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狼男と人魚姫2  作者: 渡邊裕多郎
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第七章 戴冠式で大臣と大決闘・その2

 延々と解毒の魔法をかけつづけ、夜が白々と明けるころ、強利と柚香が同時に詠唱を終了させた。


「知っている呪文はすべてかけました。起きあがれますか?」


 強利が質問した。王様とお妃様が身体を起こす。


「これは、驚いたな。あの身体の重さが嘘のようだ」


「毒を盛られて、手足の自由を奪われていたんですよ。毒が抜ければ、身体は以前と同様に動きます。あとは栄養のつくものを食べて、安静にすることですね。もっとも、安静にするのは二、三日あとになりますが」


 強利の言葉を聞き、俺は王様のベッドに近づいた。


「すみません、失礼します」


 俺は王様の腕をとり、背中をむけた。


「いや、いい。自分で歩ける」


「ふらつきながら歩かれても困るんですよ。これから戴冠式に乗りこむもんで」


 力まかせに突入する以上、病みあがりのおっさんは足手纏いだ。とはいえ、つれていかなければ話にならない。俺の横で、強利もお妃様を背負いあげていた。


「申し訳ありませんが、このまま戴冠式にでていただきます。前王がご健在であることを示さなければ、戴冠式を中断できません」


「なるほど。――ひょっとすると、君は地上の王族かな」


 強利の説明に、俺の背中の王様が訊いてきた。


「そのへんの暴漢なら、問答無用で戴冠式に乗りこんでいるところだ。体裁を気にする態度は、政治に関わるものの特徴的な行動だよ」


「これは失敗しましたね」


 あっさりと強利が認めた。ピエロのマスクの下では苦笑を浮かべているに違いない。


「もっとも、どこの国かは言えません」


「それでいい。私も聞かないでおこう」


 言ってから、王様が俺の肩に手をかけた。


「正体不明の暴漢に暴れられては、どこに責任を追及したらいいのか、私にもわからないからな。期待しているよ」


 国と国の、しかも王族同士のやりとりである。それも『S&S』と『M&M』だ。よく知らんが、お互い知らぬ存ぜぬで通す気らしい。このへんは持ちつ持たれつってことだな。やりたい放題やっていいって許可を俺たちはもらったのである。


「では、先に降りてくれ」


 強利にうなずき、華麗羅と柚香が部屋をでた。それはいいけど、静流の両親はいなかったな。ここではないとすると、戴冠式に出席しているのか。いや、それはあるまい。静流を王に即位させる理由づけとして、その両親は病にたおれていることにしなければならないはずだ。大臣をブン殴って、あとで居所を聞きだそう。戴冠式で、ヤケクソになって人質にとるってことはないと思う。見てる奴も多いし。体裁を気にするのは政治に関わるものの特徴だ。


「ちょっといいかな」


 考えながら階段を降りていたら、後ろから強利が小声で話しかけてきた。


「なんですか?」


「国に戻ったら、華麗羅と柚香を置いて、僕たちだけで戴冠式に行くぞ」


 小声で聞き返したら、強利が予想外のことを言った。あわてて前方に目をむける。先に階段を降りている華麗羅達と柚香は振りむかない。よかった。聞こえてなかったようである。


「なんでまた?」


「兄として言うなら、妹の華麗羅をあぶない目に合わせたくはない。男として言うなら、女性の柚香くんをあぶない目に合わせたくはない。それ以上の理由は必要かな?」


「いえ」


 俺はうなずいた。冷静に考えたら、そりゃそうである。


「それに、塔の前でのやりとりを見ていたが、華麗羅と君ではコンビネーションが合わない。飛びだすタイミングの時点でずれがでるくらいだからな。今回はなんとかなったが、このあともうまく行くとは限らないし」


「わかりました」


 まァ、強利がいれば、かなりのことは可能だろう。塔の見張りをしていた半漁人も大したことなかったし、そりゃ、戦争になったら話はべつだが、戴冠式を無茶苦茶にするだけなら、俺たちだけでなんとかなる。


