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狼男と人魚姫2  作者: 渡邊裕多郎
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第四章 露呈・その6

 死ぬほど退屈な授業を二教科も片づけ、四時限目の体育も適当にやってビリから三番目くらいを演じて、俺は教室に戻った。ジャージを脱いで学生服に着替える。女子とは違い、男面子には専用の更衣室なんてない。


「なァ佐山」


 学ランの金ボタンをとめていたら坂本が話しかけてきた。


「なんだよ?」


「宮原の件だけど――」


「その話はなしだって言ったはずだぜ」


「そうは言うけどさ。ほら、いま、宮原もいないし。いいじゃんかよ」


「俺、おまえのこと、嫌いじゃないんだよ。できれば、これからも友達として付き合っていきたいもんだ」


「なら話を聞け。あのな、俺で良かったらできるだけ協力するぜ」


「こんな場所でそんなこと言われてもなァ」


 俺は教室のなかを見まわした。ほかの男子が俺たちを凝視している。俺が何を言いだすか、興味津々って感じだった。


「俺が静流と親しいから、なんとかうまいことやって秘密を聞きだして、あちこちに言い触らそうって企んでるようにしか見えないんだよ」


「そりゃ、おまえは宮原と仲がいいからな。なんか知ってるんだろう、くらいのことは俺でも思うぜ」


「俺はなんにも言わねェよ」


 自分の彼女の秘密をばらすような真似、誰がするもんか。もう話はおわりだと思ってたが、坂本は食い下がった。


「あのな。自分の彼女を守ろうとするのは俺もわかるぜ。ただ、ひとりでなんでもできるって思うのはやめとけ。ここは学校だぞ。おまえと宮原のふたりと、残りの連中の対決なんて、最初っから勝負にならねェ。少しは味方が必要だろうが。俺はその味方になってやるって言ってんだよ」


「うれしい言葉だけどな」


 坂本はいい奴だ。たぶん、裏があってこんなこと言ってるわけじゃないんだろうが、それにしたって、これは特殊な事態である。やっぱり言うわけにはいかない。断ろうと思い、俺が口を開きかけたときだった。


 教室の外から、女子の声が聞こえた。妙なものを見かけた疑問の声と、わずかな間をおいて、さざ波のような動揺が響き、その直後、驚きと悲鳴に変わる。聞き覚えのある声だ。このクラスの女子の声である。


 唯一、静流の声だけが聞こえなかった。


 まさか。


 俺は教室のドアをあけて飛びだした。後ろから坂本が何か声をかけてきたが、気にしてる余裕はない。廊下を突っ切って女子更衣室まで行く。女子更衣室の前には黒山の人だかりができていた。野次馬どもを押し退け、中央まで行く。


 人だかりの中央には静流がたおれていた。全身びしょ濡れである。誰かがバケツで水をぶっかけたかしたらしい。天然パーマの髪の毛は青く色を変えていた。眼鏡はずり落ち、耳は魚のエラへ変形している。スカートからのぞくのは魚の尻尾だ。もう隠しようがない。周囲の女子が、無言で静流の姿へ視線をむけていた。


「見ろ、やっぱり人魚だったじゃねェか」


 どこからか吐き捨てるみたいな声がした。誰がやりやがった!? 声のする方向へ目をむけかけたが、やめた。いまはそれどころじゃない。


「あの、宮原さん――」


 クラスの女子が、それだけを言った。それから先は台詞がつづかない。そうなって当然だろう。清楚でやさしげな静流の美貌は真っ青だった。


 俺は学ランの金ボタンに手をかけた。さっき着たばかりの学ランを脱ぎ、静流の尻尾にかけてやる。


「大丈夫だから」


 何が大丈夫なのか、俺にもさっぱり見当がつかなかったが、とにかくそう言い聞かせ、俺は静流を抱きあげた。静流が無言で俺の胸元に顔をうずめて、両手を廻してくる。


 俺は野次馬に目をむけた。


「どいてくれ」


「佐山くん、どこに行くの?」


 遠巻きにしていた女子が訊いてきた。


「保健室だよ。ずぶ濡れなんだ。そこで拭いてもらう」


 まちがったことは言ってない。俺は歩きだした。野次馬連中が左右にわかれる。


「あのさ――」


「見世物じゃないぞ」


 野次馬に言い捨て、俺は保健室まで行った。

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