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紅の赤  作者: 青階透
鬼殺し偏赤鬼偏
11/61

4話 荼鬼襲来ッ!

最初の戦いです。

 

 むかーし、むかーし。あるところに、一人の鬼が居ました。

 彼の周りには他の『仲間()』は居らず、孤独でした。

 ですが、彼にはとある『能力(チカラ)』を持っていました。それは、現世に留まる死者の魂をあの世に送るという奇妙なモノでした。しかし、彼は何故自分がこの『能力(チカラ)』を持っているのか知りませんでした。そんな、彼でしたが一つだけ確信していることがありました。この力は自然的なモノではなく、超越的なモノであると。

 いつしか、鬼に興味を持つ人物が海の向こうからやって来ました。周囲の人や女王からは『河童』と呼ばれていました。そんな『河童』は、女王の願いを聞き特殊な術を教えました。それは身体の構造を組み替えることで、永遠(とわ)に続く人生を与えたのでした。ですが、それは『河童』の当初考えていたモノとは異なり、女王に永遠の命はありませんでした。

 女王の死後、鬼は役目を果たすべく女王の下へと向かいましたが、彼女の魂はおろか亡骸すら、見つけることが出来ませんでした。その時に『河童』は鬼の歪さに気付いたのです。その後、鬼についての研究の中で、『河童』は女王に教えた術を使い、赤、青、黄の三色の鬼に作り出しました。ですが、いくら作ってもそれらには『河童』の求める鬼の持つ『能力(チカラ)』は持っておらず。『河童』もやがてどこかへ去ってしまいました。残された鬼たちは人里を離れ数を増やしていきました。

 原初の鬼は長い旅の末に自身と同様の『能力チカラ』を持つ鬼と出会い、結ばれました。彼の子孫はやがて鬼たちと暮らすようになり、『荼鬼だき種』と呼ばれるようになったのです。



 ##############



 船のデッキにて

 

 俺は潮風に吹かれた海の香りを全身で味わっていた。

 琉助の奴は船酔いで客室で休んでいる。多分それは建前で本当はまだ二人の死に思い悩んでいるのだろう。あんなこと琉助でなくても二度と立ち直れないぐらいに傷つく。それを悟られないようにしているだけでアイツは十分に強い男だ。

 だが、俺は自分の両親の死を何も感じていない。

 親不孝な男だよな。まったく。


 ドーンッ!


 俺が船内に戻ろうとした次の瞬間、船全体がその音と同時に大きく揺れた。


「ウワォッ!なんだいきなり!」


 ビックリして大きな声を出してしまった。


「氷山なんか、この近くにはないよな」


 タイタニック号じゃあるまいし。念の為、客室に戻って荷物を整理しよう。


 そう思って振り向くと後ろには、一角獣の角を五時間ぐらい圧力鍋にかけたような双対の角を生やした男がそこに立っていた。その顔は人とは形容し難い姿をしていた。真っ白な卵のようなお面のようなものに口は見当たらず、長方形型の隙間から紺色の中に橙色の配色の眼球が二つ、こちらを覗いている。体付きは健康的な成人男性のようなガタイの良さで茶色のウェアーを前に開き、その中には赤色と白のシャツを着こんでいる。


「おれ?見知った顔だな」


「すまない。アンタみたいな特徴的な奴は会ったら覚えていられる自信があるから、初めましてだ」


 それを聞くや否や、床を一蹴りでこちらまで飛んできた。


「う~む。あの時よりは成長しているようだ、ナァ!」


「ウンガァッ」


 俺の腹に目掛けて思いっきり膝蹴りを噛ましてきた。とっさの事で妖気を完全に纏えなかったこともあり俺はそのまま、意識を失ってしまった。・・・・・いや、失ってない。

 どうやら少量の妖気だけでもダメージはそこまで入ってこないみたいだ。


「お前、弱くね?」


「アあぁ?」

 

