第11話 『ダンジョンの魔物、vsワイバーン』
「まさか、強制転移·····。」
思わずミルティは声を漏らした。
「あぁ。ワイバーンの実力は知れたし、あれ以上ワイバーンを狩られたら俺達の取り分が減るからな。悪いが強制転移させてもらった。」
そこでミルティは黙り込んでしまった。
一瞬の沈黙の後、ガドラの笑い声が響いた。
「ハッハッハッ! アルトリアがいないとはいえA級冒険者パーティの『大鷲の大翼』である俺達をワイバーンの実力を測るためだけに使いやがった。」
「悪いな、いざとなれば強制転移で助けるつもりだったんだが。」
「いや、謝る必要は無い。 俺達のギルドでは、先輩は後輩の我儘を聞いてやるもんだ。後輩の盾になることぐらい訳ないさ。まぁ、今度からは俺達にも説明はしてくれよ。」
「あぁ、分かったよ。」
ガドラがリランにグイッと肩を寄せた。
「で、だ。 本当にあの30頭のワイバーンを倒す算段はあるのか?」
「方法はある。 ただ·····、あそこの草木を枯らしてしまうんだ。それでも構わないか?」
「問題ない。幸い、あの辺りは元より果実の実りが少ない場所だ。 それでワイバーンの被害が抑えられるならば国王様もお許しくださるだろう。 それにしても、一体どんな方法なんだ?」
「なぁに、ただの魔法さ。 」
「草木を枯らす魔法など聞いた事がない。 ミルティはどうだ?おい、ミルティ?」
見ると、ミルティは呆然と立ち尽くしていた。
「え?あ、すまない。聞いていなかった。あっ!リラン、本当に凄い。転移の魔法なんてS級冒険者にしかできない。 」
そう言って、ミルティはキラキラした瞳を向けてきた。
何やら嫌な予感がする。
「よければ、ミルに教えて欲しい。報酬は·····ミルにできることなら何でもする。」
何でも、か。
ミルティにできることなんて·····、いや、あれなら役に立つか。
「おいおい、年頃の女の子が何でもするなんて言うんじゃねぇよ。」
「問題無い。 転移魔法を覚えられるなら全てを賭ける価値がある。」
「まぁ、この話は帰ってからだな。取り敢えず、あいつらを狩るのが先だ。すぐ終わるから待っててくれ。」
視線の先には、標的を失って狼狽えるワイバーン達がいた。
「セラフィはここで二人を守っていてくれ。《空間転移》」
セラフィが頷くのを確認してから、俺は転移の魔法を使った。
♢
「「ギャアァア!?」」
群れの中心に突如現れたリランにワイバーン達は思わず距離をとった。
「お前達に罪は無いが串カツの為に死んでくれ。《魂喰者》」
俺が魔法を告げると同時に、四体の死霊がどこからともなく現れ、リランの周りを浮遊した。
「死霊よ、こいつらの魂を喰らい尽くせ。」
リランが命じると、四体の死霊が縦横無尽に音もなく飛び回る。
死霊が通り過ぎた場所に咲く草木は枯れ果て、地面は干からびた。
一体の死霊がワイバーンの胸を透過し、
「ギュオォン·····」
ワイバーンが抵抗する間もなく力尽きて落下した。
一頭のワイバーンが命を奪われた僅か数秒後、
その地の全ての生命を貪り尽くした死神がリランの元へと戻る。
「よくやった。また不要な魂があれば召喚してやる。」
死霊はリランにお辞儀するとどこかへ消えていった。
ふぅ、落下による僅かな傷はあるものの、殆ど無傷で殺せたな。
さっさと回収するか。
《次元空間》
俺を中心として球状の異空間が広がり、ワイバーンの死体全てが異空間内に収まった所で俺の元へ再び収束した。
しかし、その場にあった30頭の巨大な大量の死体は跡形もなく消えていた。
死霊への餌やりも終わったし帰るとするか。
♢♢♢
「·····なんなんだ、あれは。」
「分からない。ミルもあんな魔法、見たことも聞いたことも無い。」
ガドラとミルティは目の前で起こっている出来事に言葉を失い、思わず瞠目した。
ゆらゆらと揺らめく四体の霊がワイバーンの周りを飛び回っただけで、ワイバーンの息の根は止まり、一頭、また一頭と次々に死んでいった。
リランが姿を見せてから一分も経たずに30頭ものワイバーンの死体が転がった。
「化け物だ·····。あんな規格外の化け物に、S級冒険者など足元にも及ばないだろう·····。」
ガドラは絶句した。
大手ギルド『天空の大鷲』のサブマスターであり、A級冒険者の自分ですら足元にも及ばない存在、それが人類の最上位者とも呼ばれるS級冒険者なのだ。
しかし、今ではそんな称号など取るに足らないちっぽけなものだと感じるほどにリランの強さは圧倒的であった。
確かに、S級冒険者であればワイバーンの30頭討伐など容易いことだ。
しかし――
一分以内に、それも相手を無傷で殺し尽くすなど、誰が真似できようか。
最も身近にいるS級冒険者であり『天空の大鷲』ギルドマスターの八代目ですら不可能だろう。
この少年を殴ったことを思い出しただけで背筋が凍った。
リランの実力が露呈すれば、王国だけじゃない、この世界が震撼するだろう。
そうなれば、世界のパワーバランスは崩れ、世界は崩壊の一途を辿ることになる。
また、ダンジョン未攻略者にしてこの実力は、尊敬を通り越して畏怖されることは容易に想像できた。
「ミルティ、この事は二人の間に留めておこう。そして、この二人に危害を加えるような者がいれば必ず排除するぞ。」
(今は王国に味方しているようだが、いつ牙を剥くやもしれん。細心の注意を払わねぇとな。)
「ん、·····分かった。」
こうして、ギルドが抱える爆弾に二人が頭を悩ます日々が始まったのだった。
この後、《次元空間》を目の当たりにしたミルティは泡を吹いて倒れたのだった。
恐らくまた編集すると思います。
最近読んでくださる人が増えてきて嬉しいです!




