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狼男と人魚姫2  作者: 渡邊裕多郎
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第六章 異世界へ殴りこみ・その3

       2




 時刻的には、昼を過ぎた頃だったと思う。


「リハビリは終了だな。以前と同じように動けると見ていいだろう」


「ありがとうございます。俺も自信がでてきましたよ」


「それにしても、君が昼間から“変貌”できるとは思わなかった。油断していたつもりはなかったんだが、驚かされたよ」


「実を言うと、昼間にあれだけ“変貌”したのは俺もはじめてでした。あそこまで行けるとは思ってませんでしたよ」


「なるほどね。君も成長しているという話は本当のようだな」


 強利と一緒に、身体をひきずるようにしながら階段を昇って一階にあがったら、柚香と華麗羅と、お付きのメイドたちが青い顔で俺たちを見た。


「あなたたち、何をやってたの?」


「何をって、リハビリの模擬戦だが?」


「リハビリって、あんな――うおおおとか、ガオーとか、ドカーンとか」


「驚きました。あんな気合いを兄上がだすとは思ってませんでしたので」


「おや、聞こえていたか。結界に防音の術もかけておいたはずなんだが」


「あれだけ暴れたら、そりゃ、簡単にかけた結界なんかブッ飛ぶでしょ。それから、すんません。ゆで卵ありますか? なかったら焼き肉でもいいです。あと、甘いものがあるといいですけど」


 俺はメイドに頼んだ。骨折や怪我は強利の治癒の魔法でなんとかなったが、スタミナは飯を食って回復させるしかない。糖分は燃料である。それにしても、強利も容赦なかったな。閉鎖空間で爆炎魔法なんて、鼓膜が破れるかと思ったぜ。耳を塞いだら体術で関節を極めにくるし。両肩をはずされ、肘を砕かれた状態で俺ができる攻撃と言えば、噛みつきである。最終的には殺し合い寸前でやめになったが、少しあぶなかったな。お互い、ムキになりかけた。


「兄上が勝ったんですよね?」


 メイドさんが持ってきたゆで卵をパクパク食べてキャンディーをガリガリやってたら、華麗羅が強利に質問してきた。強利が手を左右に振る。


「あれはリハビリだった。勝ち負けの問題じゃない」


「それは――そうですが」


「最後までやってたら俺が負けてましたよ」


 キャンディーを飲みこんで俺は華麗羅に言った。華麗羅が安心したような顔をする。逆に納得の行かない顔で強利が俺を見た。


「僕の感覚では、まったくの互角だったが」


「だから負けるんです。ここは強利様と華麗羅様の家ですからね。もし強利様にとどめを刺せても、そのまま帰れるわけがないし」


「あ、なるほどな。そういう意味なら、君の負けだ」


「いや、そうではなくて、正々堂々と一騎打ちをしたら、どうなるかという話をだな」


 言いかけた華麗羅に俺は目をむけた。


「実戦でものを考えましょうよ。これからやるのは実戦でしょう?」


「――む。そうだったな」


 華麗羅がうなずいた。柚香は何も言わない。どっちが強いか、なんて話には興味がないんだろう。さすがは鬼族だな。


「食事はもういいかな」


 動ける、というレベルで言ったら、腹八分がいい。俺はゆで卵とキャンディーを腹に収めて立ちあがった。


「じゃ、行きますか」


「わかった。すまないが、何か着替えを」


 強利が言い、同時にメイドが会釈してでていった。


「兄上、もう行くのですか?」


 華麗羅が意外そうな顔をした。


「戴冠式は明日のはずです。忍びこむとしたら、夜が良作かと思いますが」


「それ以前にやることがある」


「やることとは?」


「先王の救出だよ。戴冠式を阻止する以上、本来の王が健在であることを示さなければならん。先王をつれて戴冠式に乗りこまなければ、こちらに正義はない」


 なかなかなことを強利は言いだした。どうすれば世間を味方につけられるか心得ている人間は違うな。さすがは王族と言ったところか。


「というわけで、いまから『M&M』に乗りこむ。どこに軟禁されているかは、もう調べがついているから安心してかまわない」


「さすがは勇賢者強利様」


 そういえば、俺が目を覚ましたとき、強利は調べものがあるとか言ってたっけ。水面下で『M&M』と情報戦をやっていたわけか。


「お待たせしました。これではいかがでしょうか?」


 あらためてメイドが入ってきた。持っているのは『S&S』の民族衣装らしいのと、それから、あれは革製の鎧か? そのあとを、西洋の甲冑が台車に乗って運ばれてくる。


「あァ、それはいらない」


 強利が甲冑を運んできたメイドに言った。強利がこっちをむく。


「君は鋼鉄製の甲冑よりも、動きやすさを重視するべきではないかな」


「あたりです。それに金属の甲冑なんて、『M&M』じゃ、溺れる重りにしかならないだろうし。革製の鎧だっていりませんよ」


 俺はメイドから服を受けとった。柔らかくて軽い。さすがは王族のお召し物だが、デザインが田舎の作業服みたいである。まァ、センスの違いは我慢するしかない。


「あの、着替え室、ありますか?」


 俺はメイドに言い、着替え室を紹介してもらった。服に袖を通して部屋をでると、強利も着替えて待っている。――そういえば、さっきの服は、噛みついてビリビリにひき破いたり、俺も無茶苦茶やったっけ。ちなみにいま着てるのは、こっちのジーンズとヨットパーカーである。華麗羅も同じだ。これでサングラスでもかければ、誰も『S&S』の王族様とは思わないだろう。俺が『S&S』の服を着て変装したのと逆だな。


「では行こうか」


 強利が言い、扉をあけた。すぐに振りむき、メイドに目をむける。


「忘れるところだった。今日から僕と華麗羅は風邪をひいて、一週間ほど学校を休んで寝こむから、そのようにな」

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