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第3話 『ダンジョンの魔物、少女と出会う』

今回、少し長くなってしまいました。自分のペースでお読みください。

「木だ!木が生えてるぞ!それもあんなに一杯!」


 俺とセラフィがダンジョンを出て一週間、景色は何も無い草原のまま変わらず、生物すらいなかった。


 外の世界に期待していた俺には、あまりにも酷い仕打ちだった。


 しかし、たった今「木」を見つけた俺は、それまでの残念な気持ちを忘れ、初めて見る草以外の生物に興奮を抑えきれなくなっていた。


「あれは『森』と呼ばれるものだそうです。森には多くの生物が存在しているのだそうです。」


「あれが森か! 早く行こうぜ!」


「はい!リラン様の仰せのままに。」


 俺とセラフィが森に足を踏み入れると、そこには多種多様な生物がいた。

 『鳥』や『魚』、『虫』と呼ばれる生き物だ。

 他にも知識には無い、二本の角を持つ毛の生えた生き物や雄叫びをあげる四足歩行の獣などもいた。

 木々の隙間から陽の光が差し込み、小鳥が囀る。大地を水が流れ、木には実が生っている。


「・・・これが外の世界。」


 あまりの絶景に息を呑む。チラリと横目で見ると、隣にいるセラフィもその景色の美しさに圧倒されていた。


「キャーー!」


 突如として、その自然に溶け込むにはあまりにも異質な音が森中に鳴り響く。


「人の声?! 冒険者か?」


「申し訳ございません、判断しかねます。」


「森を抜けた先だな。一応、隠密魔法はかけておくか。 」


防音(サイレンス)》《消臭(デオドライズ)


 俺たちの周りを静寂が包み、衣服から匂いが消える。


 俺や迷宮の使徒には無いが、魔物には種族により特有の臭いを持つ。そのため俺達の衣服にはダンジョンの魔物達の臭いがついていた。


 姿を消す魔法もあるが、基本的に奇襲に使う魔法なので、相手が敵でなかった場合に余計な誤解を生みかねない。だから今回は使わない方が良いだろう。


 魔法をかけた後、声のする方へ二人は駆け出した。


 ♢


 リランとセラフィが森を抜けた先には、明らかに人の手で整備された街道があった。


 二人が木の枝の上から街道の様子を伺うと、4人の全身鎧(フルプレート)や軽装鎧、革鎧など様々な防具に身を包んだ男達が、少女とその背中に隠れている少女より一回り小さい幼女を取り囲んでいた。


 男達の顔には下卑た笑みが浮かべられている。


 一人の巨躯の男が少女達に躙り寄り、手にした巨大な剣を振り翳す。


「んー、あれは冒険者じゃないな。ダンジョンの魔物より弱いし。まぁ、せっかく見つけた第一村人だ。冒険者について知ってるかもしれないし、直接聞いてみよーぜ。」


 残念な顔を隠しきれないまま、俺は木から飛び降りた。


「リラン様の御心のままに。」



 ♢♢♢


 リエッタは生まれながらの己の不幸体質を恨んでいた。


 自分より不幸な境遇に育った者を知らない訳ではなかったが、それらがいた所でリエッタの境遇が良くなることはない。


 生まれてからの記憶に良い思い出は無く、将来にすら期待を抱くことはなかった。


 最初の不幸は、自分が生まれたことで父が母と自分を捨てたことだろう。

 その時点で普通の生活を送ることは望めなくなった。王国では女は仕事に就きづらく、母は身を売る他にリエッタを育てる術を持たなかった。

 母の容姿は特段優れている訳でもなく、毎晩身を売っても二人がギリギリ生活できるほどの稼ぎしかなかった。


 毎晩出掛ける母との思い出があるはずもなく、次第に会話もしなくなった。

 そして6歳になった頃、リエッタを更なる不幸が襲う。

 母が病床に臥し、仕事を続けられなくなったのだ。以前から病気の兆候はあったものの、治療費は無く、仕事を辞めるわけにもいかなかったので放置していた。日に日に母の病状は悪化し、体の自由が奪われていった。