 鬼の謎の疑問符を上げた。次の瞬間、俺は全力の妖気を腕に纏い腹部にお返しと言わんばかりに拳を叩きこんだ。


「グアァ!」


 そのまま大きく後ろに垂直に吹き飛ばされていった。

 いや、冗談抜きで弱すぎだろ。

 そのまま、そばに近づくと完全に伸びている。


「勝ったのか?あっけないな」


 まぁ、起きたら危なそうだからその辺に有った適当なロープで体を縛り付けた。 

 それを終えたと同時に琉助がこっちにやって来た。これは隠せないな。まぁ、俺が事件の時に鬼の話してからそれを説明すれば良いか。妖気法の事は伏せればいいし。


「おーい。健、さっきの揺れ大丈夫か?てか、お前、何でその人縛っているん、、、、、。それ死体じゃないかッ」


 何言っているんだ?コイツ、どう見ても鬼野郎だろ。

 そうやって鬼の顔を良く覗くとそれは普通の男性の顔だった。しかも死んでいるぐらい顔色の悪い。

 てか、死体じゃん。


「おい、それから離れた方が良いぞ。いやな予感が、あああああッ!」


 死体の男がいきなり琉助の肩に目掛けてそのまま嚙みついた。縛り付けられながら。

 そのまま琉助を押し倒した。その様はまるで芋虫みたいにも見える。


「離せッ!この糞野郎ッ!」


 そのまま琉助は噛みつきを剥がして、そのまま腹部を蹴り上げて逃げた。


「退いていろ。琉助、後は俺がやる」


 そしてそのまま、俺はその男を殴りそのまま海に落とした。


「痛ってぇな。大丈夫かコレ。俺もゾンビにならないか?」


 琉助は噛まれた箇所を横目で確認しながらそう言った。

 噛まれた傷跡は歯形がついているだけで出血はないので、感染とかは無いだろう。

 

「とりあえず、これで唾液拭けよ」


 汚い唾液を促すと同時に俺は黄色い花柄のハンカチを取り出した。因みにハンカチはどこに行くのにも持ち歩く派だ。自慢ではないが女子力は誰よりも高いと自負している。


「ああ、良いよ。持ってるから。それに絆創膏もある」


 そう言って。自前のハンカチで唾液を拭った。


「きったねっ」


 次に消毒液で湿らせたテッシュペーパーで傷跡を消毒した後にその上から大きめの絆創膏を物凄く丁寧に張った。シワすらなく。

 さっきの発言を訂正しよう。俺女子力低いわ。


「よしこれで良いか。で、さっきの奴は何だ?お前が縛ってたってことは理由が有んだろ?」


 まぁ、それは聞くよな。鬼の事だけ説明しとこうかな。

 俺も詳しく分からないけどね。


「さっきの揺れは鬼の仕業だ」


「以前、お前の乗っていた船を襲撃した件と同じか?生き残りのお前を狙ったとか」


「多分、それであっていると思うぞ」


 現状はそれぐらいしか分からない。ヒントが少なすぎる。


「あと入れ替わりのように消えた角の生えた男が主犯格だと思う。ソイツを探しに行きたいんだが、来るか?それともここに残るか?」


 さっきの鬼が本当の実力でないと思われるので巻き込んだら危ないかもしれない。

 そう思った俺は琉助に尋ねてみた。


「冗談はやめてくれ。ゾンビが居たのに、二手に分かれたら確実に俺が死ぬ」


「おっけぇだ。行こう」


 船内に戻ると雰囲気は全く変化がない。

 もしかしたら襲撃で終わったのだろうか。


「きゃあああああああああああああああああ!」


 遠くで女性の悲鳴が鳴り響いた。

 その声を聴いたのか、客室から沢山の人が出てきた。「何だ」「何事だ?」などと言っている人もいる。俺たちはそのまま、声の聞こえた方向に向かった。

 そこは船内の大浴場の女湯だったので、何人かの野郎は五秒ほど躊躇した後に全員で雄たけびと共に侵入した。

 浴場の奥の方には先程悲鳴の主と思われる長い黒髪の女性が一糸纏わぬ姿で張り付いている。

 *特殊な湯気で大事なところは男どもには見えておりません。

 その手前にはさっき俺が海に落とした男と同じ服を着ている男とその横には如何にも変態にしか見えない全裸のおっさんが勃っていた。

 *特殊な湯気よって女性と読者には見えない様になっています。


「おい!あんた等、女湯で何やってんだ!犯罪だぞッ!」


「ちょっつ、危ないから服着てる方には近づくな」

 

 勇敢なマッチョメンが二人の男のへ向かって行った。

 そして、服を着ている方の肩に手をかけた瞬間にその肩から下が腐り落ちた。


「何ィィィィィィィィィッ!」

「ウワァァァァァァァァッ!」

「キャぁァァァァァァァッ!」


「やっぱりな」


 それぞれ個別の驚き方をした。マッチョメンがそのまま尻餅をついてその場に倒れてしまった。直後、冷静さを保ったままの琉助が即座に女性の方に変態をぶん殴りながら走り、自身の上着を掛けて体を隠したうえで、ささっと、マッチョメンと変態を回収しながら脱衣所まで避難させた。


