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エピローグ

「で、大事な話ってなに?メイク教える日程とか?」

「そういうのは別にいいし。ウチが聞きたいことは絢香はちゃんとモヨコの友達やってく覚悟があるのかってこと」

 月曜の昼休み、例の普通の生徒が寄り付かない屋上へ続く階段の踊り場、通称ヤンキースポットに絢香は久子に呼び出された。

 モヨコを連れてきてはいけないって言われたので給食を食べ終わるとモヨコに昼休み一人で用事があるって伝えたのに当のモヨコも全く気にすることなく、「そう、わたしもいつもの図書館が通いが再開できるからちょうどいいわね」とあっさり送り出されてしまった。

「あ、そうか忘れてたけど久子ってもともとアンチモヨコだったよね。なに、やっぱりわたしが邪魔だからモヨコから離れろって言いたいの?まーモヨコスキスキ久子ちゃんを見ちゃった後だとそれってただの嫉妬だから別に従う必要なくない?」

 すぐに顔を真っ赤にして言い返し来る、そのはずの久子は真面目な表情を崩すことがなかった。

「あのさ、絢香はいったい今回の事件、どれだけ信じてるの?

 マジで幽霊があの家にいてアンタを呪ってそれをモヨコが機転を利かせてそれを解決した。

 本当にそんな話だって思ってるわけ?だったらちょっとバカ過ぎない?」

「は?なにがいいたいのよ?

 そりゃ見えてなかったら信じられなかったかもしれないけど実際モヨコには見えてたしわたしだってちゃんと見えてた。

 大体アンタもいろいろ手伝ってたじゃん。なに、全部そういう振りをしてただけっていうの?」

「そうだよ。

 ウチは最初っからこんな事実際起きるわけないって思ってた。全部二人のごっこ遊びに付き合ってただけだし」

「実際わたしは呪いで死にかけたじゃん!」

 馬鹿にされるのが我慢ならず絢香は思わず声を荒げる。

「お医者さんにもいったんだっけ?それでなんて言ってた?」

 はっ、と久子は鼻で笑う。

「原因不明の体調不良だから、とりあえずゆっくり休みなさいって。

 多分引っ越してきたばかりでまだ環境に慣れてないんでしょうって」

「ほらね、それが真実ってわけ。

 モヨコも言ってたけどアンタは幽霊が消えたって思った瞬間急に元気になったっしょ?

 プラシーボ効果だっけ。

 だからその逆で呪われてるって思いこんだだけで体調が悪くなった。

 でもそんなお腹が痛い気がする、と同レベルの病気じゃお医者様だって原因なんかわかるわけないし」

「アンタわざわざ呼び出してケンカ売りたいだけなの?

 だったらもういいわ。帰る。二度とわたしに話しかけるな」

「さんざん煽って悪かったって。

 けどこれはマジな話だからもうちょっと付き合ってほしいし。

 ウチはさ、絢香のコト実際そんな嫌いじゃない。モヨコも懐いてるしやっぱりクラスが別のうちだとどうしても目が届かないところがあるからね。

 からクラスの中では絢香にモヨコを守ってもらってほしいけど、その前に話しておかなきゃならないことがあるんだって」

「モヨコをいじめる筆頭だったくせになに言ってるんだか。

 大体言われなくてもモヨコに何かあったら次はわたしが頑張る番だっての。

 まぁいいや一応最後まで聞いてあげる」

 ペタン、と行儀悪く絢香は階段に座る。

「ありがと。ちなみに聞きたいんだけど絢香さ、モヨコのこと信じてる?」

「なに言いたいのよ?モヨコも嘘ついてわたしをだましてるって言いたいわけ?

 でも残念、わたしにも幽霊は見えてたからモヨコが嘘をついていないことはわたしが一番知ってる」

「ごめん、なんていうか…そういう意味じゃないって。

 ああ見えてモヨコはいい子だから進んで人をだまそうなんてしない、モヨコ自身も嘘をついているつもりなんてみじんもないと思うし。

 そういうことじゃなくって…ああ、そうだ、仮に、仮にだよ、もしウチとアンタが逆でこの事件も全部後から聞いた。それでもモヨコの言うこと、信じてた?」

「それは…」

 悔しいけれどイエス、と即座に答えられない。

 久子が言いたいことは本人が嘘をついていなくてもそれが本当かどうかはまた別、ということだ。

「そうなるっしょ。

 モヨコが言うことを信じる一番の理由はアンタにも幽霊が見えている、それが根拠なわけっしょ。

 けど何かと都合よすぎるとか思ったことない?

 モヨコはしっかりとノートの暗号を解くことができたし、おまけにその結果その秘密は全部中学生でも行ける場所、できることばっかり。

 そのうえ幽霊や呪いが見えるモヨコでないと解けないようなこともいくつかあった。

 こんなにモヨコにうってつけの事件が都合よく転校生の身に降りかかるってあると思うわけ?」

 手のひらからするすると現実が零れ落ちていくような感触が伝わってくる。目の前の顔は本当に久子なのだろうか。頭の奥で鈍い音がする。

「モヨコの自作自演って言いたいわけ…?」

「ちょっと違う。モヨコは本当にそういう事件なんだって大まじめに取り組んでるよ。

 それだけアンタのこと友達として大事に思ってる、そこが変わらないことはしっかりと覚えておいて欲しいってわけ。

 そのうえでモヨコの友達でいるのか決めてほしい。

 あのさ、他にも都合のいいことはいっぱいあったっしょ?