 そしてリエッタが6歳となった頃、母は寝床から一人で起き上がることさえ出来なくなっていた。

 そのような体で仕事が続けられる筈もなく、ただでさえ僅かな稼ぎでギリギリの生活を送っていたリエッタ達の生活は一層貧しいものとなった。

 そして半月も経たないうちに、母は命を散らした。


 父に捨てられ、母を失い、教育も受けていないリエッタが就ける仕事もない。


 母が死んで直ぐは、物乞いや窃盗で食いつないで必死に生き延びた。

 しかし、そのような生活が続く筈もなく、次第にリエッタが生に執着しなくなるのは理の当然であった。


 いつもの様に衛兵が巡回しない路地裏の壁にもたれ掛かる。

 ここ三日ほど何も口にしていないせいで、体を動かすことさえままならなくなっていた。


(お腹空いたなぁ。寒いなぁ。このまま死ぬのかなぁ。せめてお腹いっぱいで幸せなまま死ねたらなぁ。どうし・・・て、どうしてこんなに不幸な人生なんだろう・・・)


 不安が心を蝕んでゆく。今すぐにでも泣いて泣いて泣き叫びたい。しかし、そんな体力すらない。涙もとうの昔に枯れてしまった。


(一人で一年も生きたんだ。もういいよね。頑張ったよね。)


 リエッタは目を瞑り、安らかな眠りを受け入れようとする。


 不安が消え、全身から力が抜けていく。先程までの空腹や寒さも感じなくなった。次第に思考が緩やかになり、止ま――


「オギャー!オギャー!」


 リエッタの安らかな眠りを妨げるように、視線の先にいる赤子が泣き叫ぶ。


(赤ちゃんだ。私と同じで親に捨てられたのかな。せめて温もりを感じたまま、幸せなまま眠らせてあげたいな。)


 僅かな力を振り絞り、地を這うようにして赤子に近づく。


「もう大丈夫だよ。私がずっと傍にいてあげるからね。眠った後も、ずっと一緒だからね・・・。」


 震える手で赤子を優しく包み込む。


「オギャー!・・・ キャッキャッキャッ!」


 赤子は直ぐに泣き止み、リエッタの指を優しく握ると屈託のない無邪気な笑顔を浮かべた。


(こんな状況なのに・・・。そんな笑顔を見せられたら・・・)


 リエッタの目から涙が溢れ出す。止めどなく流れる涙はキラキラと頬を伝い、ポロポロと零れ落ちる。


 暫くの間 赤子を抱きしめたリエッタは、決意を胸に涙を拭う。


「キャッキャッキャッキャッ!」


 リエッタは力を振り絞り、赤子を抱えて立ち上がった。


(守らなくちゃ。私がこの子の笑顔を守ってあげなくちゃ。絶対、幸せにしてみせる。)


 その時、リエッタの頭に平坦な声が響いた。


「新たに、スキル『慈悲なる心』を獲得しました。

 対象にスキル『恩恵に与る者』を与えました。

 対象のスキル『豊饒の大地』の一部の能力が使用可能となりました。」


 ♢


 リエッタが赤子と共に生活を始めてから6年。

 フェリスと名付けられた赤子はすくすくと育ち、もうすぐ7歳になる。

 決して裕福な暮らしではなかったが、飢えることもなく二人は幸せな毎日を過ごしていた。


 というのも、スキルを獲得した後、不思議なことが起こったのだ。

 二人の周りの花は咲き乱れ、草木は生い茂った。

 日に日に成長していく木々には果実が実り、その果実を食べることで飢えを凌ぐことが出来た。

 果物を売ったお金で僅かながらの肉や野菜を買うこともできた。

 食べ終えた野菜の種を植えると、直ぐに新しい野菜が実った。


 そして今では、国の外れで農業を営んでいた。自給自足で暮らし、時々野菜を売って肉を買っていた。


 今思うと、リエッタは幸運だったのかもしれない。何度も死に直面したことはあるものの、こうして今を生きている。最も幸運だったと感じているのはフェリスと出会えたことだ。

 フェリスの存在はリエッタに自信を与え、孤独の寂しさから解放してくれた。

 そんなフェリスと過ごす毎日は、自分の不幸体質は嘘だったんじゃないか と思わせる程に不幸な出来事は起きず、幸せに満ちていた。


(ほんと、フェリスのおかげだなぁ。この幸せな毎日が一生続けば良いのに。)


 ――しかし、リエッタの不幸体質は嘘などではなかった。


 二人の食料事情は改善されたものの、野菜を売った僅かなお金では衣服はもちろん、生活用品なども買い揃えることが出来なかった。

 そこで、リエッタとフェリスは定期的に冒険者や商人の雑用係として旅路に付き添っていた。生きるために背に腹はかえられないので、闇ギルドの冒険者や闇商人からの依頼でも雇ってくれるならば何でも引き受けた。


