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狼男と人魚姫2  作者: 渡邊裕多郎
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第六章 異世界へ殴りこみ・その2

「じゃ、強利様、第二ラウンドは、すぐにはじめるってことで」


 華麗羅を前にしながら、俺は軽く腕を振りながら確認した。強利がうなずく。


「君がいいなら、それでかまわない。華麗羅、峰打ちでな。本当に怪我をさせると、さらにリハビリの時間がかかる」


「わかりました」


 返事と同時に華麗羅が剣を抜いた。輝きが普通ではない。磨きあげられた鋼鉄ってだけではなさそうだ。前のときと同じで、魔法剣を持ってきたらしい。


「では、行くぞ」


 峰打ちにかまえながら言うと同時に華麗羅が突っこんできた。俺の拳が届く前に魔法剣が振り降ろされる。俺はひょいと横に移動した。ものすごい速度で剣が俺の横を走る。前のときも思ったが、やっぱり素手の喧嘩とは違うな。剣の分だけ間合いが違う。考えながら俺は後方へ飛んだ。空振った剣が急に角度を変え、Ⅴ字型に跳ねあがる。これも空振りだったが、華麗羅の表情に焦りはない。理由は単純。華麗羅はあきらかに加減していたのだ。


「ふむ。この程度の動きには対応できるのか」


 魔法剣をかまえたまま、華麗羅が俺を見すえた。その目つきが変わる。


「では、これではどうかな?」


 華麗羅がつぶやいた。次の瞬間、魔法剣の輝きが増す。同時に華麗羅が突進してきた。速度が段違いである。泡を食った俺は予備動作ゼロの状態から横に飛んだ。いままでの経験で言うが、これは人間の反射神経では対応できない動きのはずだった。


 まさか、華麗羅がそれを見きるとは。


 俺の見ている前で、華麗羅は物理法則を超越した動きで進行方向を変えた。時速一〇〇キロで疾走していた車が減速せずに九〇度右折したようなものである。わけがわからないまま、俺はさらに角度を変えて横に飛んだ。その俺の顔の前を剣の切っ先が駆け抜けていく。


「ほう。よく避けたな」


 踏ん張ると言うより、床を踏みにじるようにして無理矢理に走りながら急カーブし、俺は華麗羅の背後に立った。直後に華麗羅がむきなおる。背後から殴りかかる余裕なんて俺にはゼロだった。


 驚いた。華麗羅が、ここまでの剣技を披露するとは。――いや、これは人間に可能な動きではなかった。少なくても『S&S』の常識では。


「それ、魔法剣の恩恵ですか」


「卑怯とは言うまいな?」


「安心してください」


 卑怯だなんだと言いだしたら、剣を持った華麗羅と素手の俺って時点で話がおかしくなる。というか、男と女が喧嘩してるんだから、これくらいのハンデはあっても当然か。俺は息を吸い、華麗羅に悟られないように、静かな調子で吐いた。華麗羅が俺に剣をむける。


「次は加減なしで行く。覚悟して――」


 と言いかけた華麗羅が尻餅を突いた。魔法剣は俺の右手ににぎられている。ちっとばかし強めに腕を叩いてひったくったから、痛かったかもしれない。


「はい、もう魔法剣はありませんよ。勝負ありですね」


 俺の言葉に、華麗羅は返事をしなかった。何が起こったのかわからないらしく、キョトンとしている。


「あれ? 何が起こった?」


 少しして華麗羅が口を開いた。


「それがわからないんだったら、戦場じゃ、問答無用で殺されてますよ」


 まちがったことは言ってないはずだ。――調子に乗って華麗羅がしゃべりかけた瞬間、俺は華麗羅にむかって間を詰めたのだ。俺にむけられていた魔法剣は半身になりながら紙一重で避け、華麗羅の小手を軽く手刀で叩いた俺は、にぎりが弱まった隙に魔法剣をとりあげ、ついでに足払いをかけて華麗羅をひっくり返したのである。


 時間にして、コンマ一秒くらいだったか。くるとわかっていれば華麗羅にも対応できただろうが、俺は行くと宣言しなかった。


「ちょっと待て。まだ私は本気になってないぞ」


 不意打ちを食らったと気づいた華麗羅が、あわてて立ちあがった。


「まさか、卑怯なんて言いませんよね?」


 俺の質問に、華麗羅が大人しくなった。


「悪く思わないでくださいよ。相手が本気にならないうちにひっくり返しちまうのは実戦の基本なんで」


「そのとおりだな。佐山くんの勝ちだ」


 強利が俺の背後から声をかけた。華麗羅が何か言いかけ、悔しそうに黙る。


 と思ったら、あらためて口を開いた。


「ならば、泥臭い実戦ではなく、決まりのある、道場での試合をしようか」


「それはなしですね。これは俺のリハビリが目的だったはずです。華麗羅様が勝つまで闘いつづけるデスマッチじゃないんですよ」


「それは――」


「華麗羅、もういい。次は僕が行こう」


 強利が言いながら近づいてきた。俺の間合いに入る少し前でとまり、華麗羅と柚香に目をむける。


「君たちは一階にあがっていたまえ」


「は?」


「なぜでしょうか? 兄上?」


 不思議そうにする華麗羅達に、強利が薄く笑みを浮かべた。


「少し、本気をだしてみたくなったんだ。前のこともあったんでね。僕と佐山くんとどっちが上か、試してみようと思う。あくまでもやるのは模擬戦だが、見せられない代物になる可能性もあるからな」


「強利様が本気になったら俺は勝てませんよ」


 前のときは偶然で勝ったようなもんだ。とはいうものの、これ以上に効果のあるリハビリもあるまい。言われた華麗羅が柚香をつれてでていくのを確認し、俺は強利にむかってかまえた。

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