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狼男と人魚姫2  作者: 渡邊裕多郎
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第四章 露呈・その5

       3




 その日の夜、静流からメールがきた。


「TV、見た? 私、どうしよう」


 どうしようもへったくれもない。


「明日は、俺が迎えに行くから」


 ほかになんて返事ができる? 勘のいい奴なら、まずまちがいなく静流がニュースの姫様だと気づくはずだ。名前を知っているクラスの連中なら確定にかかるだろう、俺が守ってやるしかない。


 翌日、早目に家をでた俺は新聞片手に静流の家まで行った。案の定、新聞には昨日のサイバーテロに関する記事が一面にデカデカと載っている。やっぱりこうなるか。あの写真が載っていないだけ、ありがたいと思うしかなかった。


 静流の家まで行くと、玄関先で静流が待っていた。いつも以上に前髪を降ろして、顔がわからないようにしている。


「おはよう」


 声をかけたら、静流がこっちに顔をむけた。


「おはよう秀人くん。あの」


「そこまで顔を隠すことはないだろう。前が見えてないんじゃないか?」


 俺は近づき、静流の前髪を少し避けた。静流が不安そうに俺を見あげる。


「あの、でも、私、昨日のニュースで」


「意識しすぎると、かえって怪しまれるぞ」


「うん。でも、やっぱり不安だし。お父さんたちもニュースを見て、どうしようって話してたから。うちのお父さん、塾の講師をしてるんだけど、仕事場に行きにくそうにしてたし、お母さんも、買い物に行けないって言ってて」


「わかってる。でも、大丈夫だから」


 なんの根拠もないが、とにかく励ましの言葉をかけ、俺は静流と手をつないで学校へ行った。


 学校まで行くと、すれ違う男子も女子も、みんな俺たちのほうに目をむけた。


「ねェ、あの人が?」


「うん、昨日のニュースのお姫様と同じ、宮原静流って名前なんだって。先輩から聞いたんだけど」


「でも、あんな髪の毛と眼鏡じゃ、顔、わからないじゃない。同姓同名の別人かもよ」


「うん、だから先輩も半信半疑な感じだったんだ。眼鏡、外してくれたら、すぐにわかるんだけど」


 等、ひそひそ言っている。俺の手をにぎる静流の力が少し増した。いつも以上に俺に身体を密着させてくる。とはいえ、ドキドキしてる場合じゃなかった。


「安心していい。俺が一緒にいるから」


 小さい声で言い聞かせ、俺たちは階段を上って教室に入った。教室に入るまではざわざわしていたんだが、静流の姿を見た途端、一瞬でクラス中の連中が沈黙する。何を言っていいのかわからず、俺は静流の席まで行った。静流が無言で座る。


 俺は静流のそばに立ち、周囲を見まわした。


「うーす佐山。昨日のニュース見たか?」


 いつもの調子で坂本が近づいてきた。こいつは本当に空気を読まない奴だな。無言で見ているほかの連中なんか無視して俺たちに話しかけてくる。


「さっきまで、ちょっと話してたんだ。あのニュースで放送していた、宮原流一って名前の『S&S』の王様と、その家族の写真がさァ――」


「『S&S』じゃなくて『M&M』って呼ばれてるらしいぜ。それから王様じゃない。王族だったらしいけど、第二王位継承者だそうだ」


「あれ、詳しいな。『M&M』なんて、ニュースで言ってたっけ?」


「いろいろあって、詳しい人から聞いたんだよ」


「詳しい人って誰だよ?」


「『S&S』から留学してきた、強利って勇者様だ」


「嘘つけ。なんでおまえが勇者様と知り合いなんだよ?」


「実を言うと、俺もさる王族の末裔でな」


「阿呆臭ァ。あ、そうそう。王族の話に戻るけど」


「うるせェ。今日は、そういう話をする気にならない。やめろ」


「いや、でも」


「いいから黙ってろ。俺も暴力は奮いたくない」


「――そうか。わかったよ」


 俺の目を見て坂本が大人しくなった。本気だと悟ったらしい。とりあえず、ほかの連中にも軽く視線をむけてから、俺は席に着いた。


 キーンコーンカーンコーン コーンカーンキーンコーン


 タイミングのいいことにチャイムが鳴った。とりあえず、表面上は普通の学校生活のはじまりである。


 担任の山田も、静流のことをちらっとは見たが、とりあえず気づかない顔をしてくれていた。ホームルームが終了し、つづけて一時限目の授業がはじまる。


 問題なく一時限目がおわって、俺がトイレに行き、戻ってきたときに異変は起こっていた。


「おい、何してるんだよ」


 意識してないのに、ずいぶんと険悪な声が口からでた。静流の席のまわりに知らない連中が二、三人ほど立っている。なんだこいつら? 俺が近づくと同時にそいつらが振りむいた。


