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狼男と人魚姫2  作者: 渡邊裕多郎
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第六章 異世界へ殴りこみ・その5

       3




「『S&S』に着いたわけですか」


「駅には、まだ少し走らないと到着しないがね」


「はァ」


 返事をして、俺は窓に目をむけた。


「ちょっと、失礼します」


 行って立ちあがり、俺は窓に近づいた。外の景色に目をむける。


 昔の映画にでてくるような、広大な緑の草原が目に飛びこんできた。遠くには森が、水平線の果てには山も見える。さっきまで俺が見ていた住宅街も、アスファルトも、電信柱も、何もない。文明が一切介入していない、原初の自然がそこにあった。


「――すげー」


 我ながら間の抜けた声がでた。窓をあけたら蒸気機関車の煙が入ってくるから、それはできなかったが、停車してから外に飛びだしたら、相当に気持ちがいいだろう。夜に、森のなかで“変貌”して、思う存分駆けまわりたい。――獣人類の本能が俺にそうささやいた。こりゃ、親父やお袋の話を聞いていても、浮かれて遊び歩いて撃たれそうだぜ。


 これが強利の郷里か。


「どうかな? 自然の豊かさだけは『S&S』の自慢でね。想像していたほど悪いところでもないだろう?」


「そうですね。『P&P』に戻れるって保証されてるなら、観光に行きたいって気分くらいにはなります」


 俺はうなずいた。


「でも、今回は」


「わかっている。そもそも、パスポートもビザも発行されていない。君はここにきていないはずだ」


 三〇分後、汽車が停止した。降りて見まわす。――日本の駅に似ていた。エジソンがいた時代の西洋の駅を想像していたんだが、そこまで時代劇っぽくない。


「祖父が、日本の技師を呼んでつくらせたんだ。やはり日本が恋しかったんだろう」


 強利が解説に俺は納得した。似てるはずである。歩きまわっている人間は、白、黒、黄色と、肌の色は違っていたが、皆、普通の人間に見えた。いや、人間に擬態している亜種もいるかもしれないが、詮索する気にはならなかった。


「行こう。検疫や手続きはパスしていい」


 強利につれられ、俺は駅をでた。黒塗りの馬車が待っている。事前に手配していたらしい。強利たちがあたりまえのように乗りこんだ。俺もつづく。


「では、やってくれ」


 城へ到着したときには夕暮れになっていた。俺の感覚だが、『P&P』の日本にいたときと、時間にズレはない。気温もだ。緯度と経度はほとんど変わらないってことだな。


「強利様、華麗羅様、お帰りなさいませ」


 強利が城の前まで行くと、通用門の前で槍を持って立っていた衛兵が敬礼した。やっぱり王族である。強利が軽く手を振って近づいていった。


「後ろのふたりは、僕の友達だ。気にしなくていい」


 俺の柚香のことである。衛兵に軽く会釈して俺は強利のあとへつづいた。――城内には、メイドと、衛兵と、執事らしいのと、それから秘書か。あわてたように強利と華麗羅の前まで駆け寄ってくる。


「お帰りなさいませ。申し訳ありませんが、なにぶん突然だったもので、ご友人の方の出迎えが間に合わず」


「言い訳はあとで聞く。いまから魔法陣の部屋へ行くぞ」


 強利が言うと同時に、メイドの執事も衛兵も廊下の左右にわかれた。直立、気をつけの姿勢から深々と礼をする。西洋の人間も礼をするんだな。いや、強利と華麗羅のご先祖の文化が継承されているのか。


 魔法陣の部屋というのは、城の二階にあった。名前からおどろおどろしい部屋をイメージしていたんだが、そんなこともない。普通の客室である。照明も蝋燭の炎ではなく、電球で普通に明るかった。床に巨大な丸と、そのなかに四角や三角の図形が書かれているのが特徴的なだけである。これが魔法陣か。


「少し、ここで待っていてもらおうか」


 強利が俺と柚香に言う。俺がうなずくのを確認して、強利と華麗羅が部屋からでていった。しばらくして戻ってくる。


「なんですか、その格好?」


 俺は強利たちの服装を見て苦笑した。強利は、前回の騒動と同じ、黒いローブを着た魔法使い姿だったのである。しかも、顔にはピエロのメイク――じゃない。あれは、そういう着色をほどこしたマスクだな。となりの華麗羅も似たようなもんである。剣を振りまわすことを考慮してか、動きやすそうな服装ではあったが、プロポーションがわからないから男か女か判別できない。身長で区別しなかったら、どっちが強利でどっちが華麗羅かわからなかったところだ。


「僕が誰だか、これでわからないだろう?」


 強利がマスクを外して笑いかけた。同じように華麗羅もマスクをとる。


「マスクだけなら、君たちの分もある。服も変えたいかな?」


「俺はべつに」


「私もです」


「なら、これで問題ないな。むこうで活動する以上、顔を見られるわけにはいかないのでね」


 俺と柚香の返事を聞いた強利がうなずいた。僕たちを見て苦笑する。


「それにしても、かつて敵対していた戦士と魔道士が手を組み、新たなる脅威に立ちむかう、か。子供のころに聞かされた神話や、『P&P』の漫画で見るパターンだったが、まさか、現実に僕がそれを演じることになるとは思わなかった」


