壊するんだ」
俺も対抗するかの如く、大きな声を出してしまった。
「お前は良いよな!両親が死んでも、平然とできて。それもこれもあの影村とかいうおっさんのお陰だろッ!お前と一緒にするんじゃねぇ。俺はあのクソ親父のドメスティックバイオレンスを目の前で十年近く見続けているんだよ。だから、これしきの事なんて耐えれるんだ」
「話の規模が全然違うだろ。耐えれるから我慢するだぁ?ふざけんなよ、世間は素人にましてや俺達みたいなガキにそんなことを求めちゃいないんだよ。必要なことは誰かにぶちまける事だろ。違うのか」
俺もつい熱く言い返してしまった。
「お前は俺の何なんだよ。お前に相談したって、何ら解決にならないんだよ」
「なら、俺に付いて来ずにカウンセリングにでも通ってりゃ良かったじゃねぇか」
「ふざけんなよッ!俺にはもうお前しか残ってないから、付いて行くって決めたんだよッ!」
琉助は俺の浴衣の胸倉を掴み怒鳴りかかって来た。
俺も抵抗するかのように力一杯に突き飛ばした。一瞬着衣が着崩れそうになったがすぐさま締めなおした。
「この得体のしれない謎パワーが妖気か。身体能力の強化が出来る」
突き飛ばされた琉助はゆっくりと起き上がりながら、俺の攻撃ともとれるこの行動を冷静に分析して、今の攻撃が妖気を纏ったモノであると判断した。
「お得意の分析だけで知ったような口調をするんじゃねぇッ!そうやって、そういうお前の自己顕示欲求の塊みてぇな行動がお前の判断ミスの一番の原因じゃねぇのかッ!」
「そうでもしねぇと、俺はお前の隣に立てねぇんだよッ!」
琉助は俺の顔面を殴りそのまま馬乗り状態で殴り続けた。
当然俺はこれを腕をクロスして防ぐ。
「俺はいつまでお前の引き立て役やればいいんだよ。お前の後ろにずっと居る事だけは、おれにとって屈辱なんだよ」
殴りながら、そう言い続ける琉助を再び突き飛ばし、反対に俺が馬乗り状態で琉助を殴り始めた。
「お前が付いて来るって決めたんだろッ!結局、お前は自分の判断一つも責任を取ろうとしねぇんだ。何が未成年だから責任能力がねぇだぁ?ざけぇんなよ、自分がやった事の責任を自分で取れねぇなら、端からそんな行動するんじゃねぇよ。邪魔なだけなんだよ。そんな奴は世間様に嫌われて当然なんだ」
何度も何度も琉助の顔面を殴り続ける。この攻撃に妖気なんか纏っちゃいない。こんなしょうもない奴に使いたくない。
「お前ェェェェェェェェェ!健。言いたいだけ言いやがって、上に立てる奴だから言えるんだろうがァ!弱者の気持ちに理解が出来ないからなァ!」
俺を突き返して、お互いに睨み合う構図になる。こうして本気で喧嘩するのは一年ぶりになる。
「ちょっと、君たち!大声が隣の部屋まで響いているよ。それにここは他の人も利用しているんだから。大きな声では騒いじゃ駄目だよ」
どうやら俺達の喧嘩に気付いた笹原さんが仲裁に入ってくれた。
「若いんだから、そうやってぶつかり合うことも大事なことは分かるよ。でも、それに原因があるなら一回で良いから、僕とか影村さんみたいな大人に相談しなさい。子供でも解決できない問題でも大人は解決出来るかも知れないからね。だって、大人は自分たちの前の世代の大人の姿を見ながらいろんなことを経験してきているからね」
今の笹原さんからしたら俺達の喧嘩は本当に子供のじゃれあい程度にしか思っていないのだろう。本気で怒ってくれているのは分かるがその口調は優しさを残したままだ。
「そうだね。健君は影村さんに、琉助君は僕に。初対面の相手に相談するのはハードルが高いかもだけど逆に言いやすいかもしれないからね」
そうやって、俺は隣の部屋へと移された。
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健がお部屋から退場したせいか、この部屋にはどことなく気まずい空気が流れていた。
「まずは初めましてだね。僕の名前は笹原文和って言うんだ。これからよろしくね。琉助君」
笹原を名乗る男はニコやかに、そして他のお客さんへの配慮を込めてボリュウームを下げながら握手をする為に手を差し出してきた。
「よろしくお願いします。笹原さん」
俺は渋々その手を取った。顔をもワザとらしく引き攣らせながら。
それに対しても一切動じる事なく次の言葉を繰り出してきた。
「せっかくだから少しお話しようよ。・・・そうだね、君から見た僕の第一印象を教えてよ」
笹原はまたしても、にぱぁって感じで微笑みながらそう質問してきた。
第一印象だと?