 例えば香具土さんとあった時愛さんが学校でいじめられてたって話があったよね?

 そのあと急に愛さんの幽霊、開き直って呪いをどうこう、なんて話になったっしょ?

 あれはたんにモヨコがその事実を用いて復讐のために幽霊は呪って力をためている、そういう方向にした方が解決しやすいって舵を切りなおしただけの話。

 多分だけどね」

「待ってよ…

 じゃあモヨコは無意識に自作自演をやってるって?それでそれにわたしも巻き込まれただけっていうの?

 だったらなんでわたしにも幽霊が見えたのよ。それがある限りモヨコが言ってることは嘘じゃないっ」

「そう、そこが最も厄介なとこだし。

 モヨコは自分の世界を誰かと共有することができる…としか思えないんだよね。

 それこそモヨコが好きな脳髄の神秘が起こすことなんだろうけれどまぁ思考や感覚に周波数があるとするでしょ。

 普通ウチらって目に見えた、においでも音でも触覚でもなんでもいいけど刺激を受けて脳内にそれを再現してるっていうのは聞いたことある?」

「久子のくせにずいぶん賢そうじゃない。

 なに、本当の探偵気取りってわけ?」

「だからウチは別に成績悪いわけじゃないって言ってるじゃん。それにウチとモヨコの間の歴史、それが違うっつうの。

 10年もあればウチはウチなりにモヨコのことを知ろうって色々と努力してきてるわけ。

 実際そこに存在するもの、に対してはみんな同じ刺激を受けて同じように頭の中に世界を作るわけでしょ。

 みんなで遊園地に行けばみんながみんな遊園地って世界を楽しめるわけじゃん。

 でも頭の中にしかない世界、わかりやすい例で言えば眠るときに見た夢なんかも視覚聴覚嗅覚触覚、そういうものをたしかに感じるのにそれを誰かと一緒にっていうのは不可能なわけ。

 今日みんなで楽しい夢見ようねーって言ったってみんなが同じ夢を見ることなんて無理っしょ?たとえ手をつないで同じ時間に眠りについたってそんなこと起きるはずがないのはわかるっしょ?

 これってつまり外界の刺激なんてなくても世界は頭の中に作ることができるけどそういう世界ってひどく個人的、ということなんだよね。

 ただモヨコは起きながら夢を見ているし、夢を見たまま現実で動いていることもあるってこと。

 頭の作りがもともと変なのか昔なんか事故にあったのかなんかっていうのは知らないけどさ。

 だからモヨコはみんなと同じ世界を見ているようでそこにいろいろみんなには見えないモノを一緒に見ている。

 それが黒い靄だったり幽霊だったり…それだけだったら小学生にありがちなただかまってほしい自称霊感少女だから痛いこじゃんっでおわりなんだけどそうはならないってわけ。

 ここで周波数って話になるんだけど、もし思考や感覚を作ったり受け取ったりする脳に特定の周波数みたいなものがあるとすればモヨコはそれに合わせることができる。

 だからモヨコの見てる夢が脳内に干渉してくる…まぁそれが絢香なわけよ」

「…つまりモヨコがその気がなくてもモヨコにすっかりわたしが騙されて幽霊騒ぎに巻き込まれたって言いたいの?」

「言い方悪いけどそういうわけだし」

「じゃあモヨコは2年前からいろいろとわたしをだますために準備してたってわけ?それこそあり得ないにきまってる!

 2年前からわたしが転校してきて、それでこんなわけのわからないこと…」

「でも絢香、引っ越す前に一度あの家の様子を見に来たでしょ?

 その時にきっとモヨコと会う、そうじゃなくてもモヨコの方はどこかで見かけたはず」

「なんで久子がそんなこと知ってるのよ」

「だってウチ、不動産やってるし。といっても犬神不動産なんて名前じゃないよ。もっとありふれた隣の市の名前を使った不動産。

 まぁだからあの家だってウチの管理してる物件だし下見に来るなんて情報はすぐわかるし。

 それに2年前からなんて準備してるわけない。

 モヨコは絢香を見てから無意識に大雑把に事件を立てて寝てる間に、起きてる間に、夢見ている間にいろいろと準備したってだけだよ。

 で、ウチはそれをちょっとだけ手伝ったって話。だってこんなのどう見てもモヨコが絢香と友達になりたいってだけの事件じゃん?悔しいけどまぁ手伝って、それでモヨコのことを嫌いにならないでいてくれたらいいなって思うぐらいの気持ちはあるし。でないとわざわざこんな話しないって。

 で、まぁウチが手伝ったっていうのは狛犬のところぐらいなんだけど。ウチはあれを電話したふりをして2年前に壊れたってことにした。だってモヨコの頭の中ではすでにそうなっていたから。あとはお葬式の看板が見えてるふりをしたけどこれは絢香にはわからないか。

 それにモヨコの世界を共有する力って全然便利じゃない。モヨコは一人にしかその周波数を合わせられないしそれもその受ける側がそれを受け入れるって状態じゃないと通用しない。

 つまり事前にモヨコのその能力を知っていたり、ちょっとでもモヨコっておかしいんじゃないかって疑った時点でそれはもうなくなっちゃう。今まで見えていたものが急に見えなくなって、でもモヨコはまだそれが見えているってさ、モヨコはばれても必死で嘘をつき続けているようにしか見えないっしょ?