「もう大丈夫だよ。アンタらも早くこっちに逃げ込んで来い!そこは危険だ」


 その後は、危険だから他の人たちも琉助の掛け声と共に一斉に脱所に逃げ込んだ。


「君、君も早くこっちに来たまえ!そいつは危険だ」


 マッチョメンのナイスガイが俺にも戻って来るように叫んだ。

 だが、危険な男をここに放置置くわけにはいかない。


「俺はコイツを拘束する。アンタらは彼女を守ってやれ」


 頼んだぞ、琉助。


 

 ##############



「とりあえず。俺たちは彼女が身体を拭き終えて着替え終わるまで、外で待機だ」


 そう言って、俺は脱衣室から男どもを追い出した。


「貴方はここから出て行かないのですね。ヘンタイさん」


 俺は彼女を守る為にここに残った。

 今は性欲もクソも感じなくなったので彼女の裸では全く欲情しない。本当だ、信じろ。正直最近、旦那の金を使い込む奥様方としか話して無いから同年代の女子と話したいとか、微塵も考えていない。


「俺は向こうの方を見ている。だから、早めに着替えてくれ」


 欲情しないとはいえど、知らない女性の裸を見ることは犯罪なので、紳士に後ろを向いた。


「振り向くタイミングが少し遅いんでなくて?」


「あまり高貴そうな言葉遣いは、止めておけよ家出少女。アホにしか聞こえない」


「誰が家出少女ですか!私は両親と旅行に来ただけです!」


 そう大声で反論してくるので、俺はここに入った時の情報を整理して自分の意見を述べることにした。


「そうか、なら母親はどこだ?それになぜ制服で旅行に行く?それに今は連休でもないただの平日のはずだ。学校はどうした、学校は」


「貴方だけには言われたくないですね。見た感じ貴方も高校生ぐらいでしょ」


 そう言って着替え終え制服を着た彼女がこちらの前に回り込んできた。髪を乾かす時間は無かったようで髪はまだ水気が残っている。着ている制服は見た事のないモノだが調べれば直ぐに分かりそうな紺色を基調とした特徴的な制服だ。多分だがどこかの私立高校だと思うが校章は付いていない。


「浪人って知ってるか?」


 うるさいお嬢様に対して現実を突きつけた。


「ごめんなさい」


 それを聞いた直後に頭を下げマジトーンで謝罪された。

 

「じゃ、じゃあ名前はなんて言うの?私は沢渡紗弓(さわたりさゆみ)


