翠の約束「ひとりごと」
キーンコーンと、無機質な下校のチャイムがいくらか前に鳴った。
最近、放課後の学校はいつもより賑やかだ。
文化祭の準備で忙しない声が校舎から聞こえてくる。
そこから少し離れた体育館裏に座り続け、かれこれ30分が経とうとしていた。
「……また振られた」
誰に宛てたでもない独り言。
それなのに、馬鹿にした声が俯いた頭上から降ってきた。
『あははっナツメまたフられてる〜!』
『いつもと同じセリフでフられてる〜!』
……誰のせいだと思ってるんだ。
10月上旬、曇り空の下、風が励ますように頭を撫でていく。
それが更に虚しくさせた。
付き合った彼氏に別れを告げられたのが随分前の出来事に感じる。
『いっつもおんなじこと言われるね〜!』
『ね〜!』
正直、こんな優良物件手放すのはおかしい。
自慢げに、自信ありげに言うが、私、黄河夏芽という人物は凄いやつなのだ。
容姿端麗、頭脳明晰、運動神経抜群、性格は、アホとか言われることもあるが別に悪くもないだろう。
高飛車な訳でも高慢でもない。
………。
まあ、実際のところ、こうでも思っておかないと不安で不安でしょうがない。
というのが私、黄河夏芽という人物なのである。
それはそれとして。
こんな私だがそれなりにモテるといえばモテるのだ。
ただ、告白されたって、したって、決して長続きしない。ちなみに最長は1ヶ月。
そして、きまって私は毎回別れを告げられる側。しかも皆こぞって同じセリフで告げてくる。
「思ってた感じと違ったし、なんか不気味だから」
こんなことを言われた私はまず笑顔が凍りついた。
それから間も無く、頭にハテナがいくつも浮かぶのも想像できるだろう。
前者の「思ってた感じと違った」というのは、素直にごめんね、相性が良くなかったんだね。と謝っておこう。(自分に非があったのかはよくわかっていないが)
問題は後者だ。「なんか不気味」?なんか不気味って。え、不気味って…。
それは誓って私のせいじゃない。
『不気味だって〜いっつも皆失礼だよね〜!』
『ね〜!』
「ね〜、じゃないんだよねー……」と小声で言った言葉は目の前でふよふよしてる奴らの声に埋もれた。
そもそも不気味と思われる原因が人によるものじゃないのだ。
デートをすればポルターガイスト紛いが起こるし、勉強してれば筆記用具は無くなるし、ご飯を食べていれば…思い出すと気持ち悪くなってきた。
やめよう。
とにかく全ては妖達によるもので、普通の人たちにはそいつらが暴れていることなど知る由もない。
おかげで私はこうなんどもお別れを告げられていると言うわけだ。
『そろそろ僕達と話してくれてもいいのにね〜!』
『ね〜!』
『もっと嫌がらせしなきゃダメ〜?』
『ね〜!』
目の前でお喋りを続ける手のひらサイズのぬいぐるみっぽい妖たち。
残念ながら…などと微塵も思った事はないが、私は妖たちと会話する事を家族、主に、数年前に亡くなった祖母から固く禁じられている。
小さい頃からやたらとちょっかいを出してくるいたずら好きなこの子らは、私が困っているのを心底楽しそうに笑うのだ。こちらとしてはたまったものじゃない。
何度も言い返しそうになるが、いつも寸でのところで出しかけた言葉を飲み込む。
基本的にふたり(?)でずっと話しているし、実のところ小さい声だったならば気付かれる事がまず無いに等しい。
そういうわけで、今日も私は、騒ぐ妖たちを横目にその場から離れたのだった。
高校最後の文化祭を一緒に周る相手がいなくなった事は寂しかったが、そこは友人で埋めるとしよう。
持つべきものは同性の友人だな、うん。