 そして今、闇ギルドに所属している冒険者の旅路に荷運びとして同行していた。


王国から10㎞ほど離れたところで、突然 冒険者の一人が立ち止まり、


「ここなら問題なさそーだぜ。この辺には俺達しかいねぇ。」


 そう言って4人の男達はリエッタとフェリスを取り囲んだ。


「っ!?」


 フェリスはリエッタの腰に顔をうずめ、全身を震わせていた。リエッタは怯えるフェリスを両手で優しく抱擁し落ち着かせる。


「悪いが嬢ちゃんには大人しくしてもらうぜ。こちとら奴隷商にお前さんの妹を攫うよう依頼されてんだ。それに、お前さんのスキルについての噂が本当かどうか確かめないとな。」


「フェリス、安心していいよ。私が絶対守るから。」


 フェリスは顔をうずめながら頷く。


「いいねーいいねー、姉妹愛。泣けるねー。」


 ケラケラと嘲笑う男達をリエッタが睨む。


「てめぇ、なんだその目は!お前みたいな地味な女は商品にならねぇから殺してもいいんだぜ。」


「おい、やめとけ。噂が本当ならこっちの方が金になる。」


「うるせぇ、俺に指図すんじゃねぇよ。」


 男達が揉めている間も、リエッタは睨み続ける。


「こいつ、冗談だと思ってやがる。まぁ死んで後悔すればいいさ。こいつを殺せば妹も素直になるだろうしな。」


 中でも一際目立つ巨躯の男が仲間の手を振り解き微笑を浮かべながら、一歩、また一歩と躙り寄るようにリエッタ達との距離を詰める。

 両手には巨躯の男が持つに相応しい巨大な剣が握られている。

 リエッタに向け、男は剣を振りかぶった。

 空気を切り裂きながら高く振り上げられた剣が、陽の光を受けギラギラと輝いている。


「フェリス、安心して!死んでも守ってみせるから!」


「やだよ、お姉ちゃん!」


(せめて、あの男だけでも足止めしないと。私が注意を引いてる間にフェリス逃げられるかな? いや、フェリスが逃げるまでは絶対に死んでやるもんか。)


 リエッタはフェリスを庇うように手を広げ、固く目を閉じた。覚悟を決めたのではない。数秒後の自分の運命を悟り、受け入れたに過ぎない。力の無い少女は、待ち受ける凄惨な運命から逃れる術を持たず、受け入れる他なかったのだ。


 少女の運命は定まった。

 少女は殺される。

 ただ一つの結末に向け、時は動き出す。


 剣が振り下ろされ――


 ――肉が切り裂かれる音が鳴り響いた。


 しかし、痛みは未だに来ていない。


 好奇心から固く閉ざした瞼をゆっくりと開く。


 少女の視界に最初に飛び込んできたのは、血を吹き出し倒れている全身鎧(フルプレート)に身を包んだ巨躯の男。男の傍らにはリエッタを切り裂くはずだった剣が転がっている。

 次に映ったのは、リエッタの前に平然と立つ、少女より少し大きい背丈の少年。

 周りの男達は何が起こったのか理解できない様子で少年を眺めている。

 少女も先程までの恐怖を忘れ、少年に目を向ける。


 武器を何一つ持っていないにも関わらず、少年は何気ない様子で男達と向かい合っている。


 皆が少年を観察し、沈黙が訪れる。


「っ!?」


 次の瞬間、強烈な痛みが少女を襲う。

 少女の体は地面に強く押さえつけられ、体の自由が奪われる。必死に抵抗を試みても体はピクリとも動かない。少女と同様に地面に押さえつけられたのだろう、近くから 男達の声にもならない悲痛な呻き声が聞こえてくる。


 顔を上げることも叶わず、状況が全く把握出来ない。


 フェリスは無事だろうか。しばらくの間、声が聞こえてこない。聞こえるのは男達の呻き声と恐らく先程の少年の呟き声。


 まるで状況が飲み込めないリエッタは、無駄とは知りつつも謎の圧力に抵抗し続ける。


 抵抗の甲斐あってか、数秒後、顔だけ自由が利くようになった。少女は一刻も早く状況を把握しようと顔を上げる。そして目にしたのは、まるで時が止まったかのように動かず、死人の如く血の気の引いた顔をした男達の顔。男達は皆、上空に視線を向けていた。少女も釣られて、恐る恐る上空に目を向ける。


 そして――絶句する。


 少年の掲げた右手から、全てを飲み込むような漆黒の大雲が渦巻いていた。時折、黒雲の渦を眩い閃光が駆け巡る。雷鳴が轟き、稲妻が迸る。


 正に自然災害。


 ここら一帯どころか世界すらも飲み込むような大きさの黒雲を掲げ、少年は少女に向かって動き出す。


 そして――

今回も文章拙いです。意味のわからない所などあれば是非コメントください。

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