 あ、こいつら、三年の留年組だ。下の階から、わざわざ一〇分間の休憩時間を利用してご苦労なことだぜ。以前、華麗羅に声をかけて日本刀で追いかけまわされたってのに、まだ懲りてないらしい。相変わらず粋がった顔で俺をにらみつけてきた。そいつらの隙間から静流が見える。囲まれて下をむいていたらしい。


「なんだてめえは?」


「俺は静流の彼氏ですよ。それより、静流になんか用スか先輩?」


「いや、この娘が、昨日のニュースの人魚のお姫様とそっくりなんでなァ」


 ヤンキー面した先輩が俺を上から下までながめた。


「でさ、そうなのかって聞いたら黙っちまったんだよ、この娘」


「そりゃァ黙るでしょうよ。プライベートなことですから」


「あれ、おまえも違うって言わねェんだな」


「そういうのは個人情報ですよ」


「なァ、人魚って、普段は人間の姿してるけど、水をかけたら足が尻尾になるんだろ?」


 ほかの奴がおもしろそうな調子で言いだした。


「ちょっと、頭からかけてみるかァ? そうすればこの女が、あの人魚のお姫様かどうかすぐにわかるぜ」


「冗談でもやめなさいよ。そういうの、なしですからね」


「なんでだよ」


 年下に意見されたのがおもしろくないのか、俺の前にいた奴がにらみつけてきた。


「人魚じゃないんなら、水をかけられても大丈夫だろうが。文句はないはずだぜ。なんでいやがるんだよ?」


「あのですね。そういう先輩は人魚なんですか?」


「あ? 何を言ってるんだ? てめえは」


「へェ、違うって言いませんね。水をかけて確かめてみましょうか?」


「何ィ?」


「人魚じゃないんなら、水をかけられても文句はないですよね。ちょっと、洗面所まで行ってみますか」


「なめるんじゃねーぞ、こら」


 先輩が俺の胸元をつかんできた。大した力でもない。俺は先輩をにらみつけた。


「あんたの言ったことはそういうことなんだよ。自分がやられたらいやなことを、なんで他人にやろうとする?」


「それが先輩に使う言葉かよ」


「先輩なら先輩らしい態度をとれよ」


 面倒臭いから敬語を使うのはやめにした。ちょっと力をこめて前にでる。俺の胸倉をつかんだ先輩がよろけた。ワルぶってる不良の腕力なんて、結局はこの程度である。よろけかけた先輩があわてた顔でにらみつけてきた。


「てめェ、喧嘩売ってるのか!?」


「大人しくでていかないと痛い目に会うのはおまえらだぞ」


 俺も先輩の胸倉をつかみかえした。先にやったのはこいつである。やり返して何が悪い。俺は先輩の胸倉をつかんだまま、足払いをかけた。先輩がドスンと音を立てて尻餅を突く。


「これでもつづけようって言うんなら、殴る蹴るになるぜ」


 俺は残りの連中もねめつけた。目の前で尻餅をついた先輩が、泡を食った顔で立ちあがる。そのまま俺から距離をとった。恫喝するだけで、本当の殴り合いをする根性はないらしい。


「おい、行くぞ」


「そそうだな。次の授業があるし」


「何をジロジロ見てるんだ! どけ馬鹿野郎!!」


 不良の皆様が青い顔で俺から背をむけた。ほかの連中を威嚇しながら教室をでていく。静流はずっと下をむいたままだった。瞳に不安の色が浮きでている。俺は静流の肩に手をかけた。


「うるさい奴は無視していいから。面倒臭かったら俺が追い返してやる」


 小声で言い、俺は席に着いた。

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