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神様のおしごと  作者: 桃源
序章
3/14

翠の約束「夢と神様」

 雪の降った夜。まだ小さい私は妖の存在が怖くて怖くてたまらなかった。

そんな時、いつも話を聞いてくれるのは祖母だ。

とたとたと廊下を走り、そこそこ広い家の中、祖母を探し回るのはいつものこと。

居間のこたつで暖を取っているのを見つけ、自分より少しだけ大きな背中に抱き付けば、こたつの隣にいれてくれる。


「おばあちゃん、おばあちゃん。あのね、変な子たちがいじめてくるの」

「お守りはちゃんと首からさげてるかい?」


「うん」と答える私の頭を、暖かい手がぽんと乗る。

見上げた祖母の顔はいつになく優しい。


「そう、なら大丈夫。怖い事は何も起こらないからね」

「怖い事?怖い事ってなぁに?」

「そうだねえ。食べられたり、連れてかれたりかねえ」

「やだやだやだ、私美味しくないよ!」

「食べられたくなかったら、危険な場所には近づかない事だよ」

「うん、わかった」


 ……夢だ。幼い頃の。

ベッド脇の置き時計をちらと見れば20時、いつの間にか寝ていたみたいだ。

夢は私が二つ返事をしたところで終わったが、あの後、まだ話が続いていたような気がする。

多分、眠くて話を聞いているうちに寝てしまった時だ。

 しかし、その何日か後、祖母は帰らぬ人となってしまった為、結局は聞けず仕舞いだった。

うろ覚えすぎて断片的な言葉しか浮かんでこない。


「確か神社がどうとか、神様がどうとか……」

「夏芽ー!起きてるのー?

風呂入っちゃいなさいよー?」

思考を遮るように、ドアの向こうから母の声がした。

とりあえず「はーい」と返事をすると、先ほど考えていたことを放り出し文化祭のことを思い出す。

文化祭は明後日、準備も大詰めだ。

彼氏もいなくなったし、文化祭は友達と回ることにしよう…。


◇◆◇◆◇


「夏芽、朱里!今度あれいこ!たこ焼き!!!」


 友達の溌剌とした声がざわめく人をかき分けて耳に届く。

わたあめ、大判焼き、たません、焼きそばときて、さらにはたこ焼き。

私たちの数歩先を行く彼女は茉莉(まつり)


「まだ食べるの……?」

「私もうチョコバナナだけでお腹いっぱいなんだけどぉ…」

「……」

私は片手でたい焼きを持ち、隣でチョコバナナ(3本目)を頬張る彼女を冷めた目で眺めた。

お祭りといえばチョコバナナと言い張って、隣を歩く彼女は朱里(あかり)だ。(文化祭はお祭りなのかは微妙なところである)


クラスの出し物で私の当番は午前中だけ。

部活も委員会も入ってない私はひたすら暇なのである。

なので同中の友達を誘って展示やら他クラスの出し物を回っていた。


「ふっふっふ、文化祭といえばお化け屋敷!ほらはーやーく!」


 茉莉に引っ張られるように教室に入っていった。

そのおばけ屋敷は妙にひやっとしていて不気味な雰囲気もある。

文化祭の出し物にしては異様だ。間も無くして妖たちの猛攻がはじまった。

私以外の人にも見えるように人魂っぽいのを浮かせたり、その辺にある布を浮かせて怖がらせたり。


「っ!」

パリィンッ

「夏芽?どうしたの?」

「いや、寒気がして……あと、割れた感じの音が……ふたりとも、なんか落とした?」

「えっ、いや、何にも聞こえなかったよ?」

「ちょっと、夏芽やめてよぉ……ここのお化け屋敷やたらクオリティ高いんだから。

夏芽まで脅かさないで……」


急にとんでもない寒気を感じて振り返れば、何かを落としたような音を出したり?


 それからは特に何事もなく、お化け屋敷を抜け出した。

ふう、と一息つけば、茉莉は思いついたように顔を輝かせる。


「ふたりとも!これから時間ある!?」









『なんか楽しんでくれたみたーい!』

『ねー!』


彼女達の背中を見送る2匹の妖は、きゃっきゃとはしゃいでどこかに飛んで行った。


『ぜぇったい気付かないよねー!思わぬ収穫もあったし!』

『ねー!』

『神様にお伝えしなきゃ!』

『お伝えしなきゃ!』


◇◆◇◆◇


 ぱんっぱんっと手を叩く音が乾燥した空気を揺らした。


文化祭が終われば受験はすぐそこまで来ている。

合格祈願に、とお守りを買おうと提案したのは茉莉だった。


「2人ともそんなに買うの…?」


ふたりの手には、これでもかというほどお守りが握られていた。

質より量とか言っているがお守りは1つで十分だと思う。


「私達夏芽みたいに勉強得意じゃないしぃ、このぐらいがちょうどいいって〜」

「そーそー!夏芽も早く買っちゃいなよ」

「そんな急かさないでよ……」


そう言って売り場に向かうと、既にふたりとも絵馬を書き始めていた。

急かすわりには興味無さげである。


「こんにちは」

「あ、はい、こんにちは……」


お守りを自分で買うのは2回目になる。

1回目は高校受験の時、3年前。しかし買ったのはお寺で、この神社にきたのは初めてだった。

その時買ったものに比べるとなんというか、可愛い、おしゃれ……な感じのものが増えた気がする。

御守りも流行りな柄とかあるのだろうか。


とりあえず一番無難なものをと1つ手にとってお会計をしてもらう。


いや、正しくはしてもらおうとした。


目の前にいるのはとても美人な売り子さんだった。女の人……?

