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自粛警察24時

作者: エス

2020年、新型コロナウイルスの世界的流行により、各国が渡航制限やロックダウンを行った。

もちろん日本も例外ではなく、緊急事態宣言を発令し国民に外出の自粛や飲食店の営業自粛を求めた。

しかし、あくまで「要請」であり、強制力はないため要請を無視して営業を続ける店もあった。

自粛は正義、自粛しないのは悪であるという思想を持つ人達が「自粛警察」を名乗り自粛をしない人や店に「制裁」を加えるようになった。

今回はその自粛警察のメンバーの1人である見世(みせ) 津武士(つぶし)さんに密着させてもらうことになった。


自粛警察の朝は早い

午前6時、見世は近所のドラッグストアの前にいた。

ドラッグストアの開店までまだ3時間あるというのに店の前には長蛇の列ができていた。

ー皆さんは何故こんな早くから並んでいるのですか

「そりゃマスクを買うためだよ。この時間に並んでおかないと売り切れてしまうからね。マスクをするのは国民の義務だよ。

若者のなかにはマスクもせず外を出歩いている人がいるけど、嘆かわしい限りだね。」

しかし、先日見世の家に取材にいったとき、彼の家にマスクが3箱あった。もう使いきってしまったのだろうか?

「まだ3箱残っているけどいつ買えなくなるかわからないからこうやって買い足しているのさ」

ーあなた方がそうやってマスクを買い占めているから若者がマスクを入手できなくなっているのではないか?

「なら彼等はもっと早くから並ぶべきだ。若いんだから体力もあるだろう。」

たしかに体力はあるかもしれないが開店時間には仕事や学校が始まっている若者の状況を仕事をリタイアし1日中暇をもて余している彼には理解することができないのだろうか?

ワイドショーによって植え付けられた「若者はルールを守らない悪いヤツで、老人はルールを守っている良い人」という思想に染まってしまい、若者の事情など想像することすらしなくなってしまったのではないか…とさえ思える。


午前10時 無事マスクを手にいれ、帰宅した。

ー今からは何を?

「朝食を宅配でたのんでいるからそれがくるのを…」

ピンポーン

「ワイモの宅食でーす」

「はい、いつもご苦労様です。」

見世はワイモの定期食事宅配サービスを利用しているようだ。

「最近は自分で調理しなくてもこうやってなんでも持ってきてくれる。良い時代になったものだ」

見世は満足そうに語る。

たしかに現代は便利なサービスが増えたがそれを支えている人がいてこそだ。

ワイモは居酒屋の経営も行っているのだが、数年前にそのブラックな勤務状況が報じられて以降労働環境の改善を行っており去年ホワイト企業大賞の特別賞を受賞するほどになった…と聞いていたがさっきドア越しに見えた配達員の顔はやつれきっていて今にも倒れそうな様子であった。


午前11時 朝食をとった見世はワイドショーを見ながら外出の準備をはじめた。

ーこれからどちらへ?

「これから仲間たちとお昼のパトロールさ。自粛もせずランチ営業をする店に正義の鉄槌を下しにいくんだ。」

午前12時 見世は仲間と駅前で合流し、周辺の店のパトロールをはじめた。

「おい、こんな時期に何故営業しているんだ!」

ついにターゲットを見つけたようだ

その店の店主が出て来て悲壮な顔で

「営業しなきゃ倒産して一家心中するしかないんです!

私には小さな子供もいるんです。どうか見逃してください!」

と懇願するが、見世は怯まずに追撃する。

「休業保障があるだろうが!周りが自粛しているのに自分のところだけ店を開いてもうけようなんて浅ましい!不謹慎だ!

こんな店にくる客も客だ!はやく帰れ!立ち去れー!!」

見世一行が店内に乗り込み騒ぎたてるのを見た客は皆食事を止め店から出ていった。

顔に絶望の色を浮かべたちつくしている店主を他所に彼等は店に「ジシュクシロ!ハジシラズ!」という張り紙をした後、「二度と営業するんじゃないぞ!わかったか!」と捨て台詞をはいて立ち去っていった。

あの店主はこれからどうするのだろう。

リスクを承知で営業を続けていたのだ。おそらく休業保障が振り込まれるまで持ちこたえられないと判断しての営業だったのだろう。だから自粛警察に店を荒らされようと嫌がらせを受けようと生きるためには営業を続けていくしかないのだ。

悔しくても、情けなくても、歯をくいしばって生きていくしかないのだ。

午前12時半 見世達は一仕事を終えた満足感に浸りながら店のあった商業ビルを出ようとした。

ビルの前にパトカーが止まっている。

見世達をみるやいなやパトカーから警官が降りてきて彼等にこういった。

「先ほど行った営業妨害につきまして事情聴取をさせていただきたいので署までご同行願います。」

「営業妨害?なんのことだ?私達は自粛しない店に制裁を加えただけだぞ!不愉快だ!」

「あなた方の店内での行動につきましては一部始終監視カメラで確認させていただきました。あなた方のやったことは威力業務妨害に当たります。さ、署までご同行願います。一応任意同行の形をとっていますがもし拒否されるのであれば威力業務妨害の現行犯逮捕をした上で連行します。」

それから数日後

彼等とはいまだに連絡がとれない。

結局彼等は自分が正義だからなにをしてもいいという誤った考えのもと迷惑行為を繰り返していただけなのだ。

こういう人がでてくるのは今に始まったことではない。

地下鉄サ○ン事件を起こしたオ○ム真理教のメンバーも神の意思にしたがったのだから自分のやったことは正しいと信じきっていたのだろうし、立てこもり事件を起こした赤軍も自分たちが正義だという誤った確信をもったうえで犯行を行っていたのだ。

そもそも、多くの物事でどちらか一方が絶対的に正しいなんてことはあり得ないのだ。だからこそ自分と異なる思想の人を攻撃するのではなく、彼等の立場を理解しようと努力することが大事なのではないのだろうか?

密着取材を通じて改めてそう感じたのであった。

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