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神様のおしごと  作者: 桃源
序章
1/14

翠の約束「待ち望んだ生」

「またかあ……」


 幼い頃から、何度も何度も同じ夢を見る。


 夢を見る度にうなされて、汗をかいて涙を流すというのは私にとっては別に珍しい事ではない。

 朝目が覚めると、全身から湧き出る汗がベッドのシーツを濡らし、目から生暖かい水滴が溢れるのを感じる。

 しかも、夢の内容を一切覚えていないのがなぜか腹立たしかった。


 いくら慣れたと思っても、覚えていない夢に翻弄され感情が高ぶり涙を流しながら起きるというのは、決して気分がいい朝だとは言えない。


 更にだ。既に、暗い沼の底に沈んだ気分だったのに、ここは底なし沼だとでもいうようにもっと深く沈めてくる存在が頭上で騒ぎ始める。


 寝起き直後、頭にふたつ、手のひらサイズの喋るぬいぐるみが降ってくるので、ぼーっとする事さえままならない。


 頭上で軽快な会話を続けるふたつの喋るぬいぐるみ。物心ついた時から、いや、それより前からだったかもしれないが、気付けば近くにいた、良く言ってしまえば賑やかな妖たちだ。


「ナーツメー!」

「あはは!起きた起きた!」


 お察しの通り、私は視ることができる。

 人では無いなにか。数年前に亡くなった祖母は一括りに妖と言っていた。残念ながら私以外の家族は皆視ることはできないという、生まれ持った体質だそうだ。


 どういうわけか、私の家には古い歴史があるらしく、私まで語り継がれている事がひとつある。

 それは、「妖と会話をしてはいけない」というざっくりとしているがとても分かりやすい掟だ。(家の歴史については、書物も何も無く口承によるものでひどく曖昧になっており、薄っすらとも背景は見えてこないのだが)


 私は、祖母からこれを絶対に破ってはいけないと言われ続け、それはもう散々、耳にたこができそうな程には言われ続けた。おかげでいまだ妖との会話は一切無くスルースキルが爆上がりしたのは言うまでもない。



 ◇◆◇◆◇


 あの日から、何度も何度も思い返していた。思い返すたびにまだかまだかと気が急いた。


 何十年、何百年と時が流れ、ようやく見鬼の才を持った女が生まれた。

 水晶の中の彼女に懐かしさを覚える人の面影は残っていないが、生まれたばかりの小さな体にまとわりつく空気は、思わず、息が止まるほどにそっくりだった。


 小さな命についた名前はナツメ。か弱く、優しく扱っても壊れてしまいそうな愛らしい彼女を、他の誰かに盗られてはと急いで2匹の白蛇を向かわせる。


 それからは、週に一度、遣いの白蛇達から送られてくる報告を楽しみにしながら日々を過ごした。時が過ぎるのはあっという間で、彼女はつい最近18の誕生日を迎えたそうだ。


「そろそろ君の作ったお守りも消えてしまうね」


 昔のことを懐かしんでいれば夜の帳が下り月が出ているのに気づいた。今日は満月。この月を何度見上げたことだろう。「ふふ」っと気の抜けた声が出てしまう。なぜだろう、気が遠くなるほど何度も見上げた白くて大きな月が、今日はいつもより数段明るく輝いて見えるのが面白い。


「もうすぐ転機だ。紅緒、葵、頼んだからね」


 自分が祀られている神社の屋根の上で楽しげに笑う自分に、2匹の白蛇は「任せて」といっているように頷いた。





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