普通、その質問を最初にするか?何か裏がある気がしてならない。
「それ最初に聞きますか?良いですけど。『お人好し』ですかね。人の喧嘩にわざわざ首を突っ込むぐらいですしね」
俺はそこで皮肉を込めてそうアンサーした。だが、そこには苛立ちもあったことは認める。健との喧嘩を止められたことはもはやどうでもいい。
俺はいつの間にかこの男に昔の親父を重ねていることに気付いてしまったからだ。まだ、アルコールとギャンブルに飲まれる前の優しかった、あの頃の親父に。
「そうか、お人好しか。成程ね」
笹原は顎に手を当てながら何かを考える様にベランダに歩き始めた。
「そんな答えが何になるんだよ。こんな事を聞いてアンタは何をしたいんだ」
俺が強めの口調でそう言うと、笹原を名乗る男はベランダに出て、そのまま手すりに腰掛けながらどこかから取り出した煙草を口に咥えてライターで火を点けた。
その様も俺の憧れた親父に重なった。
「これでも俺がお人好しに見えるか?」
先程までの『僕』という一人称から『俺』というものに変化した口調は少し高圧的に感じた。その事に少し動揺してしまったことで俺は口をつぐんでしまった。
その眼は、その眼差しはかつての親父が仕事終わりに俺に『何か』を伝えるときにしていたモノ、そのモノだった。
綺麗に口から煙を吐き出した笹原は煙草をその場で消滅させた。
「人の第一印象は『理解』ではなく『感情』で決まると、僕は考えているんだ。でも、所詮は第一印象だから、二手目の仕草やその後の付き合いでそれは大きく変化する。でも、僕は第一印象を守りたいと思っている。その人が『お人好し』と言ったのならば、その人の前では『お人好し』を演じる。と言っても、基本的に僕は皆に『お人好し』だと思って欲しいと考えているけどね」
そう言って、ベランダから戻ると笹原は少し凍えた感じで身震いした。
「お前は俺にそれを言って何を伝えたいんだ」
俺は鋭い視線を向けながら、そう言った。
それに対して落ち着いたままの笹原はそうアンサーを返した。
「世界の仕組みさ。起きた事はそのまま固定される。大切なのは『始まり』を受け入れる事なんだ。それを認めずに、体よく言い訳したり忘れ去ろうとして受け入れなかったら、人はいずれ追いやった重圧に心が押し潰されてしまうんだと思う。だから僕は人からの第一印象を守りたいんだ。僕は不器用だからね、小さなことからしないとそれが出来ないんだ」
『始まり』を大切にするだと。第一印象は言わば人との関係の始まりって事か。
だが、それが今の俺になんの関係があると言うのだ。俺が答えを導き出すよりも先に笹原が口を開いた。
「僕からすれば君は、過去に起きた事を受け止めずにここまで来たんだと思う。それが何なのかは僕にはさっぱり分からないけど。いつかは受け入れられれば大丈夫だけど、君にそれは出来ない」
「なんで、そんな事が分かるんだよッ!お前の匙加減で勝手に決めつけんなよ。俺の何を見て来たってんだァッ。それは何だ、お得意の妖気法ってのかよ。ファンタジーなんざ興味ねぇんだよこっちは、俺は健の隣に居る為にここまで来たんだ」
激昂して大きな声でそう叫ぶ。これでも笹原は動じない。
「経験上分かるんだ。その子がどれほどの過去を持つかが。君に起きた事は一人では受け止めきれるものじゃない。そうだろ?君は強い。それでも君はまだ子供なんだ。大人の社会を知っていたとしてもね。こういうモノは、信頼できる親友か大人に相談して良いんだよ。少し昔の事を話すけど良い?」
完全に見抜かれている。家族全員の死と俺のせいで死んだ紗弓の事。詳細までとはいかないが何かを既に掴んでいる。
それが昔の話と繋がるというのか。
俺は心の中で次第に笹原という男を信頼しても良いんじゃないかと思い始めていた。でも、それは、詐欺師が傷心した人に付け込み洗脳するのと同じ手法であると理解している。
「どうせ勝手に話すんだろ。そうしろよ」
だが、その話には興味がある。俺は口調を変えずに高圧的なままそれを促した。
「ありがとうね。じゃあ、話させてもらうよ」
ここで一呼吸を置いて、笹原はしゃべり始めた。