 場の空気を変えるために自己紹介を始めた。

 しょうがないから俺も返すことにした。


「そうか、俺は馬飼琉助(うまがいりゅうすけ)だ。満足か?」


「良い名前ね。カッコいいわ」


 そう言われて少し照れ臭くなった。


「アンガス。着替え終わったんなら、ここは危険だからささっと行くぞ」


 それをごまかす様にそっけない態度を取ってしまった。


「つまらないわね。リアクション取れない人はモテないわよ」


「俺は一応はホストとして一年ぐらい働いていた。女からモテる方法は心得ている。それにリアクションがうるさい奴は嫌いだ」


「そう?私はそういう人面白くて意外と好きよ。それよりも貴方の経歴が凄く気になるんですけど。どういう人生を歩んだら、一年間ホストで働くのよ」


 じっーとこちらの方を睨み付けてくる。それは、おねだりを断った時の妹の顔を思い出して、顔が苦しくなる。


「ちょっと貴方。なんでそんな苦い顔するのよ。こっちは真剣に聞いているのよ・・・・・・ちょっと、本当により顔苦くなってない」


 顔をアメリカの公園のリスが如く膨らませて抗議してくる。その顔は弟の方の抗議の顔に似ている。兎に角地雷を意図せずに踏んで来るな。


「・・・・・ちょっと妹と弟を思い出いしてな」


「それが何故、苦い顔に繋がるんですか!」


 疑問を真っ直ぐに浮かべてくる。


「それをお前に伝えれば余計な気を遣わせることになる。・・・ホストをしてた理由はそれしか金を稼ぐ方法がなかったからだ」


 目力を強めてそう言ってしまった。

 だが、その事に直に後悔した。


「ごめんなしゃ、さ、しゃい」


 見るからに動揺している。なんなら、一回嚙んでもう一度言い直してからまた噛んでる。


「す、すまん。こちらこそ怖がらせるつもりはなかった。」


「は、はい」


 即座に詫びを入れる。ビビらせたままでは後々のコミュニケーションが面倒臭くなる。


「まっ、気を取り直して外に出よう。他の人も待っているから」


「そうですね。そうしましょう」


 お互い先程の事を無かった事にして外に出ることにした。

 二人で外に出るとロープであの変態が服を着た状態で縛られていた。


「お待たせしました。ソイツは?」


 俺は縛られた変態の事を聞いた。一応、パンツは穿かされている。穿かせた人にボーナスをあげたい。

 まぁ、大体の理由は考えついている。ちなみに隣の紗弓は変態を汚物を見る眼で軽蔑してた。怖かったんだよねきっと。


「一応は犯罪者だから港に着いたら警察に着き渡そうと思って。あっ、通報はもう済ませたよ」


「そうか。分かりました」


 警察が何か出来るとは考え難いが、犯人の確保には役立つだろう。健の役目が犯人の無力化だとしたら、俺の役目は犯人の特定だ。だから、


「さってと話は変わって。アンタの尋問から始めようか。ヘンタイさん」


 俺は薄ぺっらな笑顔を張り付けながら変態に尋ねた。変態は俺の顔を見ながら、無言のまま冷や汗をかいている。

 紗弓は驚きを隠せていない様子。


「こんな奴は放置して他の乗客を集めて避難させた方が良いんじゃないか?」


 それは確かに正論だが、犯人を確定させた方がより確実な安全が確保できる。


「いや確認したいことがある。他のみんなは大広間にでも集めてくれ、俺は残る」


「分かった。深くは聞かないよ。それと、気をつけろよ」


「了解した。アンタらもな」 


 そう言うと彼らは去って行った。 

 だが紗弓は何故かこの場に留まっていた。


「お前もあっちの方行けば安全なのに。気分の良いことはしねぇぞ」


「こっちの方が後々(のちのち)安全そうだわ」


 まぁ、こっちには健が合流するしな。

 アイツは謎の力を使ってるぽっいし。ゾンビとかには対抗できそうだよな。


「そうか、じゃあそこで大人しくしていろ。尋問を開始する。準備はいいか?ヘンタイさん。いいや、鬼さん」

 

 それを聞いた、男は一秒に満たない瞬間であるが眼の色が動揺色に染まった。

 もちろん俺はそれを見逃すはずもなく、最大限の警戒態勢で尋問を開始した。


「貴方、鬼ってどういう事?この変態さんはただの変態だわ」


 流石に鬼といった非科学的なことは信じていないみたいだ。だが、それは俺も同じこと。さっきのゾンビみたいな男のせいで少しは疑いが無くなっている。


「紗弓、コイツとあのゾンビ、どっちが先に入って来た?」


「そ、そんな急に呼び捨て、たしか変態さんの方です。でも、ゾンビぽっい人もすぐ後に入ってきました」


 紗弓は頬を少し赤らめながらだが、直ぐに落ち着きを取り戻してそう答えた。


「なるほど。つまり同時と。なら、コイツとゾンビが同時に行動していた可能性が高いな。根拠を言ってやろうか。まずお前が俺に飛びついてきたゾンビのすぐ横に居たのに襲われていない点が不自然だ。次にほぼ同時に入って来たということは脱衣所にて鉢合わせする可能性が高い。それなのにドアを開けぱなっしにして浴場に侵入するか?普通ならしないね」


 証拠は無いがこの説は俺の中で既に固まっている。


「でも、なんで覗きなんかしようとしたのよ。それをするなら、他の場所に行って襲った方が良いでしょ」


「その通りだ。こいつが本当に変態でお前の裸に興味を持っていたなら、別だがな。こういうことが覗きという分かりやすい犯罪を起こすことで、大きな事件の容疑者候補から外れる事。そして、ゾンビを使って健を一定の場所に留めておくこと。これが目的だろうよ。そんで、偶々お前が風呂に入っていたからな。てか、揺れあったんだからそこから出ろよ」


 この時に出ていれば不特定多数にいや、湯気で見えてないけど。少なくともこの変態には見られていなかったんだが。


「身体を洗っていた最中でソープが落ちなかったんでーす。良いでしょ!」


 また顔を膨らませて、抗議してくる。

 可愛らしんだか、アホなんだか。


「まぁいいか。さてと、そろそろ話してもらおうか」


「フフフ」


 次に瞬間、縛られた変態は不吉な笑みを浮かべた。

 