 だから小学生の間はちょっとしたことですぐボロが出てうそつきだとか催眠術師だとかいじめられたり気味悪がられたりした。

 だから中学ではそんなことにならないようにウチが率先してモヨコの周りに人が集まらないようにしてたってわけ。

 友達出来たと思って離れて傷つくのよりウチからいじめられてるからだれも近寄れないって同情される方がましじゃないかって思ったんだけど、それはやっぱモヨコにはつらかったみたい。じゃないと絢香なんて全くの部外者である転校生を友達に求めるはずがないし…

 これでウチが呼び出して長々としゃべった理由が分かったっしょ?」

「じゃ、じゃあ正木さんは…?あの人はあの家にいてわたしたちにいろいろヒントを…」

「坂下地区は土砂崩れで全滅したし。といっても住民がみんな死んだってわけじゃない。

 家も畑もボロボロにされてみんなみんな子供とかのつてを頼って引っ越していったわけだけど。

 もともと過疎地区だったし今はもうあそこにはだれも住んでないってわけ。

 それもお父さんに聞いたんだけどね」

「でも動画でちゃんとわたしのスマホに残ってる…」

 はぁ、と小さく溜息をついて久子は頭をかいた。

「でも絢香、今でもはっきりモヨコを信じてるって言いきれる?ウチとモヨコどっちかは嘘をついてるかも、ぐらいにはなってる?だったらもうモヨコの能力は解けてるってわけ。

 そしたらこの写真、見て」

 久子がスマホに映し出したのは狛犬、それも用津姫神社のあの口が破壊された狛犬だ。その割られた口の跡がはっきりと写っている。

 絢香は言葉を失った。

 雨土で汚れたり苔の一つでもついててよさそうなものの実際は黒ずんだ外見と違ってまだ灰色の真新しい断面をのぞかせていた。これではっきりいつ壊されたものだ、などと言い切れないがとても2年前に壊されたものだとは思えない。

 その様子を見て久子は満足に頷いた。

「絢香のスマホの中のさ、その、正木さんだっけ?が映っている映像もう一度見てみたら?」

 おぼつかない操作で関係ない写真を拡大したりしながらも絢香はスマホの中からその映像を探し出した。

 あとはタップすれば再生される。けれどその指が言うことをきかない。

 隣から画面をのぞき込んでいた久子がこれ?なんていいながらタップする。呪い殺したいほどに久子を恨んだが映像が始まりだすともう目を逸らすことはできない。

 あの裏山の光景から塀の下へと下ろされていくカメラ。

 正木邸が映し出される。

 窓は割れてしまっていて汚れで黒ずみくもった様子からは廃屋にしか思えない。

 そして正木敬子が寝ていたはずの部屋。畳はたっぷりと雨を吸い込んだのか緑色に変色してぶよぶよに膨らんでいるのがわかる。枯葉も部屋の中には落ちていた。

 布団も家具も何もない。割れた窓から入り込んだのだろうか名前もわからない気持ちの悪い虫がちらほらと部屋の中を動き回っている。

「ねぇ、絢香は、モヨコのお友達?」

 久子の耳元の囁きが空気で遮られた遠い世界から届いてきた。

 壊れたチャイムが終わる音を告げる。

 …………ブウウ――――――ンンン――――――ンンンン………………。

はい、Simpleにこれだけ以上で完です!

投稿し始める前は今までの一番の自信作なのもよっしゃあとがきではしゃぐぞーって思ってたんですがいざ投稿し始めると今までで一番最低のPVでしたので途中からへへ…って乾いた笑いしか出なくなりました!

まぁそういうわけで後半は読み直しで誤字や推敲することもなく投げて頭の中は次のなろう作に向いてしまっています!

と、自らを卑下するようなことを書きましたが俺はかき上げた時に感じた現時点でのベスト、ということは疑っていませんので最後まで読んでいただけた方、ありがとうございました。

 今回は知識と資料の足りなさを感じましたね。

 あ、最初に自らが体験したリアルノンフィクションと書いたのは中学の時に「非童貞アピール」という嘘をついてしまって引くに引けず最終的には一番心に傷を負うタイミングでのカミングアウトで辛かったなぁ…嘘をついてひどい目にあったなぁ…というのを大げさに盛ったお話なのでそういう意味ではリアルノンフィクション…間違ってないよね?

 ありがとうございました!


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