「僕はね以前、三年だけ高校で教諭をしていたんだ。僕が初めて赴任した学校はそんなに偏差値の高い所じゃなかったんだよ。お利口な生徒もほとんど居なくて、みんなヤンチャだった。周りの友人からも度が過ぎるお人好しだって言われていた僕にはその雰囲気は似合わなかった。当然、僕は嫌われた。でも、気付いたんだここに居る生徒は過去の事を引きづって来たんじゃないかって。だから、一人一人に殴られる覚悟で話を聞いたんだよ。そしたら、みんな君の様に過去の事から言い訳する様に逃げて来たんだって。だから、相談に乗って彼らのしこりを取り除いてあげたんだよ」
「その経験がアンタの目利きセンスに繋がるってか。そんなお人好しの先生が何でこんなとこに居るんだ?」
今の話を聞いて少しばかり俺の口調は緩やかなモノになっていた。
そして次第に何故、この人が教諭を辞めたのかが気になって来た。
「それはね。お恥ずかしながら。・・・・その聞いている際に一人の女子生徒が居たんだけど、彼女もまたヤンチャで。何度もその質問から逃げられてね。その度に何度も向かったんだ。そしたら、次したらセクシャルハラスメントで教育委員会に訴えるって言われてね。僕はそれでも良いから話を聞かせてくれって言ったんだ。そこで彼女が折れて僕に悩んでいる事や、いろんな事を話してくれた。でも結局、後日本当に訴えられて、教諭を辞めることになったんだ。三年間の短い教諭人生だけど、今でも後悔せずに誇りに思っているよ」
本当に不気味に思えるくらいにお人好しだな。
聖人とかではなく、一種の悪魔、いや妖にも思える。
「アンタは信頼できる人なのは良く分かった。だが、なんで俺なんだ?健の方が良いんじゃねぇのか?アンタが利益度外視なのは分かるが」
絶対に、まだ妖気法を使えない俺より、健の方が良いはずなのだ。
こんなただのチンピラなんか、どうでも良い筈だ。
「君の方が深刻そうだからね。それに彼の場合は僕ではなく影村さんの方が明らかに適任だからね」
それを聞いて、この人は信頼できると確信した。だが、さっきの昔の話が作り話ではなければ。
「そうか、なら相談する。アンタは悪魔だと信じて」
「酷いな~」
ここで初めて笹原さんから気の緩んだ声が出た。それは緊張感のある話が終わったからだろう。
だが、一つだけ少し引っ掛かりを覚えるような発言があった。何故、あの影村の方が健の適任だと判断できるのか。始まり方を大事にするこの人が、という事は健の話の『始まり』には影村が関わっている可能性が高いって事だ。
そして、俺は一年前に自身が考察したある事を思い出した。
「でも、その前に影村寿雄は健に何をしたか教えてくれ」
健の船での記憶がないのは影村寿雄が何らかの手段を用いて記憶を奪った説。
そんなファンタスティックな事はあり得ないと忘れていたが、妖気法という存在のせいで完全に否定できなくなってきた。
「そうか。聞いてないのか。そうだよね、君には教えない方が良いからね」
やはり何かを知っている口ぶりだ。
「俺がその事を健に話すからか?そしたらアンタらは恨まれるからか?」
この人は白だとしても、影村寿雄は信用できない。アイツは黒よりのグレーだ。
「恨まれることは想定してると思うよ。僕も全容は聞いていないけど、健君が死んでしまうかもだけしか教えられていないからね」
やはり、自殺衝動に駆られるほどの記憶なのか。
俺は最後のパズルのピースをはめる為に、ダメ押しの質問をした。
「仮に妖気法が個別の能力があるとして、影村寿雄の『能力』は何ですか?それを教えてくれたらアンタを信用して、俺の事も話します」
「別に交換条件付けなくても、教えたのに。良いよ、業界では有名だから話しても良いよ」
笹原さんから影村寿雄の『能力』が明かされた。
それを聞いて俺はこの事の真実を全て理解した。
「相談するって言いましたが、アレはまた今度にお願いします。もう夜も遅いので」
室内時計を見ながら、そう言った。夜が遅いのは事実だが、今の頭の中は相談するには別の事を考え過ぎている。
「そうだね。でも笹原カウンセラーは無休で行っているからいつでも来てね。じゃあ、また明日。おおやすみ」
笹原さんもそれを理解したのか、了承してくれた。
「おやすみなさい」
そうして俺の短い夜は一旦終わった。
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「健。さっきは怒鳴って悪かったな」
部屋に戻ると先程までの興奮状態の琉助が平常運転の冷静さを取り戻していて、謝ってきた。
笹原さんって凄いな。一体どんな経歴を歩めばこんな芸当が出来るのだろうか?