「お前面白いな。頭が回る事は素晴らしいことだ」


 それを聞いた瞬間、俺は嫌な予感がした。

 生物としての本能が逃げろと叫んでいた。


「紗弓避けろーーーーーッ!」


「えっ!何、きゃあっ!」


 俺は紗弓を強引に突き飛ばした。

 しかし、突き飛ばした方角に男の脚が蹴り上がった。


「だが、判断能力が弱いな。それでは何も守れないぞ」


 その足は彼女の右脚を意図も容易くスパンッと切断した。


「嫌ぁぁぁ。痛いッ、痛いよ」


「俺の名前は荼鬼(だき)。安心しろよ。二人とも楽に殺してやる。ただし、大分後になるがな。彼女は止血ぐらいはしてやるよ」


「止めろォーーーーーーーーーーッ!」


 そのまま、彼女の脚の切断面を踏み潰す形で傷口を強引に閉じた。

 その狂気染みた行動に俺はほんの一瞬だけだが恐怖を浮かべてしまった。そして、それを無理矢理振り払うために俺は怒りの感情を引き出した。


「テメェ!ぶっ殺すッ!」


 その場の感情に身を任せて、冷静さを捨てた状態で荼鬼に詰め寄った直後、腹部に強烈な激痛が走った。腹を思い切り蹴り上げられたのだ。それはさっきの人体破損を目的とした攻撃とは異なり、俺の意識を奪うためのモノだった。

 

「アがァッ」


 何とか、意識を保ち地を這いつくばりながら、紗弓の方へと手を伸ばした。

 短い時間ではあったが彼女との交流には温かみがあった。


「薄れゆく意識の中、愛する女性に手を伸ばすか。美しいな」


「違うッぜ。そんな相手じゃない」


 実際にそんな相手じゃないし、俺にその資格は無い。

 最後の力を振り絞って、そう言い返した。


「強がっているとこは悪いが。彼女が死ぬとしたらお前のせいだぞ。それを胸に刻んで眠りな」


 もはや、荼鬼は俺に何もしてこない。そして、俺はそのまま意識を失った。



 ##############



「さてと、外の奴ら心配だし、さっさとお前を片付けさせてもらおうか」


 俺の目の前にいるのは腐った男。

 目には声明を感じさせるような光は無い。まぁ、ゾンビですしね。


「お前しゃべれんの?」


 会話ってか、意思疎通が出来た場合、コイツを捕らえて尋問すればあの鬼の居場所が分かるかもしれない。可能性は低そうだが、だって口とかずっと空きぱなっしだし。


「ううううううぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅうう」


「無理か。だったらこの山門健(やまとたける)容赦せんッ!」


 俺は妖気を出来る限り拳に纏いそれでゾンビの顔面を殴り飛ばした。

 そのまま、勢いよくゾンビは一メートルぐらい吹き飛んだ。が、すぐさま立ち上がり今まで微動だにしなっかったゾンビがこちらを敵と認識したらしく。こちらに向かい、駆け寄って来た。


「うガァァァ!」


「あらよっと。鈍いぜ」


 しかし、動きは単純なため回避は容易だった。 

 そう思っていた直後、何かが飛んできた。それは奴の腐り落ちた腕であった。

 それは垂直に俺の腹にぶつかり、浴場の濡れた足場と相まって俺はその場に尻餅をついてしまった。


「痛いなァ!」


 そんな大きな隙を逃がすこともなく、ゾンビはアメリカンフットボールみたいなタックルをかましてきた。


「退けェ!この死肉やろうッ!」


 その状態で俺はゾンビの腹部を高く蹴りあげ、そのまま姿勢を立てなおした。

 

 この手のゾンビを倒すには脳を破壊することが手っ取り早いな。だが、ここは日本だ。重火器なんて持っていても英雄にはなれないどころか、囚人になってしまう。ならば鈍器で頭部を破棄するしかないな。この場でそれが出来そうなのはシャワーヘッドぐらいか。