頭にはてなマークが浮かぶ。さっき挨拶した時は確かに男の人の声だった。

「……何か?」

ぼーっと見とれていると売り子さんに不審に思われそう聞かれる。

それはやっぱり男の人の声だ。


「い、いえ、何も……あっ、お守りこれで……」


男の人の美の輝きにあてられそそくさと2人の元に駆け寄る。

その途中振り返ると売り子さんは真顔だった。怖い。


<大学受験合格しますように。 黄河夏芽>


これでよし。

あとは吊るして終わりというところでふと目についた。


「朱里、受験の合格祈願に来たんじゃなかったっけ……?」


吊るそうと思っていた場所の隣には朱里が書いた絵馬。

その内容は受験とは全く関係ない事柄だった。


まさかと思い茉莉の絵馬も探してみてみると、こっちも案の定だ。

人気カフェの新作初日に食べれますように、と

新作のゲーム機の抽選販売当たりますように……。


なんというか、邪……。


「まぁ、うん、願い事はそれぞれだしね。」


そういうと2人はえへへと笑って誤魔化していた。


そんな彼女達を呆れながら見ていると、なぜか手に持った絵馬がひょいと取り上げられる。

あっけなく、私の手元から離れ、一番上の列に吊るされた絵馬。


「こんにちは」


ハッとして声のする方に視線をやると、少し微笑んで挨拶をしたのは綺麗な男性だった。

何事も無かったかのように。

先ほどお守りを買ったところにいた人だろうか。明るい場所で見ると一層見惚れてしまう。

だとしてもだ。勝手に絵馬を取り上げて吊るすのはどうなのだろう。


「私はスイレン、翠に蓮で翠蓮だ。君の名前は?」


「あ、えっと、私は黄河夏芽です」


すると彼は、「へえ」と満足げに絵馬に向き直った。

私はいまだ困惑しているというのに勝手に満足しないでほしい。

ノリで自己紹介までしてしまったが今後会うこともないだろうしなぁ……。


「黄河夏芽、黄河夏芽……」


ボソボソと私の名前を発しながら腕を伸ばし絵馬をなぞる。

いや、もう、本当に勘弁してほしい。ちょっと、なんか、キモイから……。

綺麗な人なのにもったいない。


「ふふっ、ダメだよ夏芽。神様にあっさり名前を教えちゃうなんて」


いい笑顔で振り返る彼は心底嬉しそうだ。

別に、誰にも彼にも名前を教えているわけじゃない。妖には私の名前は教えていない。

自分の口から名前を教えると大分めんどくさくなるからだ。

だから、目の前でニコニコと笑う彼に名前を教えたってどうにも____。


「……え?神様?」


思わず聞き逃しそうだった。神様、平然と、日常会話のごとく出てきていい単語じゃない。


「そうだよ、夏芽。ずっと会いたかった。」

「ぶふっ」


いきなり抱きつかれて変な声が出た。うわ、いい匂い、とか思っている場合じゃない。

かといって、身動きもあまりとれない。顔を動かすのが精一杯だ。


「朱里、茉莉っ、ちょっと助け……」


「て」の一文字は喉の奥でつかえて消えてしまった。

数メートル先にいた彼女達の姿がないのだ。いくら私が、抱きつく彼のことで一生懸命になっていようと、一言も声をかけずに。

ましてや、地面は砂利で覆われている。足音も立てずにこの場から去るだろうか。


「ふたりはどこ……?」

「さあね」

「ちょっと!」

「そんなに怒らないで。術をかけて()()()に連れてきたのは夏芽だけだし、さっきのふたりには何もしていないよ」

「ならい……くないわ!」


そう、よくない。まずいつの間に術(?)をかけられたのかわからないし、こっちってどっち。

ここはどこ、私は夏芽。いや、ふざけるな私。


「あの、そろそろ離してほしいんですけど……。」


もろもろの疑問を投げ飛ばし、首に埋もれている彼の頭を引き剥がそうと奮闘する。

固い、動かない。動かない、どうしよう。


「君は黄河夏芽?」

「……違います」

「黄河夏芽だ」

「いっ、ち、違います」

「黄河夏芽だよ」

「痛っ、痛い痛い!」


名前を問われるごとにぎゅうぎゅうと背中と言葉に圧力がかかる。

もういっそ開き直ってしまおうかと思ったが、最後の悪足掻きくらさせてくれ。



「まったく、強情だなぁ」



そう呟くと、背中を圧迫していた彼の腕がすうっと離れていく。


「はぁ、お守りの効力は切れたというのに。まだ若干気持ちが悪いね」


手も触れず、着ているシャツのボタンが3つ開き顔が少し暑くなる。

え、何、セクハラ?そう思うと同時にばちんっと音がして宙に浮いたのは、首から下げていたお守り。

それを見て私は驚いた。刃物で幾重にも切り裂かれた様に破れているからだ。


「なんでこんなにボロボロに!?まさか……!」

「そんな顔で見ないでくれ。いっておくけど私じゃないからね」


会ったばかりの(自称)神なんて信用できるわけがないだろう。




「夏芽ー!それ僕たちが教えてあげるよ!」

「そうだよ、そうだよ!だって僕たち知ってるもんね!」





========================================


こんにちは、桃源といいます。

先程、主人公の名前がころころころころ変わってることに気付いて絶望しました。

「あっこれはやべえ」と急いで訂正したんですがまだ違ってるとこあったらごめんなさい。どうしよう、疲れてんのか、頭おかしいのか……。


兎にも角にも主人公ちゃんは黄河(おうかわ)夏芽(なつめ)ちゃんです。よろしく。

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