「こちらこそ。ごめんな、ついつい熱くなってしまって」
でも、こんな風に喧嘩できたのもあの時に本気で殴りあったからだろうな。
「笹原さんとは何を話したんだ?」
あの人がどうやって宥めたのか気になる。
「いいや、まだ何も相談してない。来る時にお前に相談したいからな」
なんだよ、来る時って。それに何も話しては無いのにそんなスッキリしているのはおかしいはずだ。まぁ、そこに触れるのは野暮だな。
「相談するのは別に今でも良いんだぜ」
「いや、そういう事は大切な時に取っておくモノだ。逆に聞くが、お前はあの影村のおっさんと何を話したんだ?」
「いや特に何も話してないけど。軽く妖気法についての追加の質問とかな」
俺の方は部屋を出た後は直ぐに冷静になり。個別の能力などについて幾つかの質問をした。
帰ってきた答えは先に身体能力の強化を中心に基礎を固めてからの方が良いと言われたので、本当に特に話すことは無かった。
「影村寿雄の能力について何か聞いたか?」
「おっさんの能力は一年前に既に聞いているぜ。その場の過去の事象を見るって言う能力だったはず」
てか、こういうのって勝手に教えて良いのか?まぁ、良いか。コイツもこっち陣営みたいなモノだし。
「そうか。そう言われたのか。なるほどな。・・・おっけいだ。とりま、俺に妖気法ついておせえてくれよ。なぁ」
「そういえば、おっさんが言っていたけどお前は妖気法使えないってよ」
それを言った瞬間、琉助は凍った様に膠着した。
「それマジ。冗談とかじゃなくて?」
そうよね、こういう雰囲気の場合自分も使えないって分かるとがっかりするよね。なんとなく分か。でも、安心してお前は死なない。俺が守るから。(綾波風)
「そもそも一万に一人の才能らしいからな」
「そんなことある?そういうの先に説明、、、、されたな。これに関しては俺が悪い。もういい、説明頼むわ」
一応は説明がちゃんと出来るようにおっさんと話したからな。
問題は無い。
「任された」
その後、三十分ぐらい話し合いをして、二人揃って就寝した。
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時刻は朝の五時。凄く眠たいです。周りに生えた木々という自然環境ともうすぐ十月に入るという事もあって、とても寒い。俺も琉助みたいなロングコート買おうかしら。
「荷物はちゃんとあるね?忘れ物とかは取りに来れないので、気を付けてください」
笹原さんが忘れ物の確認を促すと、確認する程に荷物を持たない琉助は我先にと言わんばかりに先に車の後部座席に乗り込んだ。俺はもう少し荷物を確認したかったのでバックを地面に置いて確認している。
昨日聞いた話によると、これから向かう先は鬼の襲撃を受けた村らしく、おっさんたちはそこの復興の手伝いをしているらしい。
この間の船の件は、おっさんたちに上からの指示があったとか。日本の妖気法使いは内閣の防衛省の機密事項扱いで、妖気法使いを管理するシークレットの役職があるらしいが、基本的に厳しい束縛はなくて、全員が自由に動いているようだ。
現在、日本に居る正式な妖気法使いは三人。 影村寿雄、天山緋麿、茜月夜海の三人に影村寿雄と天山緋麿両名の弟子である妖気法使い見習いとその他のサポーターで構成されている。因みに俺はまだ登録されていないので、立ち位置不明だ。
「笹原さん。この車、昨日と異なりませんか?昨日のは黒い大型車だったのにそれが見る形もなく、真っ白な軽自動車になってません?昨日詰め込んでいた沢山の荷物これじゃ入らないですよね?」
「ああ、それね。僕の能力を教えていなかったね。僕は物質を小さく収縮させることが出来るんだ。因みにこれは見たことが有るんじゃないかな」
そう言って胸ポケットから小さなキューブを取り出した。
それはどこかで見覚えのあるモノだった。そうそう、一年前、おっさんが使ってた物を小さくして保存していた。それは確か、知り合いのお弟子さんが作ったモノって。ああーそういう事ね。把握した。