 問題は、大臣のボディガードをしていたゼムだな。とりあえず、昨日から寝ないで考えて、作戦らしいものは考えておいた。うまく行ったらお慰みである。


「それはわかりましたけど、なんて言って華麗羅様を説得するんですか?」


 俺は小声で強利に訊いた。華麗羅が、はいとうなずくわけがない。魔法で眠らせようにも、柚香がそばにいる以上、簡単には行くわけがなかった。強利も小首をかしげる。


「実を言うと、それをどうしようか、僕も考えているんだ」


 なんだ、これからか。仕方がない。隙をついて魔法剣をとりあげ、海にでも放り投げちまおうか――などと考えかけ、俺は足をとめた。ほぼ同時に、すぐ前を歩いていた柚香も動きをとめる。俺は音を聞き、柚香は気配を感じとったのだろう。


「塔の外に誰かいるわ」


 柚香の言葉に、先頭を歩いていた華麗羅が振りむいた。


「さっきの見張りが目を覚ましたのか?」


「いや、それじゃないですよ。なんか、話をしてます」


 俺は顔をしかめながら耳をすませた。獣人類の聴覚に届いた声が、こんな会話を交えている。


 ――こいつら、なんで寝ているんだ?


 ――いや、これは寝ているんじゃないぞ。


 ――まさか、侵入者か?


 ――それはまずいぞ。この方々も閉じこめろと命令されていたのに。


「海からべつの使いがきたんだ」


 俺は茫然とつぶやいた。話し声からすると、ほかに閉じこめる奴がいて、そいつを別動隊がつれてきたらしい。


「俺たちのいることがばれたら、この場であらめて殺し合いだ」


「行くぞ」


 短く言い、華麗羅が走るようにして階段を降りだした。ガンガンガンガンと音が響く。外の連中にも聞こえてるだろう。もうやるしかない。俺たちは王様を背負いあげたまま階段を駆け降りた。扉を蹴りあけて外に飛びだす。


 外にたむろしていたのは、べつの半漁人の集団だった――と思う。夜中に眠らせた連中が目を覚ましただけかもしれないが、魚の顔なんて俺に見分けがつくか。瞬時に華麗羅が魔法剣を抜き、峰打ちの形で目の前の野郎を殴りたおす。同時に柚香が呪文を唱えはじめた。飛びかかってきた半漁人の爪を避けながら、白く輝く光の球を生みだす。


 光の魔法でなぎ倒した半漁人どものなかに、『P&P』の服を着た男女がいた。静流の親父さんとお袋さんである! これから幽閉する予定だったらしい。またタイミングがよかったんだったか悪かったんだったか。


「兄上! 先に行ってください!!」


「あの人間は私たちが救助しますから!!」


 華麗羅と柚香が口々に言い、半漁人どもと大喧嘩をはじめた。言われるままに、俺と強利が王様とお妃様を背負った状態で走りだす。横から襲いかかってきた半漁人を蹴りたおし、最初に俺たちが出現した場所まで一気に駆けた。


「行くぞ」


 マスクの奥で、もう呪文を唱えていたらしい。魔法陣の上で強利が印を切った。見る見るうちに視界が霞んでいく。


「ギャァ!」


 すごい声がした。悲鳴ではなく、威嚇の咆哮である。振りむくと、俺たちのあとを追いかけてきたらしい半漁人が両手をあげて襲いかかってくる瞬間だった。


 その直後、世界が変異した。俺たちが立っているのは、強利の城の魔法陣の部屋である。足元に半漁人の腕が転がっていた。刀ですっぱり切られたみたいな切断面だな。中途半端な位置に立ってると、瞬間移動でこういうことになるらしい。


「むこうじゃ大変だろうなァ」


「安心していい。柚香くんは僕の転移の詠唱を聞いている。その気になったら真似をして、こっちに戻ってこられるはずだ」


 俺は腕をブッタ斬られた半漁人に同情したんだが、見当違いの返事をした強利が、あらためて印を切りだした。


「だが、これからの呪文は聞いていない。あのふたりはダムズ島まではこられないはずだ。期せずして、僕の狙いどおりになってくれたわけだな」


 強利がつぶやき、あらためて印を切った。ふたたび見ている世界が白く姿を変えていく。


「これから、僕たちがダムズ島と呼んでいる場所へ案内します。姪御さんに会えますよ」


 俺は背中の王様に言った。王様がうなずく。


「会ったこともないとはいえ、血縁者の不幸を見過ごすわけにもいかん。大臣の暴走も――いや、大臣に憑いた魔王の思念とやらも、なんとかしなければ」


 強利の背中におぶさっているお妃様もうなずいた。腰が抜けててもそこは王としての義務感が働いたのだろう。


 ダムズ島への転移が一瞬ののちに起こった。

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