 そう判断して、俺は濡れた床を猛ダッシュでシャワーのある場所まで向かった。


「武器なしってルールじゃないよな?答えは聞いていない」


 そのまま向かってくるゾンビに蛇口をひねり勢いよくお湯をぶっかけた。


「お熱いのでお気をつけ!」


 その怯んだすきに蛇口をとじて、妖気をシャワーヘッドに纏う。


「池を溢れ差す感覚。ッ!これだ!」


 そのままシャワーヘッドでゾンビの頭部を叩きつけ陥没させた。

 すると、ゾンビは動くことがなくそのまま床に沈んだ。


「ハァー、ハァー。思ったよりあっけなかったな。これでも地味に十分ぐらいかかったけど」


 てか、この浴場思ったより防音性高いな。外の音が全く聞こえない。あの女の人どんな声で叫んだんだよ。その事はどうでもいいか。

 早く行こう。あの鬼を絶対捕まえてやる。


 早足で脱衣所を抜けるとそこには女性の脚が切断された状態で落ちていた。


「なんだ、何があった」


 壁には千切られたロープも落ちているのを発見した。

 憶測だが、これは覗きをしていた変態を縛っていたモノであろう。


「あの鬼は他のゾンビを擬態させていた。その逆も可能!まさか!」


 これは俺をはめるための罠だ。

 最初からあの野郎は変態に成りすましていたんだ。


「畜生ッ!」


 次に瞬間、船が急停止した。

 俺も一瞬バランスを崩しそうになったが、足を強く踏み込み体制を保った。


「そこか」


 あの野郎。わざわざ一番分かりやすいヒントを寄こしやがった。


「ナメヤガッテ!」


 俺は船の操縦室に向かった。



 ##############



「随分と遅かったな。おかげで、女の方はもう死んじまったぞ」


 操縦室にて俺はついに鬼と対峙した。

 鬼は最初に会った時と全く同じ姿であったため一瞬また偽物かと思ったが、もう面倒臭いので気にしないことにした。


「俺の名前は、荼鬼だ。冥途のお土産に持って行きな」


 荼鬼の後ろにはボロボロになった琉助と風呂場に居た女性が倒れていた。

 俺は無言で荼鬼を無視する様に二人の方に歩いて向かった。琉助の方はまだ息はあるが、女性の方はもう息がない。


「おい、無視すんなよ。そっちの男も殺すぞ」


 荼鬼は俺の肩に手を掛けて脅してきた。


「お前は何で彼女を殺した?何故、この船を種撃した?教えろよ」


「可哀そうだが、これが俺の仕事だ。妖気法使い」


 やっぱ、妖気法使いと鬼は敵対関係なのか。


「そうか。じゃあ、俺にこの場で殺されても文句言うなよ」


 それを聞いた瞬間、荼鬼は俺に拳を向けてきた。

 俺は腕に妖気を纏ってその状態でクロスしてそれを受け止めた。


「何ぃ!」


「お前、何か忘れてないか?」


 そのまま、俺は腕をスライドさせて、腹部を蹴り飛ばした。


「何を忘れていると言うんだ!」


「『(小っちゃいツ)』だッ!」


「ッ!」


 唐突なセリフに驚いたその一瞬の隙を狙い、俺は全力で妖気を纏った拳で奴の顔面をぶん殴った。


「クッガァ!」


 そのまま荼鬼をノックアウトさせた。

 地面を凍った鮪の様に滑ってそのまま壁にぶつかった。


「弱いなお前」


 地面に仰向けになった荼鬼を見下した。

 コイツ結構暴れていてが、見た目だけでビビらなければ大したことがないな。

 

 俺が琉助の方に急いで駆けつける隙を突いて荼鬼は起き上がりそのまま窓枠に手を掛けた。俺はその事に気付いて、とっさに振り向く。


「今回はここまでにしておいてやるよ。その首取っておくんだな」


 もの凄い負け犬台詞をキメて窓から飛び出そうとした。


「じゃあな!」


 窓から荼鬼が窓から飛び出そうとした瞬間、何かの棒が荼鬼の頭を貫通させてそのまま絶命させた。


「えっ?」


 よく見ると、その棒は釣り竿であった。

 こんなしなやかな棒であんな硬い仮面を貫くなんて、もしかしたら妖気法使いの仕業か。

 そう思い、窓から下を覗くとモーターボートに見知った顔が居た。


「いやー、通報を受けて来たけど間に合って良かったよ」


 謎に手で額の汗をぬぐい一仕事終わらせたみたいな感じを出して独り言をつぶやいている。

 その男の名前は影村寿雄(かげむらとしお)。俺に妖気法を教えた男だ。


「さてと、生存者を探し、、、、、」

「テメェ!今までどこに居やがったッ!」


「ソゲブッ!」 


 俺は窓からおっさんを飛び蹴りして海に叩き落した。

 こうして俺の最初の鬼との戦いは終了した。


まだ赤鬼は出ません。

もう少しの辛抱を。

解説

紗弓は琉助が突き飛ばさなければ、生存していましたし、琉助もその時にダメージを受けないので琉助の判断ミスですね。

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