「それって、笹原さんが作ったモノだったんですね。驚きです」
「これはアメリカから輸入した特殊な素材で作ったんだ。結構大変だったんだよ。作るのに一年と半年掛ったからね」
そんな苦労が宿っていたのか。これからは大切にしよう。
「あっ、影村さんが戻って来たみたいだよ。そろそろ行こうか」
三日分、泊まるはずの契約を一泊して帰ると言うのだから、おっさんが説明をしっかりと説明しているのだ。
「遅れてごめん。さっ、行こうか」
戻って来たおっさんが助手席に颯爽と乗り込み、笹原さんは運転席に向かった。俺も後部座席に入り、車は旅館から出発した。
一般道を一時間、そして、三時間くらい高速道路を走っていると隣の琉助が話しかけてきた。
「なぁ健。笹原さんずっと運転してないか?どっかのパーキングエリアで影村のおっさんと交代した方が良いんじゃね?」
至極真っ当な意見だ。俺が免許持ってないから運転の大変さは分からないが四時間近く運転すれば疲れが溜まるものだ。
「一つ言っておくぞ、琉助。おっさんは免許持ってない」
その一言を受け、琉助は俺の言わんとする事を理解してくれた。
「それは駄目だな」
満場一致で続けてもらうことになった。
「酷くない!ワシのドライヴィングテクニックは中々だよ。かつては紛争地帯の地雷原を駆け抜けた程にね」
助手席からこちらを振り向いてたらたら言ってきた。
「いや。その辺の地味に気になるけど、文句あるなら教習所に通ってくださいな」
「いやワシは見習いの人達や夜海ちゃんとは違って存在がシークレットなとこあるから。そう簡単にはいかないのよ」
シークレットな存在が旅館でそんな紛争地帯に行ってもいいのか?
「はいはい、そうですか。笹原さん、ここらで一端どこかのパーキングエリアで休みましょうよ」
疲労で事故でも起こされたら面倒くさいからな。
ここは休んでもらおう。
「それが良さそうだね。気を使わせてごめんね」
その後、朝食がてらパーキングエリアで一時間程、休憩した。
笹原さんは社内でお眠りになられている。飯を終えた俺とおっさんは車の前でお手洗いに行った琉助を待っていた。
「ねぇ、やっぱり残りはワシが運転しようか?」
確かにこんなに疲れて笹原さんをまだ扱き使うのは心が痛む。
でも、法律無視するのもそれはそれで嫌だ。どうしたものか。
「・・・・・・潔く車仕舞ってヒッチハイクしません?こう親指立てて、スケッチブックに目的地書いて」
グットポーズをしながらそう提案してみせた。
ついでに、にぱーって感じで笑ってみせた。
「健、俺達は四人だ。そんなに都合よく全員乗せてくれる人は今日中には多分見つかることは無いぞ」
ハンカチで手を拭きながら琉助が戻って来た。そしてマジレスされた。
「分かってるよ。あと、スケッチブックなんか持ってないし。誰も」
「いやワシ持ってるよ」
のっそりと手を挙げてキューブにしまって有ったスケッチブックを取り出した。
いやお前持ってんのかよ。てか、キューブもっと大事にしろよ使い捨てだろ、それ。
「ワシ意外と画伯なんだよ。これとか、ワシの弟子の子供頃に公園で写生したやつね」
そこに映っていたのはまさに地獄絵図だった。
「ほぼ線ッ!そして歪んだ円ッ!どれが弟子さんだよ。鉛筆の黒だけでよくこんな禍々しい絵が書けるな」
「てか、そのお弟子さんって話によると俺らと同い年らしいじゃねぇか。その子供時代の絵が何でそんな綺麗な状態で保存出来てんだな」
それもそうだ。
最低でも十年以上は経っていそうだ。どこも黄ばんでなく真っ白だ。
「他の絵も見せてくださいよ。画伯の絵が気になりますね。良ければ三桁のお金で買い取りたい」
テレヴィジョンで紹介されても良いぐらい。
トシヲ・カゲ=ムラの絵のファンになりそう。キャンプで使えそう。
「いや、他の絵は無いよ。忙しくてね」
「そりゃ残念」