「強利様、悪のりですよそれ」


「おっと、ふざけ過ぎたかな」


 強利がマスクをだし、俺と柚香に渡した。


「では、行こう」


「行こうって、ここからですか?」


「先王の幽閉されている見張り台と、ここは直結されている。問題があったとき、すぐに連絡がつかないと意味がないのでね。そこに立ってもらおうか」


「はい」


 強利に言われ、俺と柚香、華麗羅は魔法陣の上に立った。


「では、行くぞ」


 強利が言い、何やら呪文を唱えはじめた。見えている視界が白くぼやけていく。『忘却の時刻』と似ているが、同じではない。周囲の景色が見えなくなるのではなく、複数の景色が重なって見えはじめた。潮の香りと波の音がする。


「海に行こうとしているんだわ」


 俺の横で柚香が茫然とつぶやいた。


「ここからよ? なんて距離の転移なの――」


 よくわからんが、いまから強利がやろうとしているのは桁はずれの魔法らしい。


「では、行くぞ」


 強利が一度口を閉じ、あらためて口を開いて俺たちに宣言した。それでも強利の呪文が聞こえてくる! どうなってるんだか見当もつかないまま、とりあえず俺はうなずいた。強利が両腕をあげる。


 次の瞬間、見えている世界が一気に変換した。地面の感触も。さっきまでの平らな床ではない。凸凹の岩場である。周囲の景色は夜の海だった。水平線が見える。確かに、ここはさっきまでの、魔法陣の部屋ではない。感じからすると小島――いや、これは岩礁だな。それも人為的に製造されたものだ。足元には、さっきの部屋と同じようなデザインの魔法陣が書かれている。


「着いたな」


 目の前に立っていた強利が横をむいた。つられて俺も横を見ると、少し行った場所に灯台が立っている。あそこに見張りが立ち、他国の船を見かけたら、強利のもとへ即通報ということだったんだろう。


 そしていまは、『M&M』の先王――だから、静流の伯父さんか――が幽閉されているわけだ。


「では、行くぞ」


 強利に言われ、俺たちは灯台へ近づいていった。


 しばらく歩いて気がついた。灯台の入口に、半漁人の見張りが立っている。でかい岩があったので、俺たちはそこに隠れた。こっそりのぞこうとしたら、強利が肩に手をかけてくる。


「そういうやり方が、一番相手に悟られるんだ。やめておけ」


 小さく言って、強利が右手で印を切った。何もない空間に灯台の入口の映像が浮かびあがる。見張りは、緑色の鯉に、蛙の手足がついたみたいな奴だった。三人してウロウロしている。静流の親父さんよりも泳ぐのに適した種族のように見えた。


「深きものの系統かな」


 半漁人にも、いろいろといるらしい。映像を見ながら、強利が少し集中した。


「よし。塔の内部にいるものはわからんが、入口にいるのは、あの三人だけでまちがいない。だが、普通の人間とは違うし、どこまで眠りの魔法が効くかどうか」


 つぶやいて強利が柚香を見た。


「協力してほしい。ふたりで同時に睡眠の魔法をかけよう。発動場所は、あの灯台のふもとだ。少し距離があるから効果は薄まるが、それでも相乗効果で奴らに襲いかかる睡魔は二倍以上になる」


「わかりました」


「それから、魔法が発動した直後、君と華麗羅がでてくれ。強めに当て身を食らわせればおとなしくなるはずだ」


「それはいいですけど、急所は?」


「普通の人間と同じと考えていい」


「なら簡単ですね」


 うなずき、俺は華麗羅を見た。やる気満々の顔をした華麗羅と一緒にうなずき、マスクをかぶる。強利と柚香が小声で呪文を唱えはじめた。同時に空中に浮いていた半漁人の映像が消える。


 はたして、岩場のむこうはどうなってるのか? とりあえず、強利と柚香の魔法は半漁人にも効いていると信じるしかない。俺は呪文を聞きながら飛びだす機会をうかがった。


「もうすぐ魔法の詠唱がおわるぞ」


 俺の横で華麗羅がささやいた。魔法は使えなくても、詠唱のタイミングその他はわかっているらしい。頼もしい限りだな。


「では、行くぞ。そろそろ用意しておけ。いいか、一、二、三ででるからな」


「わかりました」


「一」


 俺は岩場に左手をかけた。右手を軽くにぎる。


「二」


 音がしないように俺は息を吸った。


「三!」


 華麗羅の声を聞いた直後に俺は飛びだした。――のはよかったのだが、ここで俺は仰天した。華麗羅はワンテンポ早く岩場から飛びだしていたのである。


「あ! ちょっと華麗羅様!!」


 まずい。気が動転して叫んでしまった。俺の声に華麗羅が振りむき、タイミングが合ってないことに気づいたらしく、一瞬動きをとめる。そのむこう側で、膝を突いていた半漁人が頭を振りながらこっちをにらみつけた。俺たちの存在に気づき、酩酊状態から一気に覚醒したらしい。やばいぞ!!


「貴様! 一、二、三ででると言っただろうが!!」


「だから、三って言った直後に飛びそうと思ったら、華麗羅様がもう飛びだしてたんですよ!!」


「何を言っている!? 一、二、三ででると言ったら、三と言うのと同時に飛びだすのが基本ではないか!!」


 なんで兄貴と妹で言うことが違うんだよ。そういえば、『リーサル・ウェポン』って映画に、こんなパターンがあったような、なかったような。気分はほとんどメル・ギブソンである。


「ギャギャギャギャギャ!!」


 妙な声で半漁人どもがわめきだした。仲間を呼んでるんじゃなければいいんだが。もうやけくそで俺は半漁人どもに突っこんだ。

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