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狼男と人魚姫2  作者: 渡邊裕多郎
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第一章 思いきって静流に告白・その4

 気がついたら俺ン家の前だった。我ながら夢うつつだったらしく、どこをどう歩いて帰ってきたのか記憶にない。――なんか、こう、


「ひき殺されてェのか!」


「どこ歩いてやがるんだ!」


「ちゃんと前を見ろ馬鹿野郎!」


 等々、トラックの運ちゃんその他に怒鳴られたような気もするが、とりあえず怪我もなく帰ってきたんだし、よしとしよう。家に入ると、お袋が台所からでてきた。


「お帰り――?」


 言いかけてから、お袋が不思議そうな顔をした


「何かあったの?」


「なんでだ?」


「口が緩みきってるよ。まさか、変な薬でも服ってるんじゃないだろうね」


「なんだそりゃ?」


「いや、昼間にワイドショー見てたら、そういう少年犯罪が多いって言ってたからさ」


「そんなんじゃないから安心しろ」


「ならいいけど、鏡見てきなさい。おまえのそんな変な顔、はじめて見たわよ。気を抜かないようにしておきなさい。うっかり“変貌”しちゃったら大騒ぎになるからね」


「あーそれは気をつける」


 俺の正体が知れたら、交際してる静流にまで迷惑がかかる。洗顔と手洗い目的で俺は洗面所に行ってみた。


「ありゃま」


 俺の顔は本当に緩みきっていた。表情がとろけている。想像だが、女性のオールヌードを見たスケベ野郎って、こんな目になるんだろう。幸せすぎるってのも考えものだ。少し自分の顔を叩き、俺は気合いを入れた。


「ただいま、と」


 私服に着替えて食卓で夕飯を待っていたら、親父が帰ってきた。


「お帰り。これからの予定は?」


「前に話した奴で決定だ。土曜は帰ってくるけど、日曜から、また泊まりこみになる」


「へェ」


「お母さんも、検体試験の再開だよ」


「あそ。じゃ、また来週から、小説家のおっさんと飯を食うか」


「いつも悪いねェ」


 お袋が夕飯を食卓に運んできた。あれ、肉じゃがだよ。かぶっちまったな。


「まァ、検体試験がないときは、きちんと手料理をつくってあげるからね」


「コンビニ弁当やカップラーメンでも俺はかまわないんだけど」


「そういうのは子供の教育に悪いってTVでやっててねェ」


「TVで放送してることの半分はデタラメで、残り半分はどうでもいいことだって週刊誌に書いてあったぞ。ま、それはそれでゴシップ記事だったんだけど」


 昼間のTVってのは、こっちの世界ならではの娯楽だな。それだけではない。親父は現場作業、お袋は研究施設で獣人類の運動能力テスト。力仕事や走りまわるってのは俺たちの十八番である。おまけに金ももらえるときた。やりたいことやって飯が食えるなんて、『P&P』は天国みたいだって、普段から親父たちは喜んでいる。俺を『S&S』に行かせたがらない理由もわかる気がするぜ。ま、強利たちに逆らえるはずもないから、そのうち顔をださなくてはならないんだが。


「いただきます。あ、そうそう。明日、俺の弁当はいらないから」


「え、どうしてだい?」


 肉じゃがを突っつきながら言ったら、お袋が変な顔をした。


「ちょっと、食べたい料理があるんでな」


「へェ。何を食べるんだい?」


「えーとだな。実は肉じゃがなんだ」


「肉じゃがなら、いま食ってるんじゃないか?」


 親父も不思議そうな顔をした。そりゃ、不思議そうな顔もするだろう。


「お袋の肉じゃがとは、少し違う奴を食べる予定なんだよ」


「お母さんの肉じゃがより、コンビニの肉じゃががいいのかい? やっぱり、親がちゃんとそばにいてやらないと駄目なのかしらねェ」


 お袋が眉をひそめた。俺を何歳だと思ってるんだか。


「あのな。俺にも、いろいろあるんだよ」


「どんな?」


「言えねェ」


「親に隠し事は感心せんな」


「誰にだって隠し事くらいはあるぜ。隠し事がありますって正直に言ってるだけ、俺なんてまだましだと思うけど」


 とは言ったものの、冷静に考えたら、べつに隠すようなことでもなかった。


「学校の女子が、肉じゃがをつくるって言ってくれたんだよ」


 正直に言ったら、親父たちが目を剥いた。


「おまえ、ガールフレンドができたのか!?」


「まァ、そんな感じだ」


「まさか、そのガールフレンドって、私たちのこと、知ってるわけじゃないよね?」


「実は知ってる。それでもOKしてくれた」


「おまえ、口が軽いのもいい加減にしておけよ」


「だって、黙ってて、あとでばれたら、かえって大騒ぎになるじゃんか。『よくも隠していたな、この卑怯者』なんて、もう言われたくもないし」


「それにしてもなァ。もう引っ越すなんて御免だぞ」


「いや、それは大丈夫だと思う」


「なんでそう言えるんだ?」


「だって、そんなことになったら、俺と、その娘、離れ離れになっちまうし」


「あ、なるほど」


 親父が少し考えこんだ。


「まァ、知ってて仲良くしてくれてるなら、その女子というのは差別的な考えはしないんだろう。安心していいな。今度連れてこい」


「おう」


 俺は夕飯を片づけた。しゃべりすぎたかな。部屋に戻って宿題やって、風呂に入って、適当にゲームやって、歯を磨いて寝る時間になった。その前に携帯を確認してみると、メールがきている。静流からだった。


『秀人くん、おやすみなさい。大好きです』


 すごいことが書いてあった。自分の顔が上気して行くのがわかる。


「こんなこと言われたら眠れねェよ」


 興奮してニヤついてドキドキして、『俺も大好きです』と返事を打って、俺は布団にもぐりこんだ。

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