大げさに残念ぶってみたり。
まぁ、この絵を世間に公表出来ないことはそれはそれで良い事だ。
悲鳴が上がること間違いなしだもんな。
「あれ?みんなもう戻って来たの。ごめんなさいね、僕だけ睡眠貰っちゃて。でもお陰で、これで目的地までちゃんと向かえそうだよ」
そんなこんな話していると、笹原さんがお目覚めになられた。
「いえいえ、でもまだ朝食も食べてないですよね。僕たち待っているんで、行ってきてください」
「ううん。それは心配いらないよ。朝は軽い食事だけって決めているから、バナナ一本で十分だからね」
カッコいい。
これが出来る大人の人か。どこぞのうどん二人前に天ぷらを五種食ってたおっさんとは大違いだ。てか、このおっさん良く胃もたれしないな。ホントに百歳越えかよ。
「ありがとうね、笹原君。じゃあ、みんな乗り込んで」
そうしてパーキングエリアから出た。
その後は一時間程車を走らせて岩手県に入った。そこから更に一時間走らせて高速道路から降りた。そのまま、近場のガソリンスタンドでガソリンを補充したりコンビニエンストアで軽食となるおにぎりや珈琲などをおっさんのポケットマネーで購入しながら木々の生い茂りる山の麓にある目的地に到着した。
そこは奥に大きな山が見える自然豊かな村だった。だが、想像していた以上に人の数が少なく見える。
「着いたよ。さぁ、降りて」
おっさを先頭に村長らしき人物に出迎えられた。身長は腰の曲がりのせいで凄く低く見える。そしてやや残った頭毛とサンタクロースの様な立派な髭全てが純白になっている。温かそうな厚着を羽織っており杖を突いている。
「秋山さん。ご無沙汰します。村の皆さんもご無事でしたか」
おっさんが最初に挨拶して笹原さんが続いた。
「お久しぶりです。そちらこそ、大丈夫でしたか」
おっさんと秋山と呼ばれた老人が世間話している最中におっさんが急に「秋山さん、ワシはする事があるので失礼させてもらいます。笹原君後はお願いね」と言った後、村の奥に一人で行ってしまった。何なんだ、あのおっさん。
軽くおっさんたちと会話をしている。そのうち、こちらの方に気付いた。
「これは、初見の顔の人が二人程見受けられますな」
髭を弄りながら俺達の方を向いてきた。ここは俺達も挨拶する事がマナーだ。
琉助に目配りで先に挨拶する事を知らせた。
「初めまして。私、山門健と言います」
礼儀正しく、首を垂らしながら簡易的な自己紹介をした。
「僕の方が馬飼琉助と言います」
琉助も同様に頭を下げながら自己紹介をした。
「こちらこそ、これからよろしくお願いしますね」
それに対して秋山さんは丁寧に返してくれた。どこぞのおっさんとは大違いだ。
「せっかくなので、彼らに村の案内をお願いして良いですか?」
続いて笹原さんが秋山さんが俺達に村の案内をするようにお願いした。
そんなに広いようには見えないが、まぁ、案内されることに関してはありがたいな。
「そうですな。少しお待ちくださいな」
そう言うと、お爺さんは村の一番大きな家にゆっくりと向かって行かれた。
「あの人は?」
「あの人はこの村の村長さんの秋山さんだよ」
俺の問いかけに、笹原さんが教えてくれた。
「確か染物を家業でずっとやってきたらしいんだって」
へぇー。何それなんかの伏線かな。
そんな事を聞いていると、お爺さんが誰かを連れて来た。若い女性に見える。
「初めまして。私は秋山小百合と申します」
そう名乗る女性は、整った顔に流るような美しい茶色い髪の毛を後ろに綺麗に結いっており、右眼の目元には小さなホクロが見える。身に纏っているのは水色を基調した衣に青色や薄紫色の花弁の柄が所々に描かれていた。
何というか、大和撫子と言ったらこういう人を表すのだろうか。
北海道に住んで居た頃ではあり得ない出会いかもしれない。
しかし、この出会いは俺ではなく琉助にとって、重大なことになるとはまだ知らない。
