翠の約束「2匹の白蛇」
「紅緒、葵、いいところにきたね」
「ふふん!だって僕達見計らってたからね!」
「翠蓮様達の事あそこからずうっとみてたからね!」
紅緒、葵、そう呼ばれた2人はビシッと神社の屋根を指さし、次の瞬間には、自慢げな顔で話しかけてくる。
はて、私は彼らと面識があっただろうか。いやに馴れ馴れしい。(そもそも、いつも一方的に話しかけてくるマスコット型の妖もあたかも友人のように接してくるし、妖の距離感とはこんな感じなのだろうか)
「ん?あれ、夏芽?もしかして僕達のことわかってない?」
「え、ほんとに?嘘!?」
「ぇー……私にショタの知り合いは居ないはず……」
見た目的には小学一年生くらいに見える彼ら。
双子なのか、容姿は殆ど一緒で全体的に白い。
比喩ではなく、本当に白いのだ。
肌はおしろいでも塗りたくったように真っ白、それでいて遠目からでももちもちしてそうだとわかるくらい綺麗でハリがある。
髪も新雪のように白く濡れたようにツヤッツヤでサラサラ。
目つきは鋭いが大きくてクリクリしている。そこに嵌め込まれた瞳は宝石のようにキラキラと陽の光を反射して一層透明感が増していた。
うん、正直とても羨ましい容姿をしている。
私もあんな感じの儚い雰囲気の美少女になりたかった。(最もそれは黙っていればの話だが)
辛うじて違うのは瞳の色くらいだろうか。ひとりは薔薇のような鮮やかな赤で、もうひとりは竜胆のような深い青だ。
他にももっと違う点はあるだろうが、見分ける方法がそのくらいしか思いつかない。
とにかく、やたら容姿が整っているショタは知り合いにいないということだけが真実である。
「その姿じゃ無理もないだろう。ほら、ふたりとも、いつもの姿に変化してあげて」
「もー、しょうがないなあー」
「うえー、あれ疲れるのにー」
そういうと同時にぶわっと煙がふたりを包んだ。その煙は徐々に消え、さっきまでの少年の姿は無くなり、毎日のように目にする見慣れたマスコットがふよふよと宙に浮いているのだった。
「あー、あー、あのマスコット型の妖くん達!」
「妖とは失敬なー!僕達神の使いぞ!」
「白蛇なんだぞ!鱗触る?」
「いや、別にいい」
私が返事をする前に今度は白蛇の姿になり、その次に少年の姿へと戻った。
「ふふっ、この子達のおかげで君の周りは賑やかだっただろう。」
賑やかどころか鬱陶しかったことは黙っておこうと思う。念の為。
「遅くなってしまったが、紹介するね。こっちの赤い瞳の子が葵、こっちの青い瞳の子が紅緒だよ。」
「……名前、普通逆じゃない?」
「あべこべな方が面白いだろう?」
ふたりの少年の頭を撫でながらニコニコと笑う。それはもう家族みたいで微笑ましい光景だったが、置かれてる状況を思い出しハッとする。和やかな雰囲気に飲まれてどうする。
「そ、そうだ、お守り!君たちこのお守りがこんなんになったのどうしてか知ってるってさっき言ってたよね?」
「うん?……あ、うん!言った言った!」
「でもさあ、教える義理はないよねえ!」
「……え?」
急激に、温度が下がった気がした。
意地悪なのか嫌がらせなのか。得体の知れない悪寒が身体を蝕んでいく。深さを増した瞳に貫かれ、まさに、蛇に睨まれた蛙のようだ。
それを知ってか知らずか、ふたりの少年は地面を軽く蹴って容赦なく距離を詰める。下から覗き込むように見られ背筋が凍るようだった。
「だってさ、今重要なのはこのお守りじゃないんだよ?」
「効力の切れたお守りはもう夏芽を守ってはくれないし」
「お守りが無くなった今夏芽を守れるのは誰だと思ってるの?」
「何も知らずに生きてきた夏芽はお気楽だね」
「……っ」
ごすっ
「「いったあっ!!!」」
「こーら、紅緒、葵あんまりいじめちゃダメだよ」
びっくりした、彼が少年たちの頭を殴ったのか。それにしてもすごい音がしたけど大丈夫だろうか。あ、目に見えてたんこぶが、可哀想に。
……今のは、なんだったんだろうか。
とてつもない不安と焦燥感に襲われた。一瞬前なのに何を考えていたのか思い出せない。
「ごめんね、夏芽。この子達、ちょっと拗ねてるんだ。大目に見てくれ」
「え、拗ね……?」
「この子達、夏芽が生まれた時からずーっと夏芽の傍にいたんだけど、夏芽は会話してくれないし、目も合わせてくれなかっただろう?結構こたえてたんだ」
「拗ねてないしー!」
「こたえてないしー!」
可愛らしく頬を膨らませれば、本当に駄々をこねる人間のこどもみたいだ。日本人と言われると微妙な気もするが。
「まあ、この子達は話す気なさそうだし私から言うよ」
そう言って彼は破れたお守りを私の顔の前に差し出した。
どうしよう。お守りの事、殆ど忘れてたし、なんならお守りはもういいから元の世界に帰してなんて言える雰囲気じゃない。