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村はずれの河川の近く、電話の音が鳴り響いている。
『御掛けになった電話番号は現在使われていません』
「えっ!」
影村寿雄は思わず驚きの声を上げた。
当然だ、先週まで普通に電話が繋がったはずなのに。と考えながら、渋い顔をした。
「お待ちしましたよ、影村のおじ様」
後ろから声を掛けられた影村は即座に振り返った。彼の事をそう呼ぶ人間は一人しか居ない。
「酷いよ、夜海ちゃん。また電話番号変えたのぉ、これで何回目ぇ~」
そこに居たのは一人の少女だった。その名も茜月夜海。
その容姿は黒い生地に白い鳥の刺繍があしらわれた高価そうな和服を着ており、赤色と金色の帯を腹の箇所に巻いている。肩には糸で編まれた赤色のバックをぶら下げている。いかにも日本のお嬢様いや、お姫様のような姿だった。
そして何よりも不気味なのはその深紅の瞳だ。それのお陰でこの世の存在とは隔離された人物にも映る。
「いいえ、いつ内通者に私の個人情報が抜かれるか分からないので、一週間に一度のペースで別の携帯電話と契約していますの、今はこのガラパゴス携帯ですので、こちら新しい電話番号です」
そう言った直後、その携帯を影村に投げ渡してきた。
それを丁寧にキャッチした影村はそれを手動で入力し始める。
「変えたら、その都度ワシらに連絡して欲しいんだけど」
「え~、それは面倒なのですぅ~」
「てか、夜海ちゃんは学校の友達と一々どうやって連絡取ってるのさ」
影村は入力しながら文句を垂れる。
そして、入力を終えるとそれを大きく放り投げた。空中を舞った携帯はその場で静止してそのまま茜月の下に引き寄せられていった。
「プライベート用は別です♪」
手に取った携帯を仕舞い、別の携帯を取り出した。見るからに最新のスマートフォンで桃色と白色のスマートフォンケースに入っている。
「それの電話番号を教えてよ~」
「あら?乙女の個人情報が漏れてもよろしくて?それとも、影村のおじ様は私とプライベートな関係にでもなりたいのですか?」
そう言いながら茜月はスマートフォンを仕舞った。そして次に扇子を取り出して口元を隠した。
「あまり、年寄りを揶揄わないでくれよ」
「そんなの事よりも本題に移りましょ、影村のおじ様の言い付け通りこの山に潜む目ぼしい鬼は掃討しておきました」
嗜虐的な笑みを扇子で隠してそう言った。
「それは村人には?」
「それも言い付け通り伝えてませんわ。でも、なんで伝えちゃいけないんですの?小百合ちゃんぐらいには安心させてあげたいのだけど」
「健君に村の英雄になってもらいたくてね。それに頼んでおいた鬼は始末していないのだろ?」
今度は影村の方が嗜虐的な笑みを浮かべる。そして、同僚である茜月にはそれを隠そうとは一切していない。
「それは勿論ですが、おじ様も人が悪いですね。でも、肝心の健様はお強いんで?」
「いや、ワシの弟子の遥か格下だが伸びしろは君以上だよ」
「それは会うのが楽しみですね。私に学校がなければ今すぐにも会っていたのに」
そう残念そうにそう言う茜月。
彼女は通っている私立中学を休んでこの場に来ている。もう戻らなければ、帰りの新幹線に間に合わないのだ。
「君も彼らみたいに中卒になりたいのなら残れば、いいじゃん」
「意地悪ですね、おじ様は。まぁ良いですわ、私はこれで失礼せてもらいますね」
そう言って、茜月は帰り支度を始めたと言っても、どこかにメールを送っただけであるが。
「何かあったら連絡してね」
「分かりました。ついでに天山のおじ様にもよろしく伝えときますね」
それを聞き届けてから、影村は村までの帰りの歩みを始めた。
「これだから若いのは退屈させてくれない、、、、。成長を見守らないのが残念だ。」
その呟きはもはや誰の耳にも届かない。自然の奥深くへと消えて行った。
あまり進展なくてすいません。
次回は話が大きく